フレーム表示されていない場合はこちらへ
トップページ

○書評『賃料【家賃】評価の実際』

鵜野 和夫[税理士・不動産鑑定士]

(一)
 家貧にして孝子出で、国乱れて忠臣顕わるとか、周末の春秋戦国の世には、百家争鳴、孔子・老子・墨子・孫子・呉子などなどが言いたい放題の説をとなえ、その後の中国3000年の学問的基礎を築いた。

 平成への改元を機とし、土地神話の崩壊があって、落ちてきりなき無間の闇への地価の下落があり、不動産業界は青息吐息五色の息も……という状態になる。それについて不動産鑑定士も、「いくら左甚五郎だって、仕事がなけりゃ、そろそろ夜逃げの仕度か…」という、まさに文字どおりの世紀末と思われた。

 事実、評者の門前も雀羅をなしていた。

 しかし、「奇貨おくべからず」と考える貪欲な国際資本の不良債権、土地の買いたたきもあり、鑑定業界では、デューデリジェンスなど舌を噛みそうなテクニカルタームが流行りだし、それにつれてDCFとか、……数多の新説が横行し、評者も、そのおっかけに目を回す時世となった。


(二)
 これらの新説をとなえる新人も彗星のごとく輩出したが、その中で光芒を保っている本として、この本がある。

 この本は、「賃料(家賃)評価の実際」をめぐって、鑑定評価の手引きからはじめ、現行の鑑定評価のあり方、そして、鑑定評価基準まで手厳しく批判している。

 筆者は、よほど生真面目な人らしく、家賃評価の前提となる貸家の敷地である土地の評価からはじめて、その論述で、本書の2分の1を費やしている。

 たとえば、取引事例法における時点修正について、
 「従来は時点修正は取引事例より求めるのが原則であり、売物件より求めることは『鑑定基準』違反ではないが、その行為は異端視されていた」
ことを前提としながら、
 「地価公示価格は1年後、財団法人日本不動産研究所の市街地価格指数は半年後にならないと、変動率を知ることができない。実務の鑑定評価では、今現在の土地価格の変動率が必要である。1年後、半年後を待つ時間的余裕はない。現在土地価格はどういう動きをしているかを知るには、売物件からの分析は非常によい方法と思われる」
として、東京都民には割りと馴じみのある三軒茶屋や小金井を取りあげ、その売物件の価格の推移と日本銀行の「日銀短観」の中小企業の不動産のDI値を関連させながら、その有効性を実証的に検証している。

 売物件の利用について、変動率査定だけでなく、地域要因、個別的要因の把握・査定についても述べている。

 熟練した不動産鑑定士ならば、不動産業者の店頭の売希望価格を横目ににらみながら、土地価格の評価をしていたことは知る人ぞ知るであるが、この売物件価格の有効的な利用方法を実証的に理論づけ、公表したところに、この本の一の特色がある。


(三)
 建物の評価――特にその再調達原価を求めるための建築費の査定は、不動産鑑定士のもっとも苦手とするところであるが、そのための諸資料を紹介し、その資料をどのような利用をして、具体的な建築費を算出するかについて解説してあり、参考になる。


(四)
 本書の主題である「家賃」については、新規賃料と継続賃料と収益賃料について述べられている。

 新規賃料については、期待利回りと還元利回りの差異をわかりやすく説明し、取得利回りの資料の入手方法や分析の仕方が述べられ参考になる。

 継続賃料については、鑑定基準に対して鋭い批判がなされており、これは読んでのお楽しみということにしておいたほうがいいだろう。

 収益賃料について、筆者は鑑定基準を批判したうえで、収益分析法の必要性を認め、そのための方法を提示している。


(五)
 筆者の「はじめに」によれば、
 「地代の評価についても論述する予定であったが、家賃の章で大部になってしまい、地代について論述できなくなってしまった。(中略)いつか機会を与えられたら論述したいと思う」
と述べているが、この地代評価という魑魅魍魎の世界に筆者の鋭いメスが加えられることを期待している。

フレーム表示されていない場合はこちらへ
トップページ