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98)里山価格

 東京の郊外には、住宅地に隣接して市街化調整区域に指定されている山林がある。住宅地の裏山である。

 都市近郊林地に属するものではあるが、それよりも、より住宅地に近い里山と呼ばれる林地である。
 市街化調整区域の地域にあるから宅地開発は出来ない。例外的に土地利用することが出来るが宅地利用の困難な林地である。

 こうした里山の価格をどの様に評価してよいものか価格査定では大変悩む。まさか宅地見込み地として価格を出す訳にも行かない。といって純山林の価格として反当り10万円(u当り100円)程度と出す訳にもゆかない。

 土地価格の1つの特性として「価格の引張り合い現象」という現象がある。
 隣接地、あるいは隣接地域同士は、それぞれの要因特性を価格に反映しながらも、隣接地あるいは隣接地域との間に価格の均等を保っている。

 市街化調整区域の里山は宅地利用出来ない要因をもっているが、その要因を具有しながらも、隣接する市街化区域の住宅地の価格、あるいは市街化調整区域の既存宅地の価格との間に、価格の均衡が得たれている。「価格の引張り合い現象」というものである。

 里山価格を求めるのに、最もよいのは類似の里山の取引事例が近くにあれば良いが、その様にうまい具合には取引事例など、まず無いのが普通である。あっても遠く離れた行政区域の異なる地域の事例である。あまり離れた地域の事例では地域格差率の判定に逆に頭を悩ます。

 価格評価の難しい里山価格を、隣接する住宅地の価格より求める1つの方法を検討する。

 国土交通省が毎年1月1日時点の土地価格として発表している「地価公示価格」というものがある。
 その価格は主として住宅地、商業地等の価格が発表されているが、その中に価格番号で13-1、13-2という「13番」のつくものがある。
 この「13番」の番号の地価公示価格は、市街化調整区域の林地価格であるが、それは純山林の林地価格ではなく、都市近郊林地の中でも、住宅地に隣接する林地、即ち上に述べた里山の価格である。

 町田市と八王子市の13番林地として次のものがある。価格は平成14年1月1日時点のものである。単位は平方メートル当たりの価格である。

(町田13番林地)
  13-1 相原町2294     8,530円    相原駅   2km
  13-2 上小山田1872  11,300円   淵野辺駅   4.3km

(八王子13番林地)
  13-1 美山町946    5,600円   八王子駅   10.2km
 13-2 上柚木1644-イ  9,900円    南大沢駅   2.1km
  13-3 弐分方町188-1  7,900円   八王子駅     7km
 13-4 川口町2455       6,800円   八王子駅   7.8km
 上記13番林地に近い住宅地の価格(一部市街化調整区域の既存宅地の価格も含む)を捜すと、次のものが得られた。
(町田13番林地に近い住宅地)
  69  相原町3166-3  115,000円     相原駅      3.1km
 83  上小山田163-1 122,000円     淵野辺駅    3.9km
 13-1に対応するのが69、13-2に対応するのが83の住宅地価格である。
(八王子13番林地に近い住宅地)
  10-3  美山町553-1    63,200円     八王子駅  10.6km
  72  上柚木1050-3  125,000円     南大沢駅   2.5km
 26  弐分方町82-1  104,000円     八王子駅   6.5km
 52  川口町2903    101,000円     八王子駅   8.6km
 13-1に対応するのが10-3、13-2に対応するのが72、13-3に対応するのが26、13-4に対応するのが52の住宅地価格である。
 上記の価格対応をまとめると次の通りである。
 1.  町田13-1   8,530円    町田69    115,000円
 2.  町田13-2  11,300円     町田83    122,000円
 3.   八王子13-1 5,600円    八王子10-1 63,200円
  4.   八王子13-2 9,900円      八王子72  125,000円
  5.   八王子13-3 7,900円      八王子26  104,000円
  6.   八王子13-4 6,800円      八王子52  101,000円
 上記右側の住宅地価格をXとして横軸に、左側の13番林地価格をYとして縦軸にとって、1〜6の価格をグラフにプロットする。本記事を読むだけでなく、実際にグラフ用紙を引っ張りだしてプロットしてみて欲しい。あるいは簡単に目盛りの図を作ってプロットしてみて欲しい。実際に手を動かして行うと理解しやすい。面倒臭がらずやってみることを勧める。

 グラフにプロットしてみると1が左下に位置し、6が右上に位置する。その間に2〜5がプロットされる。プロットの位置にバラつきがあるが、右肩上りにXYの関係があると読みとれる。

 即ち、近傍住宅地価が高いと里山価格は、それに引きずられて里山価格も高くなるという現象があるということがわかる。
 これが価格の引張り合い現象の実証である。

 1〜6の価格の間にはどういう関係があるかを算式で求める。
 
          X:近傍住宅地価格
          Y:13番林地価格 
とする。XYを最小自乗法(単回帰分析)で求めれば、
          Y=−0.0764+0.0801X
の直線式が求められる。

 上記式は何を意味するかといえば、定数項−0.0764を無視すれば、13番林地(里山価格)は隣接する住宅地の価格の0.08であること、即ち8%の価格であることを意味する。

 例えば、里山の近くの住宅地価格が平方メートル当り20万円であったとすると、その住宅地に隣接する里山価格は、
         20万円×0.08=1.6万円
ということである。即ち、次式が成立する。

         里山価格=隣接住宅地価格×0.08

 里山価格の価格水準がわからなかった場合は、とりあえず里山に近い住宅地の価格を調べ、上式を使用して、里山の価格を求めてみることだ。
 そうすれば、少なくとも、1つの価格水準としての指標が出来る。

 指標の価格がわかれば、価格の不安が無くなり、その価格の妥当性を立証する為に、少々古くてもよいから類似の里山の取引事例を捜して、価格の妥当性の裏付けをすることである。
 
 上記里山価格の8%の割合が、日本全国に適用出来るか、出来ないかは私には分からない。。ある地域では3%であったり5%であったり、あるいは10%であるかもしれない。それは、それぞれの地域で、前記で説明した考え方で分析すれば、その地域の妥当な割合数値が求められる。

 上記分析は地価公示価格を利用して価格割合関係を分析説明したが、近傍住宅地、里山価格の多くの取引事例によって価格割合関係が求められれば、それに越したことはない。

 以上が価格判断の難しい里山価格の求め方の1つの方法である。ものは試し、実務で一度適用してみたら。うまく評価格が得られたら、この無料の情報の提供の価値は高いものとなると思いますが。


  鑑定コラム581)「東京の都市近郊林地価格と周辺住宅地価との関係」

  鑑定コラム1789)「林地(山林)価格と麓の宅地価格の関係」

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