○鑑定コラム


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439)即入居可、全戸内覧可

 我が家に帰る電車に座る席は無く、やむなく頭の上の横鉄棒からぶら下がる吊り輪につかまり、立たざるを得なかった。
 電車内の窓上の曲面に掲げられている1つの広告が目に入った。

 「即入居可、全戸内覧可」

という大きなキャッチフレーズの分譲マンションの広告であった。

 「即入居可・・・・・」
と云うことは、建物は完成していると云うことか。
 完成していても、未だ売れ残っていることを意味する。

 「全戸内覧可・・・・・」
 全戸内覧可と云うことは、どういうことであろうか。
 一棟のマンションの全戸が売れずに全戸の内覧が可能ということか。

 まさか一戸も売れていないと云うことは無かろう。
 モデルルームでの内覧でなく、売れ残っている部屋の全部を内覧出来ると云うことか。

 いつ完成した建物か知らないが、複数の戸数が売れ残っている分譲マンションの広告である。

 特急電車停車駅より徒歩5〜6分のマンションであるから、生活の利便性は良く、マンションの立地としては悪くない。

 我が家に帰り、そのマンションの販売広告をパソコンで捜してみた。
 2008年2月の建物完成で、未だ22%の戸数が売れ残っている。
 つまり、全戸数100戸とすると、22戸が建物完成後4ヶ月経っているが売れなくて残っていると云うことになる。

 そのマンション業者の売出し中の他の分譲マンションの販売状況を、ネットで調べてみた。

 今月とか来月完成予定のマンションを除き、2007年2月築から2008年3月築の10棟の分譲マンションの販売状況を調べてみた。

 全販売戸数726戸中、売れ残っている戸数は99戸であった。
      99÷726=0.136≒0.14
14%の売れ残り、つまり在庫である。
 それは建物完成後3ヶ月〜16ヶ月の期間が経っている分譲マンションである。

 在庫があまり多くなると、資金繰りに影響してくるのは、どの産業であっても同じである。
 資金回転を良くする為には、過剰在庫を抱え込まないようにしなければならない。

 1年以上、つまり12ヶ月以上前の2007年2月、2007年5月建築完了した2つのマンションは、いずれも13%の戸数が売れ残っていた。

 13%の戸数と云えば、一棟全100戸のマンションとすると、
       100戸×0.13=13戸
13戸のマンションが1年以上経っても、家の明かりが灯らない状態で、売れ残っているということである。

 建物完成、販売即日完売というマンションブームの好景気時は、大した販売営業努力などしなくても、マンションは作れば売れた。

 しかし現在は、建物完成後1年以上経っても、なお13%が売れ残っている。
 その間、営業マンは、当該マンションを売らんが為にあの手この手の売る営業努力をしているにも係わらずに売れ残っているのである。

 この様に考えると、現在(2008年6月)のマンション市場は、相当悪い状況にあると言える。

 さて在庫が溜まる一方のマンション業者はどうするか。

 朝日新聞社発行の「アエラ」2008年3月3日号(2008年2月25日発売)に、『「売り出し価格」信じるな』という強烈なセンセーショナルな見出しの特集記事が掲載された。

 その特集記事にこんな私のコメントが載った。

 『・・・・・・いまは業者が「やせ我慢」をしている時期だという。不動産鑑定士の田原拓治さんはいう。
 「郊外のマンションは確実に値崩れする。1年間は業者も辛抱できるだろうが、さらにもう1年は持たない。少なくともいまマンションを買ってはダメ。あと2年も待てばもっと下がる。投げ売りも始まるでしょう」・・・・・』

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