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712) 不動産の求める価格の名前の無い不動産の価格

 以前に鑑定評価の依頼をもらったことのある財団法人より、電話が入った。
 担当者にお目にかかり、話を伺った。

 財団法人が所有する不動産を鑑定評価して欲しいということであった。
 財団法人の依頼者は、一つの文書を私に手渡した。
 その書類に書いてある要項に従って鑑定評価して欲しいという事であった。

 一つの文書を私に手渡しながら、
 「田原さん鑑定評価の仕事が増えて大変でしょう。」
と財団法人の方は私に云う。

 「とんでもありません。不動産が不景気で不動産鑑定の仕事はガタ減りです。増えて大変でしょうなどとんでもありません。」
と私は答えた。

 「その書類の内容の様な鑑定の仕事が、沢山舞い込んでいるのではないですか。」
と財団法人の方はいう。

 私には、その意味が分からなかった。

                       *

 不動産の価格を求める時には、どの様な価格を求めるのか。その求める価格の種類には名前がある。

 現在の不動産鑑定には4つの価格の種類がある。それぞれ名前が付けられている。 正常価格、限定価格、特定価格、特殊価格の4つである。

 不動産鑑定で求める価格は、上記4つのいずれかに必ず入ることになる。

 もっとも一般的なものは、「正常価格」である。
 正常価格の定義には幾つかの条件がつくが、簡単に言えば、市場性を有する不動産について、市場が形成する適正な価格を正常価格という。

 不動産鑑定で求める価格の殆ど、割合で云えば90%程度が、正常価格であると云ってよい。

 限定価格とは、取引相手が限定していて、その価格が市場を乖離している価格である。隣地併合等の場合の価格である。

 特定価格とは、市場性を有するが、正常価格の前提となる条件を満たさない価格をいう。民事再生法とか会社更生法適用での不動産価格である。

 特殊価格とは、市場は有しないが、その利用現況を前提とした不動産の価格をいう。文化財とか宗教建物等の不動産の価格である。

 以上の4つのいずれかに、不動産鑑定の求める価格は入ることになる。

 では、「市場性を有し、正常価格の条件を満たすが、但し、その利用現況を前提とした不動産の価格」は、どういう価格であるのかという問題が生じる。

 市場性を有し、正常価格の条件を満たすのであるから 、それは「正常価格」といえよう。

 しかし「 但し、その利用現況を前提とした」という条件がつくと、それは「特殊価格」と云うことにもなる。

 だが、特殊価格の場合、その第一条件は、「市場性を有しない」ということであり、特殊価格でもない。

 特定価格は、正常価格の条件を満たさないことが条件であるから、特定価格でもない。
 まして、限定価格でもない。

 上記「では」で設定された不動産の求める価格とは一体どういう価格になるのか。

 結論から先に言えば、「不動産の求める価格の名前の無い不動産の価格」と云うことになる。

 それはどの様な不動産なのか。

 私も今迄知らなかったが、今回知った。
 それは最初に述べた財団法人の不動産の鑑定評価で知った。

 財団法人の方から手渡された文書は、社団法人日本不動産鑑定協会が平成20年5月8日付に発行した文書であった。

 文書の題目は長いものであった。
 「公益目的財産(不動産)の時価評価に係わる当面の対応について〜「長期にわたり事業に継続して使用することが確実な資産」関連〜 」
というものであった。

 公益法人の認定に関する新しい法律がある。
 その法律の名前も長い。

 「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律及び公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」
という法律である。

 その法律に基づいて認可を受けようとする特例民法法人は、公益目的財産は時価評価をしなければならないという。

 公益認定等委員会が公表したガイドラインは、土地の評価方法について、次のごとくいう。

 特例民法法人は、「法人の保有する資産であって、移行後において当該法人が長期にわたり継続的に事業を行う場合にそれらの事業に継続して使用することが確実な資産(以下「長期事業資産」という)については、当該資産が継続して使用されることを前提に算定した額を評価額とすることが出来る」と説明する。

 そして「長期事業資産」の時価評価の留意点として、鑑定協会の文書は次のごとく云う。

 「評価の目的」の欄には、次のごとく記すという。
 「公益目的支出計画の基礎となる公益目的財産額の把握のため」と。

 そして評価条件として、下記を明記せよという。
 「一般法人への移行前に資産処分する場合等への流用を防ぐために「目的外利用の禁止」等についても記載すべきである」
という。

 不動産鑑定書が目的外に利用される事を防ぐために、それを評価条件に書いておけと云うのである。

 そして最も注目すべきものが、下記のものである。
 「この場合において求める価格は、不動産鑑定評価基準上の価格の種類のいずれにも該当しないので、価格の種類は記載しないこととする。」

 何だか分かったような分からないような説明であるが、特例民法法人の認可を受ける法人の財産は、「不動産鑑定評価基準上の価格の種類のいずれにも該当しないので、価格の種類は記載しない」と云うことである。

 依頼財団法人の財産は「長期事業資産」であることを目的としていることから、財団法人からの依頼の今回の不動産鑑定書の価格の種類の欄には、「社団法人日本不動産鑑定協会の平成20年5月8日付の文書により不明示」として、鑑定評価書を作成した。

 名前の無い不動産の価格というのも妙なものであると感じたが。

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