○鑑定コラム


フレーム表示されていない場合はこちらへ トップページ

田原都市鑑定の最新の鑑定コラムへはトップページへ

前のページへ
次のページへ
鑑定コラム全目次へ

1610)減価償却費を必要諸経費から外すべきでない

 改正鑑定評価基準では、積算法の必要諸経費としての減価償却費について、「償却前の純収益に対応する期待利回りを用いる場合には計上しない」(26年改正鑑定評価基準国交省版P33)という文言が付加されたが、これについて考え述べたい。

 減価償却費を考えずに賃料の必要諸経費を求めることは、賃料は賃貸不動産の投下資本を、将来に向かって回収するものであり、その将来に向かって投下資本を回収すると云うことを無視することになる。それは賃料の本来の目的を否定することになることから間違っている。

 このことについて、具体的数値で、間違いを説明する。

 (モデル想定条件と減価償却費)

 a, 土地  
   土地面積    150u
      土地単価    2,000,000円/u
      土地総額        300,000,000円

 b, 建物    建物延べ面積  750u   賃貸面積 525u    建築後     10年    経済的耐用年数 40年    残存経済的耐用年数 30年 再調達原価 250,000円/u 再調達原価総額 187,500,000円 建物価格 140,625,000円
 c, 収入 支払賃料        5,000円/u  賃料収入(月額)      2,625,000円 賃料収入(年額)      31,500,000円 共益費(月額)      750円/u 共益費(年額)      4,725,000円 保証金         支払賃料の10ヶ月 保証金運用利率      0.02 保証金運用益      525,000円 収入計      36,750,000円 空室率(5%)      0.95 総収入 36,750,000円×0.95=34,912,500円
 d, 必要諸経費 減価償却費 140,625,000円/30= 4,687,500円 公租公課 支払賃料の0.1 31,500,000円×0.1= 3,150,000円 小規模修繕費 再調達原価の0.3% 187,500,000円×0.003= 562,500円 大規模修繕費 再調達原価の1.0% 187,500,000円×0.01= 1,875,000円 維持管理費 支払賃料の8% 31,500,000円×0.08= 2,520,000円 火災保険料 再調達原価の0.1% 187,500,000円×0.001= 187,500円 計   12,982,500円
経費率 12,982,500円÷34,912,500円=0.372
 e, 純収益           34,912,500円−12,982,500円=21,930,000円
 f, 還元利回り(期待利回り)
   21,930,000円 ────────────────= 0.05 300,000,000円+ 140,625,000円
 g, 積算賃料 
    (300,000,000円+ 140,625,000円)×0.05+12,982,500円 =35,013,750円
月額賃料 35,013,750円÷12=2,917,813円 u当り賃料 2,917,813円÷525u=5,558円

 上記モデルにおいて、建物の投下資本は140,625,000円である。

 この140,625,000円を価格時点以降30年間で、毎年4,687,500円づつ回収していくのである。

 他の経費を支払いながら、還元利回り5.0%で利益を得つつ、30年間で建物の投下資本の外に、土地の投下資本300,000,000円も、月額u当り5,558円の賃料で回収するのである。

 これが価格時点以降30年間で、賃料による投下資本の回収の方法である。

 一方、減価償却費を必要諸経費に入れない考え方は、キャッシューフローの考え方で、現金支出以外のものは利益とする考え方である。

 減価償却費は現金支出で無い事から、それは利益と把握される。

 減価償却費で投下資本の回収など考えていない。

 何年経てば投下資本が回収されるのか、毎年投下資本のどれ程が回収されているのか金額が分からない。

 価格時点以降、将来に向かって長い期間かかって投下資本を回収するのが賃料であることから、投下資本の回収年と金額が分からなく、かつ、含まれていないということでは、それを賃料と云うことは困難ではなかろうか。賃料の性質を持っていない。

 減価償却費を必要諸経費に入れない考えの場合、投下資本の回収は、価格時点時点の割り戻し利益の総和を売却して回収する。

 価格時点で売却して投下資本を回収するのであることから、売却する不動産の価格時点以降、例えば30年間に渡る減価償却費など考える必要はないであろう。

 賃料は、価格時点で売却して投下資本を回収するというものでは無い。

 価格時点以降30年間で投下資本を回収しょうとするのである。当該不動産は、投下資本回収後も持ち続ける。売却することを考えていない。

 そうであれば、当然毎年どれ程の金額を回収するのか考えなければならないであろう。それを考えないことは賃料でないということになろう。

 価格評価と賃料評価とは全く性質が異なっている。

 価格評価で減価償却費を考えないことは合理的で説明がつく。

 賃料評価で減価償却費を考えないことは、賃料の性質を否定するもので非論理的である。

 こうした理由から、私は必要諸経費に減価償却費を考えない賃料の求め方は間違いと判断する。

   (新著『改訂増補 賃料(地代・家賃)評価の実際』(プログレス 2017年2月発行)P105より転載加筆して)


フレーム表示されていない場合はこちらへ トップページ

前のページへ
次のページへ
鑑定コラム全目次へ