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101)基礎価格の再認識の必要性

 基礎価格についての考え方について、家賃評価を行う不動産鑑定士、裁判所選定である鑑定人である不動産鑑定士、そして、鑑定人が作成した不動産鑑定書で判決する裁判官達に再認識をうながしたい。加えて現行『不動産鑑定基準』の改訂を要求したい。

 継続賃料を求める前段階で、新規賃料を把握するために積算賃料と比準賃料によって、当該建物の新規賃料を求める。この積算賃料を求めるためには「基礎価格」の把握が必要である。

 基礎価格とは、積算賃料を求めるための基礎となる価格であるが、『不動産鑑定基準』は「原価法及び取引事例比較法により求めるものとする」という。
 この文言に大きな落とし穴がある。

 2階建建物しか建たない住宅地にあっては問題は生じないが、中高層の建物の建つ地域にあって問題が生じる。以下にどの様な問題が生ずるか例をあげて説明する。

 例えば、容積率300%の地域で同じ道路沿いに、同じ地積200uの2つの土地が東西に並んでいて、東側土地にRC造2階建の共同住宅(のべ床面積240平方メートル)、西側にRC造4階建住宅(のべ床面積480平方メートル)が建っているとする。1階、2階の規模は東・西建物とも同じで、西側建物の3、4階の規模も1、2階の規模と同じとする。

 この東西共同建物の価格を原価法で求めれば、次の通りである。(区分所有のマンションを除き、土地・建物の価格はほとんど積算価格で把握される。)
 土地価格を平方メートル当り30万円、建物価格を平方メートル当り20万円とする。
 東側共同住宅の土地・建物価格は、
        30万円×200+20万円×240=10,800万円
 西側共同住宅の土地・建物価格は、
        30万円×200+20万円×480=15,600万円
である。これが東西共同建物の土地建物の価格である。
 
   この東西共同住宅の年間賃料をもとめる。以下のごとくである。
 近隣の賃貸事例から比準賃料を平方メートル当り3,000円(計算上面倒であるから共用部分も含んだ賃料で、実質賃料とする)とすれば、東西の建物の月額賃料収入は、
      東側共同住宅 3,000円×240=720,000円
      西側共同住宅 3,000円×480=1,440,000円
である。これが賃貸事例比較法からの東・西の共同建物の賃料である。賃貸仲介業者が仲介する賃料である。

 この東西の共同建物の賃料を積算賃料で求めてみる。
 純賃料は、土地の期待利回りを6%、建物期待利回りを8%とする。

   
  東側共同住宅の純賃料は、
      土地 6,000万円×0.06=360万円
      建物 4,800万円×0.08=384万円
小計      744万円
である。  西側共同住宅の純賃料は、       土地 6,000万円×0.06=360万円
      建物 9,600万円×0.08=768万円
          小計     1,128万円
である。

 必要諸経費を次の通りとする。
            東側建物      西側建物 
                        円                  円
    減価償却         1,200,000           2,400,000
    公租公課
      土地             306,000             306,000
      建物             408,000             816,000
    火災保険料         240,000             480,000
    維持管理費         630,000             972,000
   修繕費             480,000             960,000
   空室損失                 0                   0
   貸倒引当金               0                   0
   小計             3,264,000           5,934,000
 積算賃料は、
      純賃料+必要諸経費=積算賃料
であるから、東側共同住宅は、
      7,440,000円+3,264,000円=10,704,000円
で、月額892,000円(平方メートル当り3,716円)である。
   西側共同住宅は、
      11,280,000円+5,934,000円=17,214,000円
で、月額1,434,500円(平方メートル当り2,988円)である。

 求められた月額賃料をまとめると次のごとくである。
                        比準賃料            積算賃料
      東側共同建物     720,000円           892,000円
                   (単価3,000円)    (単価3,716円)
   西側共同建物   1,440,000円         1,434,500円
                   (単価3,000円)    (単価2,988円)
 西側共同住宅建物の積算賃料は平方メートル当り2,988円であり、比準賃料の平方メートル当り3,000円の水準とほぼ同じであり、適正な賃料水準と判断される。
 東側の共同住宅建物の積算賃料は平方メートル当り3,716円で、比準賃料3,000円に対して24%高である。
 同じ場所・環境条件にある東西建物で、東側共同建物の賃料のみ、何故この様な賃料差が生じたのか。
 それは、はっきりした求め方の誤りがあることによる結果である。

 どこが間違っているのか。
 それは東側共同住宅の土地の基礎価格の把握の仕方が根本的に間違っていることによる。

 平方メートル当り30万円の土地価格は、4階建の建物利用を前提に形成されている土地価格であり、2階建の建物利用を前提に形成されていない。
   東側土地は、2階建の共同住宅の敷地として、確かに物理的には全面的に使用されている。しかし、6000万円の土地価格としての価値が経済的に全面的に利用されているという訳では無い。6000万円の経済価値が全面的に利用価値を発揮するのは、4階建の建物が建つ土地であれば、4階建の建物利用されることによって実現されるのである。

 賃料の基礎価格として土地価格を把握する場合には、経済価値の利用の程度に応じて、土地の基礎価格は修正されなければならない。
 東側共同住宅建物の土地の基礎価格は、土地上の建物の面積の利用率の程度に応じて修正されなければならない。
 
 1〜4階の階層別効用を各階同じとすれば、東側共同住宅建物土地は4階建の建つ土地であるにもかかわらず、2階建しか建っていないから、
           200÷400=1/2
           6,000万円×1/2=3,000万円
と修正されなければならない。
 これが東側共同住宅建物の土地の基礎価格である。

 東側共同住宅建物の場合、3階・4階の建物利用はないのであるから、その部分が負担すべきものを、存在する1・2階部分が負担する必要はないのである。

 東側の2階建共同住宅の積算賃料の求め方が間違っていることを、わかりやすく説明するために、本件は、隣接西側に4階建建物を並べて、かつ比準賃料も取り入れて説明したことから、東側2階建建物の積算賃料の求め方の間違いがわかったと思われるが、現実においては、東側建物1つだけで、それも比準賃料を求めず、積算賃料だけで賃料を求めるために、かなりの不動産鑑定士が東側共同建物の積算賃料を例示したごとくの求め方を行い、間違って求めていることがわからずに、適正賃料と主張する。

 東側共同建物の求め方が誤りであることを、もっと極端にいえば、10階建の建つ銀座の土地に2階建しか建っていない場合に、2階建の家賃に3〜10階部分が本来負担すべき家賃の中の土地利益分を負担させるごとくである。
 先の東側共同住宅でいえば、1・2階とも3,000円の単価でしか賃借人はいないのであるから、月額72万円が賃料である。不動産賃貸仲介業者は72万円で賃貸仲介する。単価3,716円、月額89.2万円の賃料設定して賃貸仲介しない。そんなに高くしては借りる人はいないためである。

 3,000円の西側の建物のみ賃貸借契約が決まり、東側建物はいつまでたっても入居者はみつからなく空室が続くことになる。それは3,000円で借りられる建物は他でもいくらでもあるから、そちらの方に借主は流れ、東側の3,716円の貸室には借主はいつまでも現れないことになるからである。
 この様なことは、不動産賃貸の仲介業者からみれば至極当たり前のことである。
 不動産鑑定士は何をアホなことをやっているのだというであろう。

   しかし、積算賃料の基礎価格は、原価法によって求めるものだと信じ込んでいる不動産鑑定士が多いため、上記東側共同建物のごとく家賃を求める不動産鑑定士が多くいる。

 そうした考えで作成された裁判所の鑑定人の鑑定書を、裁判官は裁判所選定の鑑定人は偽証罪が課せられるかもしれない法廷宣誓をして評価したのであるから、中立の立場であり、そうした立場での専門家の判断であるから適正な鑑定結果であると考える。
 鑑定人の上記の求め方は間違っていると反論指摘すると、裁判官は、容積率のみによって土地価格は決定していないし、また賃料は必ずしもそれを反映して形成されていないというごとくのもっともらしい理由をつけて、東側共同住宅の賃料は3,716円、月額89.2万円が適正であると判断を下す。
 不動産仲介業者はその様な賃料設定はしないし、現実的でなく、その考え方は間違っているといくら説明しても、裁判官は聞き入れてくれない。

 その本来は誤っている賃料を「適正」と認め、その賃料から差額配分法等の継続賃料が求められ、判決文が書かれる。
 賃借人にとっては、その様な不動産鑑定、判決で支払賃料が決められてはたまったものでない。判決は強制力を持っているから、それに従わざるを得ない。 合理的理由が全くない不動産鑑定、それを根拠にした判決によって、賃借人は過大な賃料負担を強いられることになる。
 賃料評価する不動産鑑定士、裁判官に賃料形成の現実性をもっとわかってくれといいたくなる。

 代理人弁護士は、「裁判所の鑑定人には当たりはずれがあるからなァ」と意味不明なことを言って嘆く。

 裁判官に非現実な賃料を、適正と思い込ませる鑑定書を書く鑑定人である不動産鑑定士に最大の責任がある。

 『鑑定基準』は基礎価格を原価法で求めよといっており、積算価格を基礎価格にせよといっているが、原価法の積算価格の採用は上記例示で述べたごとく誤りの部分があり、正しくないということである。
 基礎価格は借家権の及ぶ範囲の土地建物価格であり、土地の基礎価格はその範囲の価格で考えなければならない。
 『鑑定評価基準』はその様に改正されなければならないのである。

 基礎価格の把握については、今回は立体的要因について論じたが、同じことは平面的要因の場合にもいえる。
 また、借地権を基礎価格に採用している家賃鑑定書にも多くぶつかる。
 全く頭をかかえてしまう。
 これらについては、いつの日か述べてみたい。


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  鑑定コラム226)家賃より地代を求める家賃割合法
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  鑑定コラム219)家賃評価の期待利回りは減価償却後の利回りである
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