地裁鑑定人による賃料鑑定書を拝見した。
継続賃料改訂にともなう地裁の鑑定人不動産鑑定士作成による賃料鑑定書である。
他人の不動産鑑定書をあまり批判したくない。
しかし、あまりにも常識はずれの不動産鑑定評価には目をつぶることは出来ない。
不適切な不動産鑑定書が、我が物顔して大手を振って罷り通ることを見逃しておくことは出来ない。
まして裁判所の不動産鑑定は、裁判官が専門家の判断であるから適正であると無条件で信頼し、判決に採用する可能性が高い性格のものである。
判決は強制力を持っている。
誤った不動産鑑定評価がそのまま判決に採用された場合、判決が逆に関係当事者の財産権の侵害を引き起こすことになるのである。
私の指摘が全て正しいというものでは無かろうが、一つの警鐘となり、立ち止まって考え直す機会にもなろう。
地裁の指定する鑑定人不動産鑑定士の賃料鑑定書には、「利回り法の積算実質賃料」という表現の文言があった。
「利回り法の積算実質賃料」とは、一体どういう概念であろうか。そうした文言を私は初めて目にした。そんな専門用語があったのであろうかと自問自答する。
「利回り法」という専門用語、概念は分かる。
それは、継続賃料を求める場合の4つの手法の一つの手法である。
その利回り法の中に、積算実質賃料というものがあるのであろうか。
そもそも「積算実質賃料」という不動産鑑定評価の専門用語があるであろうか。
「積算賃料」、「実質賃料」という専門用語はある。
その2つを混合したごとくの 「積算実質賃料」という概念は、どういうものであろうか。
実質賃料は支払い賃料に対応するものである。
それは、支払賃料に共益費、保証金等の一時金の運用益、償却額等を加えたものが実質賃料である。
積算賃料は、比準賃料、収益賃料に対応する賃料である。
積算賃料は、それ自体が実質賃料の性格を持つものである。
それ故、「積算実質賃料」という専門用語は無い。
そして、「利回り法の積算実質賃料」という専門用語は無い。
専門用語として存在しないものであるから、その概念はさっぱり私には分からない。
賃料を評価する専門家である不動産鑑定士とはいえ、自分勝手に専門用語を作ってもらっては困る。
専門用語には、その意味する概念がある。
その意味する概念を共用して、鑑定評価の内容を説明し、議論するものであって、一人よがりで自分のみ通用する概念で鑑定評価を行い、不動産鑑定書を書いてもらっては、はた迷惑である。
専門家は、専門用語を大切にしなければならない。
法曹界にあって、専門用語を知らない法律家はどういう待遇を受けるか。
不動産鑑定界にあっても、同じことが言えよう。
不動産鑑定士ょ。しっかりして欲しい。