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107)「産業再生ビジネスの創成に向けて」特集の『Evaluation』9号

 不動産鑑定実務理論専門誌である『Evaluation』9号(プログレス tel 03-3341-6573)が発行された。(発行日2003年5月15日)

 巻頭言は、公認会計士で不動産鑑定士である杉本茂氏が、「エンロン事件後のAICPA」の題で、アメリカの会計の現状を紹介している。

 2年前、杉本氏は「Cognitor」という職域創成を紹介したが、その動きは拡大せず、一転、アメリカ会計事務所は、自らの足下を見つめることに方向転換させられることになった。
 それは、エンロン事件によるものであるという。

 サーベイズ法により、会計事務所のコンサルティング部門の切り離し、クライエントとの過度の癒着の回避の動きを伝える。

 特集は「産業再生ビジネスの創成に向けて」で、6篇の論文が掲載されている。

 企業の破産の法的処理に詳しい弁護士の山岸洋氏は、「産業再生ビジネスと不動産の処理策」の課題で、自らの破産企業の再生ノウハウを述べる。

 企業の経営改善は、@事業リストラ A業務リストラ B財務リストラ があり、このリストラをいかに進め、企業再生するかについて論ずる。
 財務リストラの中に、不動産の価値の判断がふくまれ、その時、価格をいかに把握すべきかと常に直面する事になるが、山岸氏は不動産鑑定評価は収益還元法(DCF法)で評価すべきであると結論する。

 公認会計士の尾関純氏は、「再建型法的倒産手続と財産評定」の課題で論ずる。
 民事再生法と会社更生法の比較について、再生手続の各過程を対比して、分かり易く解説する。

 2003年4月に会社更生法は改正された。
 改正前の財産評定は、更生手続開始時における事業継続価値(ゴーイング・コンサーン・バリュー)であった。
 破綻に瀕した会社の収益力は著しく低下しており、財産価値は著しく低い金額が求められる場合が多かった。

 これが為に担保権者と更生会社の間で、財産価値をめぐり、鋭い対立を生み、更生計画に支障を来していた。

 こうした過去の経緯を考え、改正会社更生法の財産評定は、更生手続開始時における「時価」にする事を明確化したことを紹介する。

 オリックス債権回収の社長である西海三男氏は、「サービサーによる事業再生ソリューション」の課題で、サービサーの具体的仕事の内容を紹介し、事業展開上の問題点を述べる。

 サービサー会社は2003年2月現在で73社あるという。
 サービサーの最大の大きな仕事は、残すべき事業と捨てるべき事業の峻別であり、残すべき事業に係る資産は、資産保有会社に売却集約して、資金を調達する。

 営業は、債務者が経営する新運営会社に営業譲渡させ、資産保有会社との間に賃貸借契約或いは業務委託契約を結ぶのが一般的と述べる。

 所有と経営の分離である。
 自立経営が可能となった時点で、資産保有会社の株式もしくは資産そのものを第三者に売却して、サービサーの業務は終了する。

 この出口戦略の一つとして、運営会社の経営陣に買い戻し優先権を付与する場合がある。即ち優先MBOと呼ばれる手法である。

 サービサー事業展開での問題点として、不動産取得税、登録免許税の軽減緩和、債務免除益に対する課税の撤廃を主張する。

 その他無剰余後順位担保権者を排除する法整備、エンジェルマネーを何とか事業再生に持ってこれないかと、現実の苦悩を述べる。
 現実にサービサー事業を行っている人の論述であり、サービサーとしての事業の生々しさが伝わってくる。

 ムーディズ・ジャパンの桑原孝氏は、「多様化する再生企業の資金調達手法」の課題で、英国で隆盛している「事業の証券化」(WBSという。Whole business securization)について、その手法の日本導入を論ずる。
 WBSは英国において、パブ・ホテルから始まり、水道事業にも対象が拡がっていると現状を紹介する。

   証券化の金融テクニックであり、かなり高度な金融手法であって、専門外の私には内容を100%理解する事は困難であるが、事業の証券化と呼ばれるWBSは、担保付コーポレートファイナンスとABC、CMBS等のアセットファイナンスの中間に位置する資金調達手法と言う。

 債務者が特定していないと、債権譲渡出来ないのが日本の法律体系であるが、公示制度の導入によって、債務者の具体的特定を要しないという立法措置がされるならば、売掛債権はもとより、カード債権、バス・電車・飛行機の運賃、宝くじの売上などもWBSの対象になると桑原氏は論ずる。
 さすがに世界を代表する格付会社の人の物事を見る目は鋭い。

 論文中「昨年組成された有料道路の証券化案件などは、WBSのヒントになる取引である」と述べられている。
 桑原氏には私は確認はしていないが、これはひょっとすると私のホームページの『鑑定コラム』の記事 「熱海ビーチラインの証券化」の案件ではないだろうかと思った。

 その他優れた次の論文が掲載されている。最後の一つを除き、内容の紹介は紙面の都合上割愛する。

 ・事業再生ビジネスと不動産事業             真部敏巳
 ・全国競売評価ネットワーク設立の背景とその課題
                      不動産鑑定士 小川隆文
 ・不動産担保からの脱却の可能性      不動産鑑定士 松田佳久
 ・建物建築請負の履行過程での所有権の帰属 
                                            千葉大学教授 丸山英気
 ・新鑑定基準・最有効使用の分析      不動産鑑定士 高瀬博司
 ・不良債権処理の現状と担保評価をめぐる課題         安井礼二
 ・市街化区域農地(小作地)の固定資産税等の増
  加は小作料増額事由とはならないとされた最
  高裁判決について             税理士   今中 清

 最高裁の小作料についての判決は、小作料はその土地の農業収穫物の収入に応じて決められるべきものであるという考え方が、見事に反映された名判決である。
 私は、当然であり、当然過ぎる判決と思っているが、不動産鑑定士としては、記憶しておくべき判決の一つと思われる。

 最後に編集後記氏は、競売不動産評価について、最低競売価格の廃止の法案化の具体的動きについて、不動産鑑定協会・不動産鑑定士は何らの効果ある行動・対策も行わず、5年間惰眠をむさぼってきており、そのツケは大きいと嘆く。

 『Evaluation』9号は、大都市の有名書店のほか、下記ホームページから、購入出来ます。

         http://www.progres-net.co.jp/

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