価格時点の継続賃料利回りは、従前賃料合意時点(直近合意時点)の純賃料とその時点の土地建物価格より求められる「直近合意時の継続賃料利回り」が分からなければ求めることが出来ないということが、上記算式より分かる。
平成26年に鑑定基準は改正されたが、それ以前の利回り法は、従前賃料合意時点の継続賃料利回りを、価格時点の継続賃料利回りとして利回り法賃料が求められていた。
それによってどういうことが生じたかと云えば、継続賃料利回りが従前賃料合意時点の利回りであるため、土地価格が2倍になれば、利回り法賃料は2倍程度になり、土地価格が1/2になれば、利回り法賃料は1/2程度になると云う現象が生じた。土地価格の変動に振り回されて求められていた。
その様な現象が生じる利回り法の鑑定基準の規定は間違っていると私は主張したが、なかなか主張は受入れられなかった。
裁判での法廷の証人喚問や代理人弁護士作成の準備書面、不動産鑑定士作成の意見書において、田原鑑定士の独善的な主張であるとか、国土交通省が決めている鑑定評価基準が間違っていると主張するとんでもない不動産鑑定士であると云う批判を多く受けた。
平成26年に鑑定基準は改正され、その時、継続賃料の利回り法も改正された。
従前賃料合意時点が「直近合意時点」の用語に変更され、その時点の継続賃料利回りを「標準とし」というのが、「踏まえ」に変わり、「継続賃料固有の価格形成要因に留意し」という文言が加わった。
そして考量事項の筆頭に「期待利回り」が新しく入った。
継続賃料の「継続賃料利回り」と新規賃料の「期待利回り」とは無関係では無いと改正鑑定基準は認めたのである。
直近合意時点の継続賃料利回りを価格時点の継続賃料利回りに換算する算式は、上記に記した。
借家権価格の存在が浮かび上がり、目に見えるようになることを、具体例を出して説明する。
15年前に賃貸人と賃借人の間で、賃借人から賃貸人に好意的なある事件があり、それ以後賃料の変更が無く、15年前の土地建物価格(直近合意時の基礎価格)に対する継続賃料利回りは1.5%であったとする。
直近合意時点から価格時点までの間に基礎価格は16%上昇し、賃料は35%上昇したとする。
新規賃料の期待利回りは4.0%とする。
15年前の直近合意時点の継続賃料利回りから価格時点の継続賃料利回りを求めるには、前記の算式を使用すれば良い。
1.35
1.5%×──── = 1.745% ≒ 1.75%
1.16
価格時点の利回り法の継続賃料利回りは1.75%である。
上記算出の式を説明すると、15年前から価格時点まで不動産価格の変動もなく、賃料変動もなければ、継続賃料利回りは1.5%である。
賃料変動がなく、不動産の価格変動のみあったとすると、
1
1.5% ×─── = 1.2931%
1.16
の利回りになる。
しかし、賃料変動が1.35あったため、
1.2931%×1.35=1.754%≒1.75%
の利回りになるということである。
新規賃料の期待利回りは、4.0%であった。両者を並べると、
期待利回り 4.0%
継続賃料利回り 1.75%
である。
同じ建物の賃貸借の同じ時点の賃料で有りながら、両利回りに大きな開差が生じた。この開差を縮めようとして足して2で割って、安易に継続賃料利回りを求めてはいけない。
何故、この様な大きな利回りの差が生じたのかと考えるべきである。
この利回りの差こそが、当該賃貸借契約に借家権価格が発生しているという証しである。
4.0%と1.75%の開差が借家権価格の存在を、数値として見せてくれているのである。借家権価格が存在することが目に見えたのである。
新規支払賃料と現行支払賃料の差額を求め、一定期間の差額の現在価値を求めれば、借家権価格が現実化し、その借家権価格を価格時点の基礎価格で除せば、借家権割合が求められる。
利回り法の期待利回りと継続賃料利回りの数値が、借家権の存在を教えてくれ、借家権価格と云う目に見えない存在が目にみえる存在にしてくれるのである。
賃料が著しく安い水準にある時、スライド法賃料と差額配分法賃料とに大きな開差が生じた時も、借家権価格が発生している可能性は高い。
借家権価格は、建物賃貸借契約に伴い発生存在するものであり、その存在は利回り法の期待利回りと継続賃料利回りの数値によってわかり、目に見えてくる。
こうしたことから、鑑定基準が云う「賃貸人から建物の明渡しの要求を受け、借家人が不随意の立退き」によってのみ借家権価格が発生するというごとく錯覚させる考え方は、借家権価格の存在を可視化することができる事を知らなかった古い時代の考え方である。
借家権価格は建物賃貸借契約に伴い常に存在する可能性が高く、その存在が可視化出来るのであることから、鑑定基準のこの文言は削除するべきものである。次の鑑定基準の改正には、削除見直して欲しい。
「鑑定基準のこの文言は削除すべきものである」と云うことは、鑑定基準は間違っていると指摘することと同じと捉え、借家権価格が存在していると裁判官に判断されると不利になる相手側代理人弁護士から準備書面にて、再び、田原不動産鑑定士の独善的な考え方であると強い口調で否定的に批判されるとか、鑑定書が間違っていると指摘された相手側の不動産鑑定士が反論意見書で、田原不動産鑑定士は、国交省が決めている鑑定基準に従わず、逆に鑑定基準が間違っていると主張するとんでもない不動産鑑定士であると、自分達の損得の物差しでの判断で、再び、批判・非難を浴びることになるのであろうか。
出る杭は打つ、打たれるという日本人が持っている打算が後に隠されている同調性的特有の悪い癖は直さなければ、物事の進歩はないと私は思っているが。
鑑定コラム2371)