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1525) イチロー3000本安打 見事なり

 大リーグのマーリンズに所属するイチローが、3000本安打を達成した。

 大リーグは、1876年に発足した。140年の歴史を持つアメリカ大リーグにあって、わずか30人の選手しか達成していない3000本安打を、日本人プレイヤーであるイチローは打ってくれた。

 2016年8月8日(日本時間)の午前7時半過ぎ、コロラド州デンバーにある野球場クアーズ・フィールドにおいて、対コロラド・ロッキーズ戦で、あわやホームランではないかと思われる右翼外野壁に当てる大飛球を打った。

 打球は外野壁に当たって跳ね返り、外野の芝生を転々する間に、イチローは3塁ベースに到着した。

 3塁打である。記念すべき3000本安打を3塁打で樹立した。

 3塁ベースに立つイチローに向かって、3塁側のダックアウトからマーリンズの選手達が大声を上げ、両手を挙げて走り寄った。

 一番最初に脱兎のごとくダッグアウトを飛び出し、イチローに飛び付き抱き合ったのは、イチローを師と仰ぐ若い2塁手のゴードンであった。

 ゴードンは、昨年(2015年)はナショナル・リーグの首位打者と盗塁王になった。今年はシーズン始まってすぐに、禁止薬物の使用が発覚し、80試合の出場停止処分を受け、停止処分明けて試合出場したのが、7月29日である。その日のゲームは、イチローが3000本安打まであと2本で、フル出場したが4-0で終わった試合である。

 イチローはゴードンに目をかけ、ゴードンの打撃と走塁に自分の昔を思い出したと云っていた。ゴードンが薬物使用で出場停止の時には、何故手に染めたのかと非常に落胆していた。

 そのゴードンは、脚の早いのを利して、真っ先に尊敬するイチローに飛びついた。

 次々とマーリンズの選手がイチロー飛びつき、抱き合い、体、頭を叩き、3000本安打を祝福する。コーチも駆けつけ、ハグする。

 試合は一時中止状態になった。

 ベンチにいたボンズ打撃コーチも駆け寄り、最後にイチローと抱き合った。

 スタンドの観衆も立ち上がり、大きな拍手を送った。拍手の嵐である。

 マーリンズのダッグアウトの上近くの観客席にいる一人の女性が、手持ちの大きな数字が書かれた看板の数値を「3000」に書き替えて、高く掲げる。

 「イチメーター」である。「イチメーター」を掲げて飛び上がって喜ぶエイミー・フランツ女史の姿を、ゲームを衛星生中継するNHK BSのテレビカメラは流す。

 イチメーターのエイミー女史は、イチローがマリナーズに入ってしばらくして、面白いようにヒットを打ちまくるイチローに魅せられ、そのヒット数を掲げる手製のボードをライト後の外野席で掲げることを思いついた。

 イチローがマリナーズを去っても続いている。

 イチローの3000本安打達成を見届けたいと思ったが、フロリダのマーリンズの球場に行き、又ゲームの試合を追っかけるにはお金がかかる。

 そこで、エイミー女史は、ネットで基金を募った。3000ドルの資金援助をネットで募集したところ、約3倍の8,357ドルが集まったという。いわゆるクラウドファンディングである。

 この資金でエイミー女史は、マイアミ、シカゴ、デンバーと、イチローの3000本安打達成を追いかけ、各球場でイチメーターを掲げることが出来た。

 この事実を知ると、アメリカという国の懐の深さを感じる。

 イチローは、3塁ベース上に立ち、ごま塩頭をみせ、ヘルメットを頭上高く掲げ、立ち上がって拍手してくれる観客に向かって感謝する。

 試合が再開され、次打者のヒツトでイチローが本塁ベースを踏み、ダッグアウトに戻ると、同僚選手からの再びの抱擁、握手、体叩きの祝福である。

 イチローの顔に笑顔が戻った。

 祝福の騒ぎが終わり、ダッグアウトのベンチに座り、背筋を伸ばして続行する試合をイチローは見つめる。

 イチローの頬より汗が流れる。

 イチローの目がしばたく。

 イチローは、そっとサングラスを掛ける。

 グランドの守備の時にはサングラスを掛けるが、ベンチではサングラスを掛けない。サングラスを掛けるには何か訳があるであろう。

 サングラスの下の頬から滴がしたたる。それをそれとなくぬぐう。

 3000本安打を達成するまでの苦しさが瞬時に思い出され、そしてそれが喜びに変わった感情を押えきれない涙であろう。

 一日置いた新聞記者の共同インタビューで、2998安打になってから、9日間ヒットが出なかった時の心境について、イチローは次のごとく述べている。

 「人に会いたくない時間もたくさんありましたね。誰にも会いたくない、しゃべりたくない。僕はこれまで自分の感情をなるべく殺してプレーをしてきたつもりなんですけども、なかなかそれもうまく行かずという、という苦しい時間でしたね」(フルカウント)

 現在、ブラジルのリオ・デ・ジャネイロでオリンピックが開かれている。
 2016年8月8日は第3日目である。

 2日目に、萩野公介選手が、水泳の400メートルメドレーで金メダルを取得した。

 4日目の8月9日には、体操5種目団体で、日本チーム(内村航平、加藤凌平、山室光史、田中佑典、白井健三)が、金メダルを取得した。

 12年前の2004年8月、アテネでオリンピックが開かれた。
 女子マラソンで、野口みずき氏が、金メダルを獲得したオリンピックである。

 その時、NHKの放送は、オリンピック一色で、他のスポーツは放送しなかった。

 イチローが、大リーグで活躍しているにもかかわらず、全くその試合を流してくれなかった。

 そのことについて、鑑定コラム181)「オリンピック報道に追いやられたイチローの大記録樹立の瞬間」は、次のごとく述べている。

 「オリンピック大会で報道されない間に、イチローは大リーグ記録を塗り替える大記録を次々と作っていた。
 大リーグ新人4年間連続200本安打、3回目の月間50本安打等である。
 これら記録は、大リーグの監督、コーチに言わせると、大リーグの50年間の中で2,3人の人しか達成出来ない偉業であると言う。

 新人4年間200本安打の歴史的一打は、ホームランで達成した。
 その歴史が作られる瞬間を、テレビとはいえ同時間の生放送で歴史の決定的瞬間に立ちあい、その感激を味わいたかった。

 しかし、オリンピック競技放送中心の番組編成であっては、その様な個人的な願望は通じない。」

 今回のイチローの3000本安打達成のゲームのテレビ放送は、NHKは根気良くつきあってくれた。それが故に、偉業達成の瞬間を目で見る事が出来た。

 NHKに感謝する。

 鑑定コラム181)を読んで改めて思い出したが、その時のアメリカン・リーグの打撃部門一位をダントツで走っていたのは、マリナーズのイチローであった。

 ナショナル・リーグの打撃部門一位を同じくダントツ走っていたのは、ジャイアンツのバリー・ボンズであった。

 そのボンズが、3000本安打を打ったイチローをグランドで抱き祝した。

 ボンズは、現在マーリンズの打撃コーチとして、イチローと同じ球団に所属している。

 ボンズは、2935本の安打を打っている。本塁打は752本で大リーグ最高である。野球殿堂入りしてしかるべきであるが、薬物使用疑惑があり、殿堂入り反対派は、「いかなる事情があろうとも、薬物使用が判明した選手の殿堂入りは認めるべきでない」という主張を展開している。

 かっての両リーグの首位打者同士が、3000本安打の偉業達成で、グランドで抱擁する姿は泣かせる。

 大リーグ機構は、2016年8月1日〜7日のナショナル・リーグ週間MVPに、イチローを選んだ。この1週間のイチローは10打数2安打である。

 2安打であるにも係わらず、大リーグ機構は、イチローを週間MVPに選んだ。

 それは、3000本安打達成に対する敬意であろう。


  鑑定コラム1524)
「10−0」

  鑑定コラム181)「オリンピック報道に追いやられたイチローの大記録樹立の瞬間」


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