2566) 地代は底地基礎価格で求ていた地裁の鑑定人がやっと更地基礎価格にした (2)
鑑定コラム2563)「地代は底地基礎価格で求ていた地裁の鑑定人がやっと更地基礎価格にした (1)」の続きである。
更地基礎価格について論述する。
6.鑑定基準の継続賃料の実質賃料と支払賃料
@ 鑑定基準の継続賃料の実質賃料と支払賃料の規程
鑑定基準は、継続賃料の実質賃料と支払賃料について次のごとく規程する。
「対象不動産の経済価値に即応した適正な実質賃料は、価格時点において想定される新規賃料であり、積算法、賃貸事例比較法等により求めるものとする。 対象不動産の経済価値に即応した適正な支払賃料は、契約に当たって一時金が授受されている場合については、実質賃料から権利金、敷金、保証金等の一時金の運用益及び償却額を控除することにより求めるものとする。」(26年改正鑑定基準 国交省版P34)
鑑定基準は、実質賃料は、新規賃料であると規程する。新規賃料とは、正常実質賃料ということである。その新規賃料は、積算法、賃貸事例比較法等により求めるものとする。
支払賃料は、実質賃料から権利金等を控除した賃料である。
A 家賃の場合の新規賃料
古い建物に入居している事務所等の継続家賃を求める場合、その場合もまず最初に新規賃料を求めることから始める。
積算賃料と賃貸事例比較法(収益分析法は賃料収益では循環論になり行わない。売上高からの企業収益分析法は精度が保たれなく行われていない。)より、新規実質賃料を求める。
その積算賃料を求める場合、その基礎価格となるのは、土地価格、建物価格の所有権価格である。
相続税路線価図には、借家権価格割合が30%等と記載してある。
賃貸借契約が長期に及んでいる場合には、その継続賃料には借家権価格が発生している場合があるが、新規実質賃料は、その借家権価格については考慮しない。考慮するのは、継続賃料を求める段階になってからである。
差額配分法の賃料は、借家権価格を考慮しない新規実質賃料と現行賃料とを比較して、そこに大きな賃料差が生じている場合に、その原因は何であろうかと分析し、その原因が借家権価格の存在と分かった時に、借家権の価格による要因修正を行うのである。
新規賃料(家賃)を求める時に、30%の借家権価格割合の修正を行った価格を基礎価格に採用しない。
これと同じことが、地代の新規地代にも云える。
新規地代を求めるのに、借地権価格が発生していて、その借地権割合が更地価格の60%であったとすると、60%を控除した価格(底地価格)を、基礎価格にして求めることはしない。
更地価格に、期待利回りを乗じて、土地公租公課を加算して、新規地代を求める。
家賃の新規賃料を求めるのに、借家権割合30%が発生していても、30%を控除した価格を基礎価格にして新規賃料(新規家賃)を求めないと同じである。
地代と家賃の求め方が違うという反論があろうが、両者は同じ賃料の範疇のものである。
地代も家賃も求め方は同じである。同じでなければ、論理の一貫性がない。
異なると主張する方が、間違っている。
7.賃貸事業分析法は更地の収益である
鑑定基準は、平成26年改正された。
その改正に伴い地代の求め方に、「賃貸事業分析法」が取り入れられた。
地代は家賃と無関係では無く、むしろ家賃より地代を求めるという考え方が、国土交通省によって示されたのである。
平成26年改正鑑定基準は、次のごとく云う。
「建物及びその敷地に係る賃貸事業に基づく純収益をもとに土地に帰属する部分を査定して宅地の試算賃料を求める方法」であると云う。(26年改正鑑定基準 国交省版P51)
この求め方は、従前にあっても、収益分析法の変型として行っていた手法である。
改正鑑定評価基準は、今回「賃貸事業分析法」という名称にして独立させたのである。
この手法は、土地残余法によって土地利益を求め、その利益を借地人と土地所有権者で配分し、土地所有権者の配分部分が、地代の純地代となり、これに必要諸経費の公租公課を加算したものが、新規実質地代となる求め方である。
「賃貸事業分析法」の求めている収益は、更地の収益である。
但し、注意しなくてはならないのは、この手法の必要諸経費の中には、建物の減価償却費が含まれていなければならないことである。つまり純収益は、償却後純収益であるということである。
償却前純収益の土地残余収益で行った場合、残余収益に公租公課を加算した額が、当該土地の地代の新規地代となる事から、土地賃借人は減価償却費を負担して地代を支払うことになる。
建物の所有者は土地賃借人であり、減価償却費は建物所有者(借地権者)が投下資本を回収する金額である。地代に含まれるものでは無い。
このことに気づかずに新規地代を求めている鑑定書を少なからず目にする。注意されたい。鑑定基準にも付記として、このことを記すべきである。
土地価格の収益還元法は、償却前収益に変更したために、その感覚で、賃貸事業分析法の土地残余収益を求めてしまうのであろう。改正鑑定基準が間違を広めている。
鑑定基準を改定する士協会連合会の担当委員会がどこか私は知らないが、担当委員会会長は、早急に対応してもらいたい。 一人の不動産鑑定士の意見をそのまますぐに採用するわけには行かない等と云って、面子云々を考えて居る場合では無い。
更地の事例、「配分法が適用できる場合における建物及びその敷地の取引事例」に訂正するのに何年かかった。利回り法の「標準とする」を変更するのに何年かかった。その間、裁判の鑑定は混乱し続けてきた。同じごとく再々に地代の裁判を混乱させてくれるな。
上記述べたことより、地代の基礎価格は、更地価格であることを改正鑑定基準は明言していることになる。
8.地代の基礎価格は更地価格である
上記5.6.7より地代の基礎価格は、更地価格である。
更地価格より借地権価格を控除して求めた底地価格を地代の基礎価格にして良いとは、鑑定基準は一言も云っていない。
鑑定コラム2563)「地代は底地基礎価格で求ていた地裁の鑑定人がやっと更地基礎価格にした (1)」
鑑定コラム1319)「地代の基礎価格は、更地価格である」
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