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1.はじめに
私はあまり関心を持っていなかったのであるが、ある不動産鑑定士の方から、
「地価公示の土地残余法を見ていてふと思ったのですが、費用に「建物等取り壊し費用の積立金」があり、償還基金率ではなく元利逓増償還率を使用しています。」
と事実を指摘して、この事について疑問に思いますが、どうですかという問い合わせのメールを頂いた。
もともと私は、40年後、50年後の建物解体工事費費など物価変動等があり、考えても無駄と思っていましたので、深く考えていなかった。
40年後、50年後の解体工事費は、その時になって仮設工事費に含めて考えれば良いという考えから私は解体工事費を全く考えていなかった。
解体工事費は、鑑定依頼者から求めて欲しいと依頼があった時とか、建物が古く最有効使用で無いことによって建付減価が土地に発生している時に、建物解体工事費を求めていた。
ある不動産鑑定士が、地価公示価格の収益還元法の土地残余法では費用として、40年後或いは50年後の建物解体費の積立金を考えているが、その積立金の求め方に疑問を持つという事なので考えて見ることにした。
なお、文中の算式の累乗の表示は、当コラムでは算式表示機能がないため、「の45乗」ごとくの表示になっていることをご了承下さい。
2.地価公示価格の土地残余法の建物等取壊費用の積立金の割合
数年前から国土交通省は、地価公示価格の鑑定書を公表するようになった。
その公表鑑定書を見ると、全ての地価公示価格が収益還元法を採用して収益価格を求めているのではないが、土地価格が高い商業地、住宅地の地価公示価格においては収益還元法が行われている。
公示地の土地上に最有効使用の賃貸建物を想定し、その賃料よりその土地の収益価格を求めている。
その収益価格を求める過程において、総費用の項目の最後の方に「建物等取壊費用の積立金」の項目がある。
その「建物等取壊費用の積立金」は、再調達原価に0.1%を乗じて金額が求められている。
多くの公表されている地価公示価格の収益還元法の総費用に計上されている「建物等取壊費用の積立金」を見ると、殆どが再調達原価に0.1%を乗じて求められている。
3.0.1%の根拠
① 平成30年の「地価公示実務実施についての運用指針」
再調達原価に乗じる0.1%の数値の論理的算出根拠について、手許にある平成30年の「地価公示実務実施についての運用指針」(日本不動産鑑定士協会連合会)を見ると、
「想定建物の初期投資額(再調達原価)に建物構造に応じて0.05~0.1%を乗じて求める。」
と記されているだけで、その数値の算出根拠は書かれていない。
② 平成21年の「地価公示実務実施についての運用指針」
再調達原価に0.1%を乗じて求めるだけでは根拠説明にならない事から、算出根拠が書かれている運用指針は無いものかと、少ない所蔵の書物を探したところ、平成21年の「地価公示実務実施についての運用指針」(「21年指針」と呼ぶ。)に0.1%にする根拠が書かれているのを見つけた。その求め方を下記に記す。
イ、積立金の算式
積立金は次の算式で求めるという。
積立金=建物の初期投資額×取壊費用率×積立率
ロ、算式の条件
算式の条件は下記とすると記す。
a. 取壊費用率
S・W 6%
RC・SRC 10%
b. 基本利率 4.1%~6.0%
c. 建築費変動率(賃料変動率)
S・W 0.5%
RC・SRC 0.5%
d. 土地の純収益の継続期間(躯体の経済的耐用年数)
S・W 25年
RC・SRC 40年
ハ、積立金の割合
同書は、結論として積立金割合を次のごとく結論する。
「取壊費用率並びに積立率の算定基礎となる基本利率、建築費変動率及び土地の純収益の継続期間を下記(上記算定の条件 田原記入)の通りとすると、建物の初期投資額に対する積立金の割合は、約0.1%となる。」
こうした理由より0.1%を積立金の割合とすると述べる。
ニ、理由
0.1%を求める算式について次のごとく算式を記す。
T=建物の取壊費用の現価
B=建物等の再調達現価
α=取壊費用率
r =基本利率
g =建設費の変動率
n =土地の純収益の継続期間
a =初年度の積立金
1
T=B(1+g)のn乗×α × ───────
(1+r)のn乗
a (r-g)(1+r)のn乗
─── = ─────────────── × α
B (1+r)のn乗-(1+g)のn乗
そして計算結果として、下記のごとく述べる。
「α=6%、g=0.5%、n=25年として、r=3.9%~5.8%とすると、
a/B=0.020275~0.026206×0.06=0.122~0.157≒0.1%となり、
α=10%、g=0.5%、n=40年として、r=3.9%~5.8%とすると、
a/B=0.007780~0.012212×0.10=0.078~0.122≒0.1%となる。」
と、積立金の割合の0.1%の算出根拠を説明する。
4.算出根拠の検討
上記算出根拠について検討する。
① 取壊費用率について
取壊費用率を鉄骨造、木造を6%、鉄骨鉄筋コンクリート造・鉄筋コンクリート造を10%としているが、その割合がどうして先に分かるのか。
その割合は現在の取壊費用と再調達原価が分かっていなければ求められないものである。
② 基本利率4.1%から6%について
基本利率とは何の基本利率なのか。建物等取壊費(以後「解体工事費」と呼ぶ)に基本利率というものが必要なのか。
地価公示価格の基本利率とは土地の還元利回りであることから、解体工事費に土地還元利回りがどの様に関係しているのか、その合理性ある論理的な関係理由が分からない。
土地還元利回りは、解体工事費とは全く関係無いのでは無かろうか。
③ 建物の積立金割合は、どうして土地利率の元利均等償還率で求められるのか
a/Bの算式は、下記である。
a (r-g)(1+r)のn乗
─── = ─────────────── × α
B (1+r)のn乗-(1+g)のn乗
この算式のgを0、即ち建築費の変動率を考えないとし、αを考えないとすると、
a (r-0)(1+r)のn乗
─── = ───────────────
B (1+r)のn乗-(1+0)のn乗
a r(1+r)のn乗
─── = ───────────────
B (1+r)のn乗-1
であり、この算式は利率r、期間nの元利均等償還率の算式である。
rは土地基本利率である。土地利率の元利均等償還率がどうして解体工事費の積立金額率になるのか。その様なものにはならないであろう。
上記算式は、土地購入の為に借り入れした金額をn年間に、利率rで毎年均等に返済する金額を求める算式であろう。
④ 計算が間違っている
イ、6%の場合
a/Bの算式に6%の条件の数値を入れて求めると、
a/B=0.001572~0.001183である。
21年指針は「0.122~0.157」とあるが、小数1位の0が抜けている。
ロ、10%の場合
a/Bの算式に10%の条件の数値を入れて求めると、
a/B=0.001221~0.000778である。
21年指針は「0.078~0.122」とあるが、0.078は小数1位の0が抜けており、0.122は小数1位と2位の0がそれぞれ抜けている。
⑤ 地価公示価格の建物等取壊費用の積立金の求め方は間違っている
土地基本利率の元利均等償還率から「建物等取壊費用の積立金」が求められるという考え方には論理性が認められず、かつ途中とはいえ計算間違いによって求められた0.1%の数値に信頼性は無い。
5.RC造3階建て社宅の解体取壊費用
私は2021年3月に築60年程度経過している鉄筋コンクリート造3階建ての社宅が建つ土地の鑑定評価を行った。
そして建物の解体工事費はどれ程かかるのか教えて欲しいという鑑定評価を行った。
建物の規模は、延べ床面積869.24㎡、土地面積957㎡(間口29m、奥行33m)であった。
建物の規模より、使用コンクリート量565㎥、鉄筋使用量60トンと見込み、解体工事費を下記のごとく計算した。
①
|
仮設養生費
|
757000
|
円
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|
単管足場、養生シート、用水費
|
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|
②
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建物解体費
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|
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イ、内部解体費
|
3303860
|
円
|
|
ロ、コンクリート解体費
|
6780000
|
円
|
|
ハ、鉄筋切断費
|
1200000
|
円
|
|
ニ、小計
|
9283880
|
円
|
|
|
≒9280000
|
円
|
|
|
|
|
③
|
解体処理費
|
|
|
|
イ、内部処理費
|
4346200
|
円
|
|
ロ、コンクリートガラ
|
12995000
|
円
|
|
ハ、小計
|
17340000
|
円
|
|
|
≒17340000
|
円
|
|
|
|
|
④
|
解体費合計
|
27377000
|
円
|
|
|
|
|
⑤
|
諸経費 0.15
|
4106550
|
円
|
|
|
|
|
⑥
|
総計
|
31483550
|
円
|
|
|
≒31480000
|
円
|
|
|
(36200円/㎡)
|
|
建物延べ床面積㎡当り36,200円である。
6.RC造3階建ての賃貸住宅の新築工事費
RC造3階建ての賃貸建物の新築費工事費はどの位か。
国土交通省が発表している地価公示価格が採用している工事費を、公開されている公示鑑定書で見れば、例えば東京港-5の令和3年地価公示価格の収益価格の想定建物は、RC造3階建ての賃貸建物である。
その想定建物は延べ床面積303.00㎡である。
建物価格は、79,500,000円である。
㎡当り工事費は、
79,500,000円÷303.00㎡=262,376円/㎡≒262,000円円/㎡
である。
7.解体工事費
① 建築工事費に対する解体工事費の割合
RC造3階建ての住宅の建物の解体工事費は、先の分析で㎡当り36,200円と求められた。
RC造3階建ての賃貸住宅の新築工事費は、前記より㎡当り262,000円と求められた。
RC造建物の建築工事費に対する解体工事費の割合は、
36,200円
─────── = 0.1381≒0.138
262,000円
13.8%である。
② 新築建物の解体工事費
地価公示価格のRC造の賃貸住宅の建物の新築工事費は79,500,000円であった。この建物の解体工事費は、
79,500,000円×0.138=10,971,000円≒10,970,000円
と求められる。
8.解体工事費の積立金は償還基金率で求めるべき
① 積立金という用語の使用
地価公示価格が採用しているRC造3階建ての延べ床面積303.00㎡の躯体の経済的耐用年数は45年としている。
地価公示価格は45年後の解体工事費を「建物等の取壊費用の積立金」として総費用に計上している。
「積立金」としている事から、経済的耐用年数45年が経過した後は、同じ建物規模を建て直す為に、その解体工事費を45年間に渡って均等に積立るということを考えていると判断される。
② 45年後の解体工事費の積立金
45年後の解体工事費がどれ程かかるか。それは誰でも分からない。
工事費が上がっているからという予測も下がっていると云う予測も、当てにならない。
45年後の金額の予測など誰にも分からない事から、現在の工事費と同じであろうと云うことにして、現在の工事費金額が45年後も相当額であろうとして1097万円の金額が解体工事費として必要と考え、45年後に1097万円になるように毎年積み立てればよい。
③ 償還基金率
積立金をその様に考えれば、その金額は年金の積み立てと同じと云うことになる。その年金の積み立てに使用される数式は、償還基金率の算式である。
償還基金率の算式は、利率をr、年数をnとすれば、
r
──────────
(1+r)のn乗-1
である。
償還基金率について、私の著書『賃料<家賃>評価の実際』p258(田原著 清文社)で次のごとく記述する。
「償還基金率とは、n年後1円にするために毎期末に預託すべき率をいう。
耐用年数n年の建物の取得価格を、n年後に再取得するために、年利率r毎年末に一定額を償却額とし積立てる場合に使用する率が償還基金率である。」
この「」の中の“建物の取得価格を、n年後に再取得する"の部分を"解体工事費をn年後に取得する"に置き換えればよい。
では償還基金率を求める利率rはどうするかと云うことになる。
任意に4%とか6%とする訳には行かない。何故その利率にするのかの論理の裏づけが無ければならない。
45年間均等額を積み立てて1097万円にすると云うのであれば、1/45の均等額がもっとも良い金額となる。利率は1/45=0.0222の利率となる。
しかし、金銭の経済行為には利子というものがつきまとう。それは複利で考えるのが通常である。
そうした事を考えると、0.0222を償還基金率を求める利率rとし、n年数を45として償還基金率を求めればよい。
上記償還基金率の算式に、数値を代入すれば、
0.0222
──────────
(1+0.0222)の45乗-1
の算式となる。
この算式を解けば、償還基金率=0.013167≒0.01316である。1.316%である。
本件の場合の償還基金率の求め方をまとめて云えば、期間45年の平均償却率は1/45=0.0222である。この平均償却率0.0222を利率として、期間45年の償還基金率を求めると、償還基金率は0.01316である。
④ 毎年の積立金額
イ、経済的耐用年数45年後の解体工事費は1097万円である。
償還基金率は0.01316である。
毎年の積立額は、
1097万円×0.01316=14.436528万円≒14.44万円
14.44万円と求められる。
ロ、年額14.44万円を45年間積立れば、本当に1097万円になるのか。その疑問が発生する。
そのことを立証しないと上記14.44万円が妥当であるという信頼性が欠けることになる。
ハ、毎年14.44万円を45年間積み立てると云うことは、それは毎年年金として14.44万円受け取るということと同じである。
45年後の年金の総額が1097万円になるかということになる。
年金終価率の算式は、
(1+r)のn乗-1
──────────
r
である。償還基金率を求める算式の逆数である。
rは0.0222であった。数値を代入し、計算すれば下記である。
(1+0.0222)の45乗-1
─────────────
0.0222
2.686052-1
= ─────────────
0.0222
1.686052
= ─────────────
0.0222
= 75.948288
年金終価率は75.948288と求められた。
14.44万円にこの数値を乗ずれば良い。
14.44万円×75.948288= 1096.693万円≒1097万円
45年後の金額は1097万円になる。
毎年14.44万円の積立額は適正と云うことになる。
⑤ 積立金割合=解体工事費割合×償還基金率
新築工事費から毎年の積立金額を求めるには、
積立金額=新築工事費(再調達原価)×解体工事費割合×償還基金率
の算式で求められる。
具体的に求めると、新築工事費は79,500,000円である。解体工事費割合は0.138である。
償還基金率は0.01316である。
79,500,000円×0.138×0.01316=144,378円≒144,400円
上記計算から積立金割合は、
積立金割合=解体工事費割合×償還基金率
となると判断される。
具体例で示すと、
0.138×0.01316=0.001816
である。
新築工事費に上記積立金割合を乗じて求めると、
79,500,000円×0.001816=144,372円≒144,400円
積立金額144,400円が求められる。
積立金額割合は、
積立金割合=解体工事費割合×償還基金率
である事が実証された。
9.最後に
45年後の積立金額を、元利均等償還率(その変型である元利均等逓増逓減償還率も含む)で求めることは非論理的で間違いである。
毎年均等金額で、45年間かかって目的とする金額を積立てる毎年の積立金額を求める場合は、償還基金率を使って求めるべきものである。
加えて建物の解体工事費を求めるのに、土地利率を使用するなど非論理性も甚だしくなかろうか。両者にどの様な関係があるのか私には理解し難い。
現行の地価公示価格の「建物等取壊費の積立金」では、45年後に解体工事費不足が生じて取壊半壊状態になりかねない。それでは何の為の積立金であるかわからなくなる。
現行の地価公示価格の「建物等取壊費の積立金」の求め方は、非論理的で間違っている事から、根本的に見直すべきと私は思う。
鑑定コラム1569)「Evaluation60号記念論文 鑑定基準改正の重要点」
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鑑定コラム639)「借地権付建物の基礎価格」
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