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2371) 30年前の利回り法の出現に唖然とする  

 継続賃料(家賃)の利回り法の求め方で、30年前頃の求め方による利回り法の賃料鑑定に遭遇し唖然とした。

 その利回り法の求め方は、従前賃料合意時点(直近合意時点)の継続賃料利回りを現在の価格時点の基礎価格に乗じて継続賃料を求めていた。

 利回り法の求める算式は、

     基礎価格×継続賃料利回り+必要諸経費
である。

 私の目にした鑑定書は、ある理由のため土地建物の固定資産税・都市計画税が分からない為に、継続賃料利回りは必要諸経費込みの(粗)継続賃料利回りを使用して求めていた。
             従前合意時賃料収入
      ───────────────── = 粗継続賃料利回り        
           従前合意時の土地建物の価格
の求め方による粗継続賃料利回りである。

 具体的例で、下記に説明する。例であるから数字は丸目とする。

 従前支払賃料は、月額150万円とする。

 年額では、
      150万円×12=1800万円
となる。

 従前賃料が合意されたのは、平成23年(2011年)とする。

 その時の土地建物価格(基礎価格)は4億3千万円とする。

 粗継続賃料利回りは、
                2400万円
           ───────  =0.0418≒0.042                          
               43000万円
4.2%と求められる。

 一方、価格時点は令和元年(2019年)とする。

 その時の土地建物価格(基礎価格)は6億8千万円とする。

 この6億8000万円に4.2%を乗じて、利回り法賃料を
             68000万円×0.042=2856万円(年額)
             2856万円÷12=238万円
月額238万円と求めるという求め方である。

 従前賃料に対して、価格時点の利回り法賃料は
                   238万円
             ───────= 1.586≒ 1.59                         
                   150万円
59%アップである。

 近くに基準地価格がある。その価格は、
      平成23年7月   u当り1300万円
      令和元年7月   u当り2010万円
である。

 基準地価格の変動率は、
        2010万円
              ──────  = 1.546 ≒ 1.55                      
              1300万円
55%アップである。

 利回り法賃料の上昇率と土地価格の上昇率と殆ど同じである。地価上昇の利益が、そっくり賃料に跳ね返り、賃借人が賃料として地価上昇分を負担するということになる。

 従前賃料合意時点の粗利回り4.2%を価格時点の粗継続賃料利回りとして採用して、価格時点の利回り法賃料を求めた賃料鑑定書を発行した不動産鑑定士は、その鑑定書の中で、次のごとく説明している。

 「継続賃料利回りについて、直近合意利回りを補正して使用することが不動産鑑定評価基準の中でも提唱されているが」と平成26年改正鑑定基準で利回り法が改正されたことは認めているが、続けて次のごとく述べる。

 「具体的な方法について言及がなく、合理的、論理的に説明することが困難であると判定され、また恣意的に陥ることを勘案し、本件においては、直近合意利回りを継続賃料利回りとしてそのまま採用し、その結果については試算賃料の調整において検討を行う。」と述べる。

 直近合意時点の継続賃料利回りを価格時点の継続賃料利回りにして行う利回り法の求め方は、平成26年改正鑑定基準前の古い考え方の求め方である。

 改正前の鑑定基準の利回り法の規定を記すと、下記である。

 「継続賃料利回りは、現行賃料を定めた時点における基礎価格に対する純賃料の割合を標準とし、契約締結時及びその後の各賃料改訂時の利回り、基礎価格の変動状態、近隣地域若しくは同一需給圏内の類似地域等における対象不動産と類似の不動産の賃貸借等の事例又は同一需給圏内の代替競争不動産の賃貸借等の事例における利回りを総合的に比較考量して求めるものとする。」

 旧基準は、従前賃料合意時点の継続賃料利回りを「標準とし」て求めよとしていた。

 「標準とし」という文言は、その数値を中心に考えよと云う意味合いである。

 大半の不動産鑑定士は、従前賃料合意時で求められた継続賃料利回りを、そのまま価格時点の継続賃料利回りに採用していた。

 「標準とし」という文言は、そうした意味合いを持つ。

 例として出した上記利回り法も、従前賃料合意時点の粗継続賃料利回りを、価格時点の粗継続賃料利回りに採用して、利回り法賃料を求めている。

 それでよいでは無いかという人はいるであろうが、その結果は地価変動をそのまま賃料が負担するということになる。これが適正な賃料の求め方なのか。

 上記例で、賃料変動率は、1.10であるとする。

 スライド法の賃料は、
     150万円×1.10=165万円
と求められる。

 スライド法の165万円が適正水準なのか、利回り法の238万円が適正水準なのか、本鑑定コラムを読む人には分かるであろう。

 従前賃料合意時点の継続賃料利回りを価格時点の継続賃料利回りに採用することは、上記例のごとくの現象を引きおこすことから間違いであると、私は25年程前から主張していたのである。

 私の主張は放ったらかしのごとく見えたが、平成26年(2014年)改正鑑定基準で利回り法も改正された。

 改正利回り法は下記である。

 「継続賃料利回りは、直近合意時点における基礎価格に対する純賃料の割合を踏まえ、継続賃料固有の価格形成要因を留意しつつ、期待利回り、契約締結時及びその後の各賃料改訂時の利回り、基礎価格の変動状態、近隣地域若しくは同一需給圏内の類似地域等における対象不動産と類似の不動産の賃貸借等の事例又は同一需給圏内の代替競争不動産の賃貸借等の事例における利回りを総合的に比較考量して求めるものとする。」(26年改正鑑定基準国交省版P35 )

 改正鑑定基準は、「標準とし」が「踏まえ」に変わり、新しく比較考量事項の筆頭に「期待利回り」が付け加えられた。

 従前賃料合意時点の継続賃料利回りから価格時点の継続賃料利回りを求めることについて、2005年12月10日付けプログレス社から発行した拙著『賃料<地代・家賃>評価の実際』P224で、価格時点の継続賃料利回りを求める算式を次のごとく記している。

                                              賃料変動率
     従前合意賃料時の継続賃利用回り × ────────────     
                                           当該不動産の変動率
 現在は2022年である。

 2005年に従前合意賃料時の継続賃料利回りをそのまま採用して価格時点に使ってはダメと指摘し、価格時点の継続賃料利回りへの換算式が発表されているのにもかかわらず、20年近く経った今でも、求め方が分からないとか、恣意的に陥るとかと云って、従前合意賃料時の継続賃料利回りを価格時点の継続賃料利回りに使用する不動産鑑定士が、未だいる事実を知って私は愕然とする。


  鑑定コラム2370)
「利回り法の利回りから浮かび上がる借家権価格の存在」


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