○鑑定コラム
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中・高校生の頃の数学は、例えば
Y = 10.6 − 0.89X
というごとく式が与えられていた。与えられた式から解を求めたり、グラフを描いていた。
では、上の Y=10.6−0.89X という式( 少数点以下を省けばY=11−Xという式になる)はどうして求められたのか。任意に数学の解やグラフを描くために、数学遊びをするために作られたものであったものであろうか。
Y=10.6−0.891X という式が作られるためには、XとYのデータがあって作られたものである。
具体的に不動産鑑定に関係するデータで、方程式を求めてみよう。
XとYのデータより一元一次方程式を求めるには回帰分析という手法による。
Xを 駅距離とする。 単位を100mとする。
Yを 土地価格とする。 単位を平方メートル万円とする。
次の5つの取引事例データがあったとする。
データ 土地価格 駅距離
Y万円 X(100m)
@ 5 6
A 3 9
B 8 3
C 4 7
D 9 2
縦軸に土地価格Yを、横軸に駅距離Xをとり、上記数値をグラフに落としてみる。実際にやってみて欲しい。
データにはぱらつきが見られるが、全体的には右下がりの傾向が伺える。
データのぱらつきは距離以外の要因によるものと考える。データから右下がりの直線式が想定される。その想定される直線式とデータの差は誤差と考え、直線式を求める。
想定する右下がりの方程式を、
a + bX = Y
とする。
上記データより上記の一元一次方程式を求めるには、最小自乗法という手法によって求められる。
最小自乗法とは各データの誤差が最小にして成立する直線式を求める手法である。
誤差を最小にして成立する方程式のaとbの数値は、次式で求められる。
na + bΣX = ΣY
{
aΣX + bΣXX = ΣXY
この方程式を正規方程式という。この方程式を実証するには微分を使って行う。誤差の自乗を最小にするには、微分して0にすれば良いと言うことである。微分の知識が必要であるが、それは回帰分析の専門書に書いてあるからそちらに譲る。
nはデータの数である。ここでは n=5 である。
ΣX、ΣXX、ΣXY、ΣYの値をデータより求める。
Σは各値の総和ということを示す記号である。
データから具体的に計算したのが、以下である。
データ Y X XX XY
@ 5 6 6×6 6×5
A 3 9 9×9 9×3
B 8 3 3×3 3×8
C 4 7 7×7 7×4
D 9 2 2×2 2×9
────────────────────────
Σ 29 27 179 127
(総和)
求められたΣX等の数値を、上式の正規方程式に代入する。
5a + 27b = 29 …… @式
{
27a+179b=127 …… A式
この方程式を解けばよい。手計算では大変であるが、手計算で行えば、@式×5.8−A式よりbを、
b=−0.89
と求める。 aを求めるためには、@式に求められたbを代入する。
29−27×(-0.89)
a=──────── ≒10.6
5
と求める。即ち、
a= 10.6
b= -0.89
と求められる。
より簡単に早く行うには逆行列による計算の方が楽である。
行列式で上記@Aの方程式を表示すれば、
5 27 a 29
[ ] [ ] =[ ]
27 179 b 127
である。逆行列で、
a 1 179 -27 29
[ ]= ── [ ][ ]
b 166 -27 5 127
となる。1/166の分母の166は、
5 27
[ ]
27 179
の行列より、
5×179−27×27=166
と求める。
上記逆行列を解く。
a 1 179×29−27×127
[ ]= ── [ ]
b 166 -27×29+ 5×127
1 1762
= ─ [ }
166 -148
1762÷166
= [ ]
-148÷166
10.614
= [ ]
-0.892
である。
即ち、 a=10.6 b=−0.89
と求められる。
方程式は、
Y=10.6−0.89X
である。
この式が5つのデータの誤差の最小となる直線式である。
今回は5つのデータであるが、データが多くなると、とても手計算では出来ない。パソコンに頼らざるを得ない。パソコンのエクセルの中に回帰分析のソフトが入っている。そのソフトの中に逆行列の計算式が組み込まれているためにデータのみを入力すれば、a、bの係数を瞬時に計算してくれる。
重回帰分析の、
Y=10+2X +3Z+4W+5V
と変数が3つ、4つある場合も、上記逆行列の求め方が基本になって計算されるのである。但し、変数が4つもあると手計算は事実上不可能である。
そのほか、
Y=5+3X2 +4X
Y=2+logX
5
Y= ── +3
X
などの方程式も、基本的には前記逆行列の計算で求められる。
これらを土地価格の方程式化と呼ぶとすれば、上の求め方は連続した数値による方程式化であるが、不連続の場合の求め方もある。
ダミー変数を用いて求める方法である。
例えば、駅距離と道路幅員を組み合わせて考えたいとした場合、
Yを土地価格、Xを駅距離とする。
道路の幅員をZ とし、Zの内訳を、
2〜4mの場合を 1
4〜5mの場合を 2
5〜8mの場合を 3
とダミー変数に置き換えて、Y=a+bX +cZ の方程式を求めるのである。
この求め方は数量化T類(回帰分析に同じ)という求め方で、林知己夫が考え出した求め方である。
回帰分析とか重回帰分析の分析を行うと、誤差があることを前提に分析していることから、得られた結果とデータとの相関の度合いとして相関係数、重相関係数というものが出て来る。共分散の問題も発生する。そして、データの平均からの分散分析として「標準偏差」が必要とされる。ここから確率論が展開されてくる。
不動産鑑定に回帰分析、重回帰分析、主成分分析、因子分析、判別分析等、いわゆる多変量解析という手法を、コンピュータを利用して導入して分析する様になったのは、今から約30年前頃だった。その頃は大型のスーパーコンピュータを使わなければ、5変数以上の重回帰分析は計算出来なかった。言語はフォートラン言語で自分でプログラムを書き、パンチカードにそのプログラムとデータを打ち込み、IBMやFACOM等の計算センターで計算してもらっていた。現在はその頃のスーパーコンピュータの何十倍の能力を持つパソコンが身近な卓上にあり、自分で計算出来る様になった。
今は自分でプログラムを作ることは殆どなくなり、エクセル内在のプログラムを使用するため、どういう言語を使ってプログラムが作られているのか知らないが、部分的に自分でエクセルに計算プログラムを入れる場合の決められている言語から見ると、どうもフォートラン言語が基本に使われているように感じられる。
不動産鑑定に統計的分析の多変量解析を導入し、それを行った不動産鑑定士は私の記憶では、(財)日本不動産研究所の中島康典先生と、当時三井不動産に勤務されていた桐山良賢先生の二人の方ではなかったかと記憶している。他にもおられたかもしれないが、私の記憶では先の二人の方である。先駆的に不動産鑑定評価に、統計による不動産価格分析を導入された先人二人の方の功績は記憶しておきたい。
(2003年2月12日(社)日本不動産鑑定協会関東甲信会講演の一部分より、一部追加して)
鑑定コラム920)「国交省公表の土地取引価格データより土地価格を求める」
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