適正な時価とはどういうものであろうか。
適正な時価について述べる。
(1) 東京高裁の判決
適正な時価について、東京高等裁判所は平成11年8月30日((行コ)第151号相続税課税処分取消請求控訴事件)に、次のごとく判示した。
「法22条は、相続に因り取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価によるものと規定しており、右にいう『時価』とは、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められている価額(客観的な時価)をいうものと解される。」
(2) 最高裁の判決
適正な時価について、最高裁判所は平成15年6月26日(民集57巻6号723頁、判タ1127-276)に次のごとく判示した。
「適正な時価とは、正常な条件の下に成立する当該土地の取引価格、すなわち、客観的な交換価値をいうと解される。」
この東京高裁の判示による「客観的な時価」及び最高裁が判示する「客観的な交換価値」は、同じ事を云っている。
即ち、不特定多数の人々の間で自由に取引されたことによって決められる価格が客観的に交換価値であり、それが適正な時価というのである。
相続税の路線価は、不特定多数の人々の間の自由な取引によって決められた価格であると云える価格ではない。
とすると、相続税路線価で時価を論ずることは、東京高裁、最高裁の判例違反ということになろう。
適正な時価は、相続税の路線価によって求められるものではない。
適正な時価は、不動産鑑定評価の専門家である不動産鑑定士による不動産鑑定評価に依らざるを得ない。
上記最高裁の判例は、吉田修平弁護士が勝ち取ったものであるが、吉田修平弁護士一人で、裁判で勝てるものでは無い。不動産価格の訴訟では、不動産鑑定士の強烈な協力が無ければ、訴訟に勝てるものでは無い。
この最高裁の判例は、森田義男不動産鑑定士が全面的に協力し、勝ち取ったものである。
(3) 不動産鑑定評価では
@ 不動産鑑定評価では、「適正な時価」という用語及び概念は無い。
それに相当するものは、「適正な価格」という用語・概念であろうと思われる。
「時価」の「時」とは、その時点を指し、それは価格時点をいう。
「価」とは、価格を指す。
「時価」とは、価格時点の価格ということである。
それ故、「適正な時価」とは、価格時点の適正な価格という価格概念である。
A 不動産鑑定評価における不動産の価格とは、不動産が有する権利の対価又は経済的利益の対価と解されている。不動産が有する経済価値を価格として表示したものが不動産の価格である。
B 不動産鑑定は、不動産の適正な価格を求めることを云う。
その価格には、正常価格、限定価格、特定価格、特殊価格の種類があるが、それら種類にあっても適正な価格を求めるのが不動産鑑定である。
C 価格を代表する正常価格とはどういうものか。それについて鑑定基準は、次のごとく云う。
「正常価格とは市場を有する不動産について、現実の社会的経済的情勢の下で合理的と考えられる条件を満たす市場で形成されるであろう市場価値を表示する適正な価格をいう。」(平成26年改正鑑定基準国交省版P16)
(4) 結論
「適正な時価」とは、価格時点の適正な価格であり、それは現実の社会・経済情勢のもとで合理的市場で形成される市場価値を表示したものといえる。
(2016年6月21日桐蔭横浜大学法学部で学生に講義した講義録より)