○鑑定コラム



フレーム表示されていない場合はこちらへ
トップページ

田原都市鑑定の最新の鑑定コラムへはトップページへ

前のページへ
次のページへ
鑑定コラム全目次へ

121)「ADR(裁判外紛争解決)の新しき可能性を求めて」特集の『Evaluation』10号の発行

 不動産鑑定評価の実務理論雑誌の『Evaluation』10号が、プログレスより2003年8月15日発行された。

 巻頭言は明海大学の前川俊一教授が、「鑑定評価理論は存在するか」という課題で論説するが、それについては、『鑑定コラム』120)で既に述べたから省略する。

 10号の特集はADRについてである。
 ADRとは何かと思われる人が多いと思われるが、「裁判外紛争解決」という制度である。
 紛争解決は弁護士、裁判官にまかせておけばよいではないかと思われるが、弁護士自身ですらADR制度による紛争解決が必要といっているのである。

 司法書士の稲村厚氏が「ADRからMediation」の課題で、ADRへの具体的な取り組み方を、自らの経験を踏まえてきわめてわかりやすく述べている。これを読めばADRとはどういうものかよくわかる。

 ADRは調停者ではない。紛争解決の代理人でもない。紛争解決の為の当時者の対話の場の提供者である。
 解決案を提示したり、誘導したり、説教したりするものではない。当時者が対話によって解決を見出すのを援助するだけである。

 紛争の両当事者が共にwin−winの解決方法を見つけるものであり、一方が勝ち、他方が敗けたという感情を持って紛争を解決するものではないと、稲村厚氏はADRの特徴を説明する。
 
 土地家屋調査士の松岡直武氏は、「境界問題センター創設にみる専門職能を活用したADR」という課題で、土地家屋調査士の分野からみたADRへの取り組み方を論ずる。

 土地境界は個人の私有財産権の権利の保護であり、かつ社会整備基盤の基礎であると説き、境界紛争問題解決にこそ土地家屋調査士の能力と知識と技術が必要であり、それら紛争解決にADRの制度を利用することによって、それら紛争解決が、より的確に迅速に廉価で行われるであろうと説く。

 不動産鑑定士の河村龍氏は、「ADRと21世紀における不動産鑑定士の役割」の課題で、ADRとはどういうものか、今迄のいきさつを述べる。

 不動産鑑定としてADRになじむものはどういうものかについて例示し、代理権の付与されることの働きかけが必要と説く。
 そして、法律改正も視野に入れた不動産鑑定士のADRの取り組み方を組織図で説明する。

 司法書士の上野義治氏と不動産鑑定士の難波里美氏は共著で、「民間ADRの現状と問題」の課題で、大阪で既にADRに取り組んでいるNPO法人「シヴィルプロネット関西」の活動状況を報告する。
 109件の実例の経験を得て、弁護士法72条の問題をクリアすることがADRの最大の問題と説く。

 特集以外の一般論文では、公認会計士の丸山弘明氏が「原則倒産時代」の課題でROAの大切さを説く。
 倒産したマイカルと新潟鉄工所の財務分析を例にして、ROAの重視、時価会計の早期導入をとり入れれば、最悪の結果は避け得られたのではないかと予測する。そして数字のわかる強い企業幹部の育成が必要と説く。

 アメリカ留学中の不動産鑑定士の荒川正子氏が、アメリカの鑑定評価の倫理規程である「USPAP」について、アメリカから原稿を送信され、紹介している。
 それは「ユースパップ」と呼ばれ、不動産鑑定評価基準の上位にランクし、米国法律に準拠する鑑定評価の倫理規程である。その内容は非常に厳しいものである。

 日本もいずれUSPAPを無視して鑑定評価出来なくなるのではなかろうかと思われる。USPAPの導入を考えるべきではないかと私は思う。

 不動産鑑定士補の茂木伸一氏は、「市場主義一辺倒で本当によいのか」の課題で、最近の『Evaluation』の4回連載の「ファーカス」の三國仁司氏の論説に対し、不動産鑑定評価の原則に立ち戻って、みずみずしい反論を行っている。

 三國氏には4回に分けて、外部からみた不動産鑑定士の姿を遠慮なく述べて欲しいと執筆依頼したのであるが、三國氏の不動産鑑定士への厳しい切り口に対し、不動産鑑定士等がやっと一部反論してくれた。もっと多くの反論等を期待したのであるが。

 その他紹介したい論文が残るが、紙面の都合上割愛する。

 最後に編集後記氏は、ADRに対する不動産鑑定士の対応の遅さを憂いている。
 これは前号で述べた「競売評価」に対する不動産鑑定士の態度と全く同じである。
 競売の最低売却価額に固執する評価人である不動産鑑定士の代表達が、自民党司法制度改革委員会の聴問会での説明で、議員立法で法律を作ってしまうという力を持っている自民党の次をになう切れ者の若手議員達に、こっぴどく叱りとばされ、甚だしくひんしゅくを買ったという噂が漏れ伝わってくる。

 編集後記氏は、そのことも知ってか知らずか、「鑑定業界はいつまで「酒とバラの日々」が続くと考えているのだろうか」と警鐘を鳴らす。

 『Evaluation』10号の購入は大都市の日販、東販ルートの書店か、発行会社のプログレス(03-3341-6573)に購入申込して下さい。頒価は1500円+消費税です。
プログレスのホームページ http://www.progres-net.co.jp/ でも購入申し込みが簡単に出来ます。

フレーム表示されていない場合はこちらへ トップページ

田原都市鑑定の最新の鑑定コラムへはトップページへ

前のページへ
後のページへ
鑑定コラム全目次へ