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2199)建物還元利回りが、土地還元利回りの年賦償還率とはおかしいではないか

 公益社団法人日本不動産鑑定士協会連合会による地価公示価格の「収益還元法の運用指針等」によると、

        土地還元利回り=基本利率(r)−賃料の変動率(g)

となっている。

 不動産鑑定評価の主流は地価公示価格であると思い込んでいる若い不動産鑑定士も多くいて、私が幾ら「地価公示価格の評価は不動産鑑定の主流では無い。」と云ってもそれを聞き入れない不動産鑑定士が多くいる。

 困ったことである。賃料あっての価格であるのに、価格あっての賃料であると思い込んでいる。

 賃料の評価を一度もやった事が無い不動産鑑定士がゴロゴロいる。

 一度賃料の評価を行い、法廷で相手側代理人弁護士から、徹底的に自らの賃料評価の鑑定書の不備を指摘される経験をすれば、如何に自分が未熟な不動産鑑定士であると初めて分かるであろう。

 そうした苦い経験でもしない限り「不動産鑑定評価の主流は地価公示価格である」という考え方は変わらないようである。

 上記土地還元利回りの算式から「賃料の変動率」を無視すれば、或いは0%とすれば、

     土地還元利回り=基本利率

と云うことになる。

 地価公示価格は、土地取引事例比較法の他に収益還元法の手法によって求められる。

 収益還元法は、公示地の上に新築の賃貸建物を想定し、その賃料の総収入から、総費用を差し引き、純収益を求め、その純収益から建物に属する収益を控除して、土地残余収益を求める。

 土地残余収益を土地還元利回りで除して、土地収益価格を求める。

 この求め方は、土地残余法と呼ばれる収益還元法である。土地残余法にはもう一つの方法があるが、地価公示価格では使用されていない事から、その方法についてはここでは論じない。

 建物に属する収益は、建物価格(新築の建物工事費に同じ)に建物還元利回りを乗じて求める。

 建物還元利回りは、次の様にして求められている。

 建物を躯体、仕上、設備に区分しその経済的耐用年数を決める。全体を1として、その構成価格割合を求める。

 基本利率と経済的耐用年数より、躯体、仕上、設備の年賦償還率を求める。

 基本利率は、上記した土地還元利回りを使用している。

 求められた3つの年賦償還率を構成価格割合を乗じて1つの利率を求める。この求められた利率が建物還元利回りとなる。

 具体的に数値を使って説明する。

 一つの公開された地価公示価格の鑑定書に書かれている収益還元法を例にして述べる。

 土地面積221uの土地上に木造2階建の賃貸共同住宅を想定する。建築基準法に違反しない賃貸建物である。

 建物価格は新築工事費で、29,500,000円とする。

 総収益から総費用を差し引いた純収益は2,297,308円とする。

 基本利率は4.8%とする。賃料の変動率は無く0%とする。

 建物の躯体の経済的耐用年数は35年で、その構成価格割合は45%とする。

 建物の仕上の経済的耐用年数は20年で、その構成価格割合は45%とする。

 建物の設備の経済的耐用年数は15年で、その構成価格割合は10%とする。

 躯体の年賦償還率は、利率4.8%、期間35年を元利均等年賦償還率の算式を当てはめて、

                 0.048×(1.048)の35乗
             ─────────────  =0.0595                   
                   1.048の35乗−1
と求める。

 同様にして、仕上は、利率4.8%、期間20年の元利均等年賦償還率(年賦償還率に同じ)0.0789と求める。

 設備は、利率4.8%、期間15年の年賦償還率0.0950と求める。

 求められた躯体、仕上、設備の年賦償還率に構成価格構成割合を乗じる。
  0.0595×0.45+0.0789×0.45+0.0950×0.1=0.07178
 建物の還元利回りを0.07178と求める。

 建物価格にこの割合を乗じる。
    29,500,000円×0.07178=2,117,510円
 2,117,510円が建物に帰属する収益である。この収益を土地建物から得られた純収益より控除する。
      2,297,308円−2,117,510円=179,798円
 未収入期間に考慮した土地に帰属する純収益を考えないとすれば、179,798円が土地に残余する収益、即ち土地に帰属する収益である。

 土地の還元利回りは基本利率の4.8%を採用し、
              179,798円÷0.048=3,745,792円

3,745,792円÷221u(土地面積)≒16,900円/u
土地収益価格をu当り16,900円と求める。

 この求め方が地価公示価格の収益還元法の求め方である。

 地価公示価格が不動産鑑定評価の主流と思い込んでいる不動産鑑定士が多い事から、この求め方で、地価公示価格以外の土地の鑑定評価の収益還元法の価格が求められている。

 上記建物還元利回りの求め方がおかしいと思わないか。

 土地の還元利回りの4.8%の利率の年賦償還率がどうして建物の還元利回りになるのか。

 土地の還元利回りが、その土地利率を年賦償還利率の算式に入れる事によって、性質の異なる建物の還元利回りに化けるとは不思議なことである。まるで奇術である。

 建物の還元利回りが、年賦償還利率の算式を使って土地還元利回り4.8%から0.0718に求められると云うのであれば、その年数は下記で求められる。
             0.048×1.048のn乗
        ────────────= 0.07178                          
           1.048のn乗−1
 この算式からnを求めれば、n年数は23.564年である。

 つまり、例題の建物の還元利回りは、土地還元利回り4.8%の利率、期間23.564年の年賦償還率と云うことになる。

     年賦償還率=利率+償還基金率

の算式は、先の鑑定コラムで記した。

 年賦償還率は、上記より0.07178である。

 償還基金率は、利率4.8%、期間23.564年より0.02378と求められる。
      利率+償還基金率=0.048+0.02378=0.07178
 上記算式の「利率」は、土地還元利回りで土地の利率である。「償還基金率」の算出の利率は、同じく土地還元利回りの利率である。

 年賦償還率0.07178には、建物に関する利率はどこにも入っていなく、土地還元利回りの利率を複利と期間で求められたものである。それが性質の異なる建物の利率にどうしてなるのか。その求め方は合理的根拠に欠け、論理的に認めがたいものである。

 0.07178は、利率4.8%で、返済期間23.564年の元利均等の土地購入の為の借入金の年間返済利率であり、それが、建物の還元利回りになるという合理的根拠は無いという反論がなされるのでは無かろうか。

 建物の還元利回りが、土地利率の複利と期間で形成されるという考えは少しおかしいでは無いか。
 

  鑑定コラム2198)
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