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87)減損会計の不動産影響特集の『Evaluation』8号

 不動産鑑定を中心とした実務理論雑誌である『Evaluation』8号(プログレス 2003年2月15日発行日)が発行された。
 同号の特集は「減損会計の影響を探って」である。減損会計とはどういうものか、不動産にどの様な影響を及ぼすのか、等についての特集論文5編と一般論文6編が掲載されている。

 特集論文著者は会計学の大学教授、公認会計士等であり、特集論文4編を読めば減損会計というものがどういうものかほぼ理解出来ると思われる。
 そしてゴルフ場の実際の鑑定評価例によって、企業会計に与える減損会計・時価会計の怖さ、影響の大きさを再認識せざるを得ないのではなかろうか。

 巻頭言は不動産鑑定士の横須賀博先生が、「継続賃料評価手法のすべてを否認した東京高裁判決がもたらしたものは」の課題で、不動産鑑定士に伝えるべき最新の問題として、平成14年10月22日の東京高裁による継続地代の一審判決の基礎となった不動産鑑定評価手法を全面否定した判決を紹介する。
 その判決は不動産鑑定士への厳しい警鐘であると述べる。そして不動産鑑定の実践理論の一層の充実の必要性を説く。

 特集の最初の論文は、作新学院大学大学院の田中久夫教授の「減損会計の影響とその対策について」である。
 田中久夫教授は減損会計の米国会計基準と国際会計基準の大きな違いを指摘し、日本の減損会計基準は両基準を折半したものと説明する。

 減損会計導入のプロセスであるステップ1・2・3・4とはどういうものかについて、大学の学生に理解させるごとく、難しいことを難しく話さず、分かり易く簡潔に解説する。これが人に物事を教える立場の人のうまさかと感心する。

 減損会計において、「オンバランス」とは資産を保有継続することであり、「オフバランス」とは資産を処分売却することを意味する。
 オンバランスを選択した場合の資産の利用方法の一つとして、資産の賃貸化をあげる。
 オフバランスを選択した場合の対策としては、

    @ 連結グループ内の会社に売却する手法が有効
    A 不動産の証券化
    B 事業部門全体の売却、営業譲渡、会社分割、株式交換等
があると説明する。

 1999年以降、日本企業は海外で英文の決算書を公表する際に、「国際的に通用する基準とは異なった基準にて作成しているという」旨のレジェンド(警告文)を併記することを求められてきている現状を、減損会計導入によって打破することを説く。

 公認会計士の渡邉均氏は「減損会計が企業行動に与える影響」の課題で、国土交通省の調査を紹介する。
 土地建物に関して「所有することが有利になるか」という調査事項に対して、有利になると答えた企業は、
         平成5年度        67%
                  平成13年度              37%
に減少していること、そして「借地、賃借が有利になる」と考える企業は、
         平成5年度        29%
                  平成13年度              48%
であることを紹介する。
 そして、今後は賃貸市場が活発になると予測するが、「2003年問題」に直面しており、4〜5年の期間はマイナスの状況が続くと説く。

 平成10年以降不動産の売却、面積、金額が高い水準で推移しているが、その原因は、企業が販売用不動産に分類して「塩漬け」されていた遊休土地が強制評価減の徹底により市場に吐き出されたこと、それが一段落した後、減損会計に対応した事業用資産にシフトしてきたことによるものであると、明快に分析する。

 公認会計士の大野木孝之、税理士の金子章氏は共同執筆で「減損会計が不動産市場に与える影響」の課題で、企業所有の別荘、保養所の売却がより一層進められるであろうが、この不動産不況において売却は相当の低額を余儀なくされても、尚売却は非常に困難であろうと予測される。

 本社ビルはキャッシュフローの生成に寄与するものでない為、自社使用から賃貸に切り替えるであろうと予測する。
 そして、不動産価格の二極化について、減損会計の立場から、その現象を次のごとく見事に説明する。

   「回収可能額が高くなるような利用方法を計画している場合には、買い手は通常の購入希望価格あるいは通常よりも高い価格を提示して、売買が成立してしまう」
 一方、「回収可能額がそれほど高くない場合には買い手は将来減損の兆候を生じさせないように帳簿価額を低く抑えようとするため、購入希望価格は通常より低くなるであろう。これに売り手側に売り急ぎの事情が重なった場合には、思わぬ安値売買が成立する」と。

 不動産鑑定士の松原幸生氏は「テクノロジーとしての経営の時代へ」の課題で、ガバナンス論からの切り口で減損会計を論じる。
 日本にはガバナンスの考え方が希薄であるが、減損会計によってガバナンスの重要性が一層認識されるであろうと予測する。
 日本の企業経営は「一門、一家、仲間」の考え方のクラン指向経営であり、欧米の企業経営は投資家を意識したインベスター指向経営であると。

 ガバナンスはインベスター指向経営によって成し遂げられるという。
 それは、プロフェッショナルによる企業経営であり、松原氏は「テクノロジー経営」と称する。リスクとリターンに関する合理的分析に基づいた収益性を極大化することを指向する経営という。

 松原氏は不動産業を次の3つの経営形態に分類する。
   @ プリミティ不動産業・・・・・・・・・・特色はサイドビジネス的価値
   A エンジニアリング不動産業・・・・特色は立地に基づく所有価値
   B テクノロジー不動産業・・・・・・・特色は経営技術に基づく収益価値
 不動産の将来はテクノロジー不動産業に進まないと生き残れないと説く。

 「ゴルフ場の鑑定評価」として私の論文も特集に入っている。ゴルフ場の市場価格の求め方の具体的な鑑定評価例であるが、これについてはいつか述べることとして、ここでは省略する。

 特集以外の一般論文は次のごとくである。
 魅力ある論文が並ぶが、紙面の都合上、内容紹介は割愛させていただく。
   ・新不動産鑑定評価基準等への一考察(不動産鑑定士 高瀬博司)
   ・大規模工場用地と鑑定評価(不動産鑑定士 加藤弘之) 
   ・終身借家権の概要(弁護士 吉田修平)
   ・単一価値か確率分布か(不動産鑑定士 海本丈夫)
   ・企業再建手続における企業評価(不動産鑑定士 高畠秀夫)
   ・小泉改革下におけるまちづくりの法と政策(弁護士 坂和章平)
   ・(FOCUS)なぜ複数の鑑定評価方法があるのか
                   (日本格付研究所 三国仁司)
 編集後記氏は、法律制度の改正を5年のタームで見ると、ものすごいスピードと勢いで時代が変化していることを感じると述べる。どれほどの不動産鑑定士がこのことを実感として感じているのであろうか。

 『Evaluation』8号の購入は大都市の日販、東販ルートの書店か、発行会社のプログレス(03-3341-6573)に購入申込して下さい。頒価は1500円+消費税です。
プログレスのホームページ http://www.progres-net.co.jp/ でも購入申し込みが簡単に出来ます。

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