○鑑定コラム
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1.はじめに
弁護士から、この地代の鑑定書を見て意見書を書いてくれと、この20年近くの間に、10数回、東京地裁鑑定人不動産鑑定士の地代の鑑定書を渡されてきた。
その地代鑑定書は、基礎価格を底地価格にして、地代を求めている鑑定書である。
底地価格を基礎価格にして、また地代を求める鑑定書かと10数回思いながら、鑑定人の地代の求め方は間違っているという意見書を、代理人弁護士を通じて裁判所に提出して来た。
しかし、当該鑑定人不動産鑑定士は、全く評価の姿勢を変更せずに、違う案件の継続地代の鑑定書の地代の求め方も同じで、基礎価格は底地価格として、期待利回りは3.5%前後の利率で地代を求めている。
こちらもめげず、鑑定人不動産鑑定士の地代の基礎価格を底地価格にする求め方は間違っていると指摘する意見書を書き続けた。
昨年、驚くべき現象が生じた。
10数年間、地代の基礎価格を底地価格にして求めていた鑑定人不動産鑑定士が、私が主張していた更地価格を基礎価格にして、地代を求める鑑定書を提出して来た。
その鑑定書を見た時、私は驚いてしまった。
底地価格が基礎価格であると信じ込んで、今迄ことごとく私の意見書を踏みにじってきた鑑定人不動産鑑定士が、今迄の評価姿勢を全く変えて、地代算出の基礎価格を更地価格にして、地代を求めてきたのである。
その鑑定人不動産鑑定士に何があったのかと私は、逆に訝った。
しかし、その理由は分からない。分からないが、自らの考え方を変更してきたことは事実であり、更地価格を基礎価格にして地代を求めるのが適正な求め方と分かって、評価方針を変えたことであろうと私は判断した。
20年近い間に10数回の求め方が間違っていると意見書を書いてきた私の努力が実ったかと思いたくなる。そう思っても良いであろう。
地代算出の基礎価格は底地価格と思い込んで、頑なに20年近く裁判鑑定で、地代を求めていた鑑定人不動産鑑定士が、その考え方を変え、地代算出の基礎価格を更地価格で求める鑑定書を手にしたこともあり、地代算出の基礎価格は更地価格であることについて、以下に数回に分けて論述したい。
2.基礎価格
基礎価格とは、賃料の一つである積算賃料を求める為の基礎となる価格を云う。
3.底地及び底地価格
底地とは、借地権が付着している所有権土地をいう。
底地の価格を底地価格という。
更地価格に対する底地価格の割合を底地割合という。
算式で示せば、
底地価格
─────── = 底地割合
更地価格
の割合である。
借地権とは、借地借家法が適用される他人所有の土地を、土地使用料を支払って建物の所有を目的とする土地利用する権利を云う。
借地権の価格を借地権価格という。
更地価格に対する借地権価格の割合を借地権割合という。
算式で示せば、
借地権価格
─────── = 借地権割合
更地価格
の割合である。
底地価格+借地権価格=更地価格
或いは、
底地割合+借地権割合=1
という人もいるが、上記算式は常に成立する訳では無い。
上記算式が成立するのは、限定価格の場合であり、通常は、
更地価格> 底地価格+借地権価格
である。
底地の価格は、借地権設定者に帰属する経済的利益を貨幣額で表示したものと不動産鑑定評価基準(以下「鑑定基準」と呼ぶ)は述べる。
借地権設定者とは、地主を指す。
その借地権設定者に帰属する経済的利益とはどういうものかについて、同基準は次のごとく述べる。
「当該宅地の実際支払賃料から諸経費等を控除した部分の賃貸借等の期間に対応する経済的利益及びその期間の満了等によって復帰する経済的利益の現在価値をいう。なお、将来において一時金の授受が見込まれる場合には、当該一時金の経済的利益も借地権設定者に帰属する経済的利益を構成する場合があることに留意すべきである。」(平成26年改正鑑定基準 国交省版P45〜46)
底地価格の求め方については、鑑定基準は次のごとく規程する。
「実際支払賃料に基づく純収益等の現在価値の総和を求めることにより得た収益価格及び比準価格を関連づけて決定するものとする。」(前掲同書P46)
収益価格と比準価格を関連づけて求めよと云う。
そして底地を当該借地権者が買い取る場合には次のごとく云う。
「底地を当該借地権者が買い取る場合における底地の鑑定評価に当たっては、当該宅地又は建物及びその敷地が同一所有者に帰属することによる市場性の回復等に即応する経済価値の増分が生ずる場合があることに留意すべきである。」
(前掲同書P46)
つまり底地を当該借地権者が買い取る場合には、
底地価格+借地権価格=更地価格
になる事から底地の価格がアップすると云っている。この場合の底地価格は限定価格であるということを指す。
とするとそれ以外の方法で求められる底地価格は、正常価格と云うことになる。
4.新規積算地代の算式
新規土地賃貸借契約する場合の新規地代(正常実質地代)の求める算式は、下記である。
その不動産の基礎価格×期待利回り+必要諸経費=新規積算賃料(新規積算地代)
必要諸経費は、土地の公租公課(固定資産税+都市計画税)である。
5.ある論文からの引用
平成6年1月発行の「東京鑑定会報 第44号」(社団法人日本不動産鑑定協会東京会=現東京都不動産鑑定士協会)のP73に、論文名「地代と公租公課の関係について」の論文が掲載された。
その論文の2章の元本と果実の記述において、地代の基礎価格は更地であると記されている。当該部分を抜粋して転載すると下記である。
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2. 元本と果実
元本と果実の関係より土地と地代を考えると、土地は元本であり、地代は果実である。
土地が元本であるが、具体的に金額で考えると、それは土地価格となる。
その土地価格は更地価格、建付地価格のどちらであるのかとなると、一番最初に借地契約する時は建物を建ててから借地契約することはありえなく、建物の建っていない土地を借りて建物を建てるのであるから、更地価格である。
一部の不動産鑑定士は、底地価格を元本と考え、積算法もしくは利回り法の基礎価格に底地価格を採用しているが、これは誤りである。
上記で述べたごとく、一番最初の借地契約の状況を考えれば、更地状態でなければ借地目的の建物を建てることは出来ない。 底地状態では建物を建てることは出来ない。
とすれば、底地価格は元本になりえないのである。元本がなければ果実は発生しない。
即ち底地価格からは果実である地代は発生しないのである。
積算法もしくは利回り法で更地価格に期待利回りもしくは継続利回りを乗じると純質料が著しく高くなるために、それを軽減するために、更地価格の2〜4割の価格水準である底地価格を基礎価格に採用して純賃料を求めようと考えるとすれば、その考え方は専門職業家である不動産鑑定士としては恥ずべき行為である。
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引用転載した上記論文の著者は、私 田原拓治である。
(続く)
鑑定コラム2566) 「地代は底地基礎価格で求ていた地裁の鑑定人がやっと更地基礎価格にした (2)」
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