2822) 不動研の『不動産投資家調査』の期待利回りは償却前利回りであることを理解していない不動産鑑定士
東京都心の築40年の商業店舗建物の賃料を求める期待利回りを、一般財団法人日本不動産研究所(以下「不動研」と呼ぶ。)が発表している『不動産投資家調査』の期待利回りが3.5%であるから、評価土地建物の積算賃料の期待利回りを「償却後の期待利回りを3.5%と査定した。」と記す鑑定書に遭遇した。
地方裁判所の鑑定人の家賃の鑑定書である。
不動研が発表している『不動産投資家調査』の期待利回りは、償却前純収益による期待利回りである。即ち「償却前期待利回り」である。
その事については、同『不動産投資家調査』の「用語の説明」において、
「『純収益』・・・減価償却前、税引き前の純収益を指す。」
と記してある。
この事から、不動研が発表している『不動産投資家調査』の利回りは、償却前利回りであり、償却後利回りではない。
地裁鑑定人は、不動研が発表している『不動産投資家調査』の期待利回を根拠と記述して、評価対象商業店舗ビルの期待利回りを、「償却後期待利回り3.5%」とし、減価償却費を計上した必要諸経費を、純賃料に加算して積算賃料を求めていた。
不動研の発表している3.5%は償却前利回りであるから、これを償却後利回り3.5%として採用する事は間違っている。
そして不動研が発表している『不動産投資家調査』の利回りは、都心商業地の商業店舗ビルにあっては、築5年の利回りである。
そのことについても、
「築年数又は大規模改修後年数:5年未満」
とある。
評価対象商業店舗ビルは、築40年経過しているビルである。築5年のビルでは無い。
同一場所に、築5年の店舗ビルと築40年の店舗ビルがあったとすると、両店舗ビルの賃料は同一水準には無い。
築40年の商業ビルの賃料の方が低水準にある。
このことは、賃料利回りは同じでは無いということになる。
件の地裁鑑定人不動産鑑定士の賃料鑑定は、建物経年には全く触れずに利回りを求めている。
即ち、築5年と築40年の商業ビルの利回りは同じと考えているのである。
不動研の『不動産投資家調査』の求められている利回りは、償却前の利回りであるのに、それを知らず、償却前利回り3.5%を「償却後期待利回り3.5%」として期待利回りに採用して、積算賃料を求めている。
と言うことは、件の地裁鑑定人不動産鑑定士は、償却前利回りと償却後利回りの区別が分からない不動産鑑定士のようである。
加えて、築5年の建物期待利回りと築40年建物期待利回りも同じと考えて賃料鑑定している。
その様な考え方を持つ鑑定人不動産鑑定士が書いた不動産鑑定書の鑑定評価額が適正であると認めることは論理的に困難であろう。
裁判所鑑定人不動産鑑定士しっかりせい。賃料評価を最初から再勉強せょ。
*****追記 2025年1月20日
不動研は『不動産投資家調査』の期待利回り利用について、「調査の性格と利用上の留意点」として、下記のごとく記している。
「本調査の数値は調査時点で得られる資料をもとにしており、また不動産は個別性が非常に強い資産であることから、個別の不動産の利回りに関して直接的な意味をもつものではない。
したがって本調査の数値から個別の不動産の利回りを求める場合、必要な補正が適切になされない限り、不動産評価の信頼性に疑義が生ずる恐れがある。」
発表の期待利回りは、「個別の不動産の利回りに関して直接的な意味をもつものではない。」と云っている。
つまり、『不動産投資家調査』の発表の期待利回り、例えばそれが3.5%の期待利回りであったとした場合、その3.5%の期待利回りを直接採用して、評価対象不動産の期待利回りは3.5%であると鑑定評価で主張しても、その主張は適正な主張にはなりませんと云っているのである。
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