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1677)大成建設しっかりせい

 建設会社大手の大成建設の2017年8月12日のホームページに、下記の記事がプレスリリースされた。

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【「(仮称)丸の内3−2計画 新築工事」作業所における事故について】  2017年8月11日、弊社が施工しております「(仮称)丸の内3−2計画新築工事」におきまして3名の作業員が亡くなられる事故が発生いたしました。
 事故によりお亡くなりになられました故人に対し、心よりご冥福をお祈り申し上げますとともに、ご遺族の皆様には、深くお悔み申し上げます。
 弊社といたしましては、この度の事態を重く受け止め、原因究明のための捜査等に全面的に協力し、全社を挙げて再発防止、安全対策の徹底に努めてまいります。(2017年8月12日 15:45)
 
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 丸の内のビル建設で、大成建設はえらいことをしてくれた。

 丸の内の東京会館建替建設工事現場で、ビル5階部分のエレベータピット(エレベータが上下する縦穴の空間)に架かる足場から、作業中の3人の男が約25メートル真っ逆さまに落下して死亡する建設事故が発生した。

 3人は命綱を付けていなかったのか。

 8月11日は、新しく作られた「山の日」という公休日である。

 公休日は、建設現場も休みでは無いのか。

 公休日に、建設現場は、労働者を働かしていたようである。

 警察、労働基準監督署の厳しい取り調べが始まるであろう。

 施工現場所長、安全管理責任者等は、厳しい責任追及が行われることになる。

 大成建設は、今年(2017年)4月にも、請け負っている新国立競技場でも作業員が過労自殺している。

 東京オリンピック開催に合わせるための、過密工程の犠牲では無いのかという指摘もある。

 私は、恐らくそうであろうと思う。

 大成建設の現場で、立て続けに過密日程が原因では無いのかと思われる建設事故が起こると、「大成建設しっかりせい」と云わざるを得ない。

 建設省、国土交通省、労働省、厚生省、厚生労働省は、長い年月を掛けて、建設労働災害の減少・撲滅に取り組んで来た。

 その効果は著しい。勿論大成建設も建設現場の安全管理に取り組んで来た。

 しかし、建設現場の人身事故が発生した。残念である。

 行政、建設会社が一体となって取り組んだ建設現場の安全性の対策効果は、建設労災事故の死亡者数を見ればわかる。

 かっては、土木、建築併せて売上高80億円で建設労災死者1人と云われていたのが、現在は売上高3000億円に一人と云われるまでに減少している。

 このことについて、建設業労働災害防止協会が発表している建設労災死者数を、財務省のシンクタンクの財務総合政策研究所が発行している『財政金融統計月報』の「法人企業統計年報特集」の建設業の売上高と、対比してみた。

 建設業の売上高を調べるにはいささか時間がかかったが、不動産鑑定の何かの分析に、いつか使えるのではなかろうかと思い、時間と労力を使って調べた。下記である。

 一人当り金額は、

    建設業売上高百万円÷建設労災死者数=一人当り金額百万円
  
である。


元号 建設業売上高 百万円 建設労災死亡者 人 一人当り金額 百万円
昭和47年度 20432163 2402 8506
昭和48年度 26841631 2440 11001
昭和49年度 34163262 2015 16954
昭和50年度 35939628 1582 22718
昭和51年度 39263903 1451 27060
昭和52年度 43002910 1461 29434
昭和53年度 51321676 1583 32421
昭和54年度 59129269 1404 42115
昭和55年度 67944997 1374 49451
昭和56年度 74783859 1173 63754
昭和57年度 75657597 1113 67976
昭和58年度 74083335 1106 66983
昭和59年度 77805967 1083 71843
昭和60年度 82049037 960 85468
昭和61年度 90276401 927 97386
昭和62年度 100088005 983 101819
昭和63年度 118870028 1106 107477
平成元年度 124517347 1017 122436
平成2年度 140218513 1075 130436
平成3年度 158978163 1047 151842
平成4年度 167681953 993 168864
平成5年度 170072930 953 178461
平成6年度 169584613 942 180026
平成7年度 170033934 1021 166537
平成8年度 169876708 1001 169707
平成9年度 160188491 848 188902
平成10年度 151923024 725 209549
平成11年度 144367434 794 181823
平成12年度 144545411 731 197737
平成13年度 139353666 644 216388
平成14年度 135446420 607 223141
平成15年度 127455370 548 232583
平成16年度 124800681 594 210102
平成17年度 128856215 497 259268
平成18年度 134990845 508 265730
平成19年度 135015542 461 292875
平成20年度 126277563 430 293669
平成21年度 120700516 371 325338
平成22年度 111299608 365 304930
平成23年度 109453339 342 320039
平成24年度 114991717 362 317657
平成25年度 122500418 342 358188
平成26年度 128514826 377 340888
平成27年度 122713468 327 375271


 建設業売上高は、昭和47度は20兆4321億円で、平成27年度は122兆7134億円である。

 建設業労災死亡者は、昭和47年度(1972年)には、2402人である。それが平成27年度(2015年)は、327人と著しい減りようである。

 急に減ったのでは無い。毎年少しずつ、少しずつ行政と建設業者が減少に取り組んで来た努力の結果である。

 建設労災死亡者一人に対する建設業の売上高は、昭和47度は85億円に一人の死亡者であったのが、平成27年度には3752億円に一人ということになった。

 平成27年度の死亡者327人の工事種別の人数は、

                 土木工事    107人
         建築工事    149人
         設備工事         71人
                   計            327人

である。

 建築工事の死者が一番多い。

 その事故原因で最多は墜落によるもので、86人である。

            86
                    ───── ≒ 0.58                             
            149
 
 墜落事故による死者が6割近くを占める。

 今回の大成建設の3人の死者も墜落によるものである。

 土木工事の水力ダム工事による死者は、平成27年度は2人であった。

 ダム工事そのものが少なくなったために、工事犠牲者が少なくなっただけで、ダム工事の犠牲者は多い。

 昭和31年(1956年)完成の佐久間ダムは、898億円の総工事費で、犠牲者は96人と聞く。

            898億円
                    ────── ≒ 9.4億円                         
              96人

 ダム工事費9.4億円で一人の死者が出ていた。

 昭和44年に完成した関西電力の黒部第四ダムは、総工事費513億円、工事犠牲者171人であった。

           513億円
                   ─────  = 3億円                             
           171人

 ダム工事費3億円で一人の死者が出ていた。

 黒部第四ダムが、どれ程の難工事であったのかは、犠牲者に対する総工事費割合金額を知れば分かろう。

 丸の内の東京會舘建替工事で亡くなられた3人の冥福をお祈りする。


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