社団法人日本不動産鑑定協会の関東甲信会(会長、海賀宏之)の研修会は、鑑定実務に直結する実務研修が多く、非常に勉強になる。
その関東甲信会が、2003年5月21日に、「不動産鑑定評価に係る著作権」という課題の研修会を開いた。
講師は青山学院大学の半田正夫学長と、インターネットの著作権に詳しい新進気鋭の弁護士の横山経通氏であった。
半田学長は著作権法の泰斗であり、著作権の歴史、著作権法とは何かについて語られた。
著作権とは、著作物を著作した人の権利である。
著作物とは、思想又は感情を創設的に表現したものであって、文芸、学芸、美術又は音楽の範囲に属するものであると定義される。
そして著作権の権利には、二次的著作権と著作者人格権も含めると、14の権利に分かれると説明された。
そんなに多くの権利が著作権に含まれるのかと驚いてしまった。
一冊の不動産鑑定書は著作権の対象となると話された。
著作権の期間は著作者死後50年であり、映画は公表後50年である。
日本もこれを採用しているが、世界は70年になりつつある。
日本もそれまで50年の期間を譲らなかったが、急拠態度を変えて70年にしようとしている。
それは、黒沢明監督の映画が公表後50年になろうとしており、「世界のクロサワ」の映画が自由に使われることを防ぐために、日本は著作権期間70年の法律案を急拠今国会で成立させると話された。
黒沢明の能力のすごさを改めて再再再認識させられた。法律をも変えさせる力であるのである。
横山経通弁護士は、固定資産税の路線価図は著作権の対象になるのか、不動産鑑定書のどこが著作権対象となり、著作権として保護されるか等具体的に話された。
私はかねがね、不動産鑑定士は著作権にうとすぎる。あるいは無防備であると思っていた。
そして、著作権に対する認識が甘すぎると実感していた。
極端なことをいえば、不動産鑑定書に著作権があるからこそ、「不当鑑定」としての責任を問われるのであり、それ故にもっと著作権への認識を深めて欲しいと思っていた。
作成された不動産鑑定書や不動産鑑定に関する論文を多く見るが、他人の考え方、データの無断引用の実に多いことである。他人の考え方は、タダで使用してもよいと思っているようである。
引用の出典の明示をはっきり行うことは、最低限守るべきことである。
過日、東京会の研究会の出版物の中に、ある不動産鑑定士の独創的考え方がそっくり無断使用されていた。
A氏の意見であると引用出典を明示すべきであるのを、全くそれを行わず、あたかも自分の意見であるごとくの論文である。
A氏は東京会にクレームを入れたが、それに対する東京会のとった行為が、誤字誤植の訂正の中でのお詫びだけである。
本来ならば、その出版物は全部回収しなければならない位のペナルティを受けるべき権利侵害である。そうしないと、今後、A氏のオリジナルな考えであるものが、無断引用した人の意見として間違って認められ、他の論文等に引用されてしまうのである。
言ってみれば、無断引用は他人の意見を盗んで、あたかも自分の意見であるごとく装い、自分の地位、名声を高めようとする卑劣な行為である。
こうした行為により、本来の著作権者への権利侵害がますますひどくなるのである。
それ位著作権違反というものは恐いものである。
著作権の侵害、違反を、誤字訂正と同じレベルと考えて処理するという認識の無さ、お粗末さには情けなくなってくる。猛省をうながしたい。
他人の創作性、独創性の考えをもっと不動産鑑定士は尊重しなければならない。
この考え或いはデータ分析の結果は、誰それ氏の研究成果のものですと言うことを示す引用出典を明示をすることは、何も恥ずべき行為では無い。全てが自分の労作であるごとく見せる必要性は無い。
その様な誤った見栄を張って、自分は偉いんだぞ、何でも知って居るんだぞというごとくの態度を取る必要性は無い。
そこのところを無断引用しょうとする不動産鑑定士は、しっかりと認識すべきである。
関東甲信会の研修会はよい企画であったが、講師の持ち時間が短く、著作権の総論的な内容で終わってしまった。
不動産鑑定士にとって、著作権というものとの初めての遭遇であるからそれも仕方がない。
私は、より一歩突っ込んだ「引用」と著作権侵害についての話が聞きたかったが。
それについては言及の時間が無いのが残念であった。
次には、「引用と著作権」という、より著作権にとっての難しい問題であるが、しかし、実務で一番重要な内容の研修会が開かれればと思っている。
鑑定コラム1663)「ある不動産鑑定の書籍から」
フレーム表示されていない場合はこちらへ トップページ
田原都市鑑定の最新の鑑定コラムへはトップページへ 前のページへ