○鑑定コラム



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42)不動産鑑定の喜び(民事再生法と鑑定)

 新聞の経済面に、会社人事異動の記事のごとくの小さいベタ記事が載っていた。
 その記事は、ある民事再生法会社が一年間でスピード再建が終了したと。(日経2002.7.12)

 目立たないベタ記事であり、殆どの人は見落とすか、目に留まっても、
 「ああそう」
と思って、読み飛ばすのが普通の記事である。

 この小さい事実のみを伝える記事を見つけたとき、私は軽いときめきを感じ、久々に味わう不動産鑑定評価の仕事の喜びが、心の底から湧きあがった。
 それは、
 「不動産鑑定の仕事を行って良かった。
 小さいながらも日本経済、社会に役立つことが出来た」
という仕事に対する充実感の自覚であった。

 経営難に落ちそうになっていた製造業企業が、企業再建するために所有不動産の洗い出しの必要性が生じた。
 私はもう一人の不動産鑑定士に協力するという形で、二人で日本全国に散らばる工場、社宅等の所有不動産を評価した。

 その頃民事再生法の法案が国会審議中であった。
 法案が成立したら、民事再生法適用申請するかどうか考えるという企業再建者の考えであったようである。

 民事再生法の法律が成立し、その企業は民事再生法の適用申請をした。
 私にとって初めての民事再生法企業の鑑定評価であった。

 その民事再生申請企業が、一年間で見事スピード再建出来たと新聞は伝えるのである。

 再建企業の経営者の努力、従業員の協力があったこと、法律手続きの弁護士、管財人、監督員に良き人を得たこと 経営コンサルタントのアドバイス、財務面での公認会計士の応援も無視出来ないものであったと思われる。

 そして一番大きな要因は、再建企業に資金提供してくれた投資会社の存在では無かろうか。

 今迄取引していた金融機関は手を引きやすい状況にも係わらず、投資会社は再建資金を提供した。
 フアンド化した時の格付けは、確かCCCクラスであったと記憶している。

 投資会社が企業再建に投資し、成功し大きく利益を得ることに対しては誰も文句は言わない。
 やっかむものでもない。
 これが本来の投資銀行の仕事である。
 それなりのリスクを背負ってビジネスを行ったのである。
 従業員の多くは職を失わずに生活できることになるのである。

 貯蓄銀行型の日本の既存銀行では、悲しいかな投資銀行のノウハウの蓄積が無く、技量も無く出来ないのである。

 破産に詳しい弁護士と論争したことがある。
 それは、
 「倒産企業再建の為に金を出す銀行など無い。
 経営者が他から金を集めてきても、債務の返済の一部としてそれを取りあげてしまう。
 まして抵当権が設定してある工場のファンド化など出来っこない。」
と弁護士は主張した。

 その弁護士の主張に対して、私は、
 「工場に投資する会社は必ずある。
 フアンド化して工場企業は必ず再建できる。
 今そういう時代になりつつある。」
と主張した。

 企業の破産を多く手がけてきて、破産処理の実績を持つ弁護士は、自分の職業と実績のプライドから、一歩も引かない。こちらの言うことを真っ向から否定する。
 私も、弁護士に対して、
 「今迄はそうであったかもしれないが、これからは違う。
 製品の将来性があり、収益性が経営を変えることによって期待出来れば、必ず 資金を出す金融機関はある。
 日本の銀行は金を出さないかもしれないが、外資は再建の金を出す可能性は充分ある。
 貴方の考えは、過去の経験からの見方で間違っている。」
  と弁護士のプライドを傷付けることを承知で主張した。

 話は平行線であった。

 日本の金融機関に長く勤められた著名な先輩不動産鑑定士からも、
 「倒産工場企業に再建のため金を出す銀行等はいない。
 それに倒産工場企業の不動産の価格を、収益還元法を適用して求めることなど出来ない。
 日本の不動産鑑定士では殆どやっていない。
 一体、経営に属する利益配分をどう理論付けるのだ。
 君の名に傷が付くだけだ。
 止めた方が良い。」
という忠告を受けた。

 それらいろんな経験・助言をまとめ、3人の著者の協力を得て 『民事再生法と資産評価』  (清文社 2001年)という書名の本を共著出版した。増刷まで行った。

 不動産鑑定で関与した、その民事再生企業が一年間で再建出来たことは大変うれしいことである。

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