2370) 利回り法の利回りから浮かび上がる借家権価格の存在
ここ1ヶ月半の間、立て続けに4件の借家権価格がからむ賃料評価と裁判所の鑑定人不動産鑑定士が書いた鑑定書の意見書の作成に忙殺され、鑑定コラムのコラムアップも途絶えがちになっていた。鑑定コラムを訪れた方々には申し分け無い。
忙殺された賃料の案件は、1つは、賃借して約40年、その間家主は建物の維持管理、修繕は全くせず、雨漏りの修理、ペンキの塗り替え等は賃借人が全て行った来た。その土地建物を最近第3者が購入し、倍を超える家賃の請求を不動産鑑定書をつけて請求して来た。
2つは、30年余のサブリース事業で、家賃は近隣地域並の水準を支払っているにも係わらず、建物所有者は転貸先の賃料が高いことを知り、なお高額な家賃の請求を、新規賃料の鑑定書をつけて請求して来た。
3つは、賃借して45年程度経つ地下街の店舗家賃で、入居時に支払賃料の100倍を超える保証金等の一時金を支払っていた家賃の値上げである。
4つは、賃借して30年になろうとする。前建物所有者との間で決めていた家賃は、それだけの理由があって安かった。新しく建物購入した賃貸人が賃料は安すぎると云って、不動産鑑定書をつけて倍を超える賃料増額請求をして来た。
いずれの家賃も新規賃料と比較すればかなり安い。安い賃料であるが、安い賃料には、それなりの理由がある。
長期の賃貸借に伴い借家権価格が自然発生して、それによる低額家賃の場合もある。
4つの内、2件は裁判所の鑑定人不動産鑑定士作成の鑑定書への意見書の作成である。
裁判所の鑑定人不動産鑑定士に云いたい。もっとしっかりした鑑定書を書いてくれないか。裁判官は専門家である不動産鑑定士が書いた鑑定書は適正であると盲目的に信用して鑑定書の通りの判決を書いてしまう。
借家権とはどういうものなのか。
鑑定評価基準は、借家権とは借地借家法が適用される建物の賃借権を云うと定義する。
そして借家権の価格については、「賃貸人から建物の明渡しの要求を受け、借家人が不随意の立退きに伴い事実上喪失することとなる経済的利益等、賃貸人との関係において個別的な形をとって具体に現れる」と述べる。(平成26年改正鑑定基準 国交省版P50)
この記述からすると、借家権価格は、賃貸人からの建物明渡請求を受け、賃借人が不随意な立退要求に応じる場合にしか発生しないごとくと思われてしまう。
明渡要求の場合にしか借家権は発生しないのかということは無い。
借家権価格というものは、借家人が賃貸借していることによって有する経済的価値であるから、明渡請求を受けないと借家権価格発生しないものでは無い。
明渡請求を受けなくとも、長期の賃貸借契約によって自然発生的に生ずるものもあり、過大な一時金の授受によって、賃貸人が賃料以外に利益を得た場合に権利価格は発生する。
借家権価格が発生していると云っても、その権利価格は具体的に目に見えるものでは無い。それ故に、借家権価格の存在を否定する人も多い。
しかし、借家権価格の存在が目に見えてくる場合がある。
それは、継続賃料を求める手法の1つの利回り法を行う過程に借家権価格の存在が目に見えてくる。
継続賃料を求める手法の1つである利回り法とは、
価格時点の基礎価格×価格時点の継続賃料利回り+価格時点の必要諸経費
の算式で求められる継続賃料である。
利回り法は、土地建物の基礎価格より得られる利回りの利益から賃料を考える手法である。
利益を一定とすれば、基礎価格が2倍に上昇すれば、利回りは1/2になる。基礎価格が1/2になれば、利回りは2倍になる。これは市場経済の原理である。
賃貸人は地価の変動によって収益が増減するのでなく、地価変動に関係なく、従前得られた利益は賃料改訂後にあっても得たいと思う。ただし周辺の賃料が上昇しているのであれば、それは手にしたい。
下記算式は、そうした要因を反映して、従前賃料合意時に得られた賃料利益の利回りを、賃料改訂後にも確保出来る利回りに変換することが出来る算式である。
賃料変動率
直近合意時点の継続賃料利回り× ───────────
不動産価格変動率
=価格時点の継続賃料利回り
1.35
1.5%×──── = 1.745% ≒ 1.75%
1.16
価格時点の利回り法の継続賃料利回りは1.75%である。
1
1.5% ×─── = 1.2931%
1.16
の利回りになる。
1.2931%×1.35=1.754%≒1.75%
の利回りになるということである。
期待利回り 4.0%
継続賃料利回り 1.75%
である。