440)ある地方の不動産鑑定士の「1円で本を購入する」というコラム
山口県周南市(旧徳山市)で、手広く不動産鑑定業、コンサルタント業を営んでおられる不動産鑑定士の墨崎正人氏が、毎月一回地元の経済誌である旬刊誌『山口経済レポート』(山口県防府市 代表者出穂誠一)にコラムを書いておられる。
『山口経済レポート』は、山口県内の産業、企業の経済活動を取材し、地元に密着した記事を載せている。
そこに掲載された1つのコラムが面白いので、著者の墨崎氏及び掲載誌の『山口経済レポート』を発行する株式会社山口経済レポートの許可を得て転載する。
墨崎氏とは、旧徳山市のある案件の不動産鑑定で一緒に仕事をした。
東京から押しかけた私に、親切に地元の地域性、価格形成要因、取引事例等を教えて下さった。
夜は、墨崎氏行きつけの小料理屋で、瀬戸内の魚をサシミに、東京の不動産価格、不動産鑑定の状況を話しながら、地元の銘酒を酌み交わし、教え教えられる楽しい一時を過ごした。
以下に墨崎氏が、地元経済誌『山口経済レポート』に掲載された、「1円で本を購入する」というコラムを転載する。
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「1円で本を購入する」
不動産鑑定士 キャリア・コンサルタント
墨崎 正人
いま、ある月刊誌に寄稿のため論文を書いている。その中で商品の価格決定を経済モデルを作って説明する必要が生じたので、昔学んだ経済学の教科書を埃と共に出してみた。
▼40年前の教科書の記述をいまの商品価格決定のメカニズムに当てはめると、どうもピントが合わず、説明不足となる。適当な経済学の本を地元の本屋に出向いて探したが、目当ての本が少ないと云うよりも無い。そこでネット経由で書籍の購入を試してみた。価格決定のモデルを掲載している本をサイトで検索し、目指す本を見つけた。
▼早速その本を購入したが、なんとその代金が、1円である。本は新品同様で、ページ数は266ページあり、包装も店頭で購入するより丁寧で、申し分ない。手にした私は、「得した」という気持ちよりも、「驚き」の方が大きい。
▼この謎を解くべく物品販売の状況を調べてみると、百貨店、スーパーの売上高は10年連続の前年割れで、ピーク時に比べ2兆〜3兆円減となっている。店舗展開の目覚しいコンビニの売上高も8年連続で前年割れとなっている。百貨店やコンビニはともかく、地方の小規模小売店にいたってはそれ以上の売上減になっていて、合計すると10年前と比べ、日本の店頭での販売額は10兆2千億円程度減少している。
▼ところが、マクロデータによると国民の消費支出は10年前と比べると9兆円増となっており、消費はむしろ拡大基調にある。9兆円のプラスと10兆2千億円のマイナスを単純にモデル化して試算すると、なんと19兆2千億円がネット、テレビ、カタログショッピング等に転化している計算となる。1500円の本を1円で販売するマジック並みの芸当のカラクリはここら辺にもある。
▼1円の本の購入は、すさまじい勢いで販売業界の地図が塗り替えられていることを教えている。そう云えば、本を探しに出向いた馴染みの書店は閉店していた。残っている他の書店も昔の面影がない。だが、変化は書店だけでない。駅前のシャッター通りの光景が、それをよく物語っている‥‥。
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墨崎正人氏のホームページは下記です。
http://www1.ocn.ne.jp/~sumisaki
『山口経済レポート』のホームページは下記です。
http://www.ykr.co.jp/index.html
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