鬼平犯科帳ファンに取っては、密偵のボスである大滝の五郎蔵親分の存在は大きい。
その密偵の親分である大滝の五郎蔵の役を演じていた俳優綿引勝彦氏が亡くなった。
厳つい顔をし、にらみの利く目と低い声であるが良く通る声で、火付盗賊改方の長官長谷川平蔵の密偵の役を演じていた俳優綿引勝彦氏が、2020年12月30日に亡くなったと新聞、テレビは伝える。75歳で原因は膵臓癌の悪化と伝える。
遠い昔、NHKの朝のテレビドラマ「おはなはん」の主演女優の樫山文枝氏が結婚すると聞いた時、若くぽっちゃり顔の笑くぼの似合う可愛いオンワード樫山のお嬢さんのハートを射止めた男は誰かと思っていたら、綿引勝彦氏であった。
池波正太郎原作の中村吉右衛門主演の『鬼平犯科帳』のテレビドラマを見ていたら、大滝の五郎蔵として盗賊の親分を綿引勝彦氏が演じていた。
捕らえられた大滝の五郎蔵は、火付盗賊改方の長官である長谷川平蔵の人柄に惚れ込み、吉右衛門演じる長谷川平蔵の密偵として働くことになる。
密偵五郎蔵親分は、いつの間に密偵の親分になり、『鬼平犯科帳』ドラマに無くてはならない存在となる。
密偵五郎蔵親分を演じる綿引勝彦氏は、劇団民芸で宇野重吉氏に演技を叩き込まれたのか、目の動き、仕草、立つ位置取り、話の間合いは、歌舞伎役者の重鎮である中村吉右衛門の演技に対応して遜色ないものであった。
池波正太郎は、現中村吉右衛門の父親の先々代の松本幸四郎を火付盗賊改方長官長谷川平蔵を想定して物語を書いていたと聞いた。
鬼平の役を先々代の松本幸四郎、丹波哲郎、中村錦之助演ずる『鬼平犯科帳』をみたが、私が一番良いと思うのは中村吉右衛門演じる鬼平である。
同じものを何度も見ている。
見ていても飽きない。見る人を引きつける何かがある。密偵達の動き、吉右衛門の話の間あい、動作の間の取り方が良いのであろうか。カメラワークが大変良い事からこれも影響しているのか。そして、ナレーターである元NHKアナウンサーであった中西龍の歯切れの良いナレーションが良い。
エンディングの京都・東福寺通天橋の紅葉、今宮神社の東門前町風景、そしてその映像と共に流れるジプシー・キングスのギターの音曲が、又素晴らしい。
密偵5人のうち、相模の彦十の江戸家猫八氏、小房の粂八の蟹江敬三氏そして大滝の五郎蔵の綿引勝彦氏も亡くなってしまった。
残るのはおまさの梶芽衣子氏、伊三次の三浦浩一氏の二人だけとなった。ドラマでは伊三次は死んでいる事になっているが。
追う盗賊の動きがはっきりと読めなく、役宅の縁側に座る吉右衛門の平蔵が、庭に侍る綿引演じる五郎蔵に、
「五郎蔵、お前だったらどう動く?」と問いかける平蔵と五郎蔵の抑制された姿の映像が思い出される。