○鑑定コラム
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土地取引価格情報の公開について、国土交通省が制度創設の法案提出に動きだした。
この土地取引価格情報の公開について、東京工業大学の肥田野登教授が、『Evaluation』11号(プログレス、2003年11月15日発行、03-3341-6573)の巻頭言で、「不動産関係業界は我が国の産業の主要セクターとなりうるか」という課題で論ずる。
『Evaluation』の雑誌の発行に携わり、編集委員の一人でもある私の立場から、雑誌の宣伝も兼ねることを大目に見ていただくとして、その内容を紹介する。
土地取引価格情報の公開には、下記の3案がある。肥田野教授の文章を引用すれば、次のごとくである。
「A案は地点が特定できる形で、売買価格をすべて開示というものである。
B案は街区などの単位で、売買価格を列挙する。
C案は広い地域を対象に売買価格の分布を示す。」
不動産関係セクターのGDPに占める割合は、十数パーセントにのぼる。それ程の重要なセクターに関係する不動産関係当時者が、C案を支持するのは理解に苦しむと述べ、結論的には肥田野教授はA案の支持を主張する。
その例証として、アメリカ自動車業界の1970〜80年代前半の業界の姿を述べる。目先の利益を重視して、保護貿易を主張して自国の自動車産業を守ろうとしたが、結果は裏目にでて、その後大きく立ち遅れたという現象を挙げる。
自動車産業と不動産業と違うという反論はあろうが、それは自分の産業の立場から、自分の産業を守ろうとする意識が、すでに働いている証拠そのものの反論と、私には解釈される。
教授は続ける。
「ぬるま湯に浸った自己改革のない産業界は、短期的にはこれまでと同じように甘い蜜を吸えても、長期的にはその蜜が当該国から消えてしまうことを覚悟すべきである」という。
このことは、不動産業界への警鐘のみでなく、そっくりそのまま不動産鑑定業界への警鐘とも受け取れる。
日本の不動産業界が、非常に危機感を感じつつある信託受益権による不動産売買がある。それはリート対象の不動産の多くが、不動産業者の仲介を介さずに、信託受益権による不動産売買で行われているためである。
アメリカでは、不動産業者はリート発行業者とほぼ考えられている。日本では未だそうした認識が無い。
日本にもリートが発売されだした。日本のリートをJリートと言う。
そのことに、日本の不動産業界が非常に危機感を感じつつあることについては上で述べたが、そのJリートについて、「日本で売り出されたアメリカのリートの方がJリートより好調なのは、日本に比較してアメリカ市場の透明性が格段に高いためである」と述べる。
即ち、肥田野教授は、不動産取引価格の透明性の高さこそが、最大に重要視されるべきものと主張しているのである。
アメリカのリートの方がJリートより好調であるのは、前に『鑑定コラム』の123)
「住宅ローンの証券化」
の記事で、アメリカのリート販売会社から、リートの翻訳本
『入門不動産投資信託』
(ブロック著)の大量の300冊の注文が一度に発行元のプログレスに来たことを書いたが、その現象が何故生じたかを、少し深く考えればわかることであり、かつ、理解出来ることである。
そして、最後に肥田野教授は不動産関係業界に厳しいことをいう。
「我が国の不動産関係業界がもし21世紀初頭に土地情報の開示に反対すれば、そのつけは大きく国民にのしかかることを、そしてその責をみずからつぐなわなければならないことをお考えいただきたい」という。
消費者(不動産の最終購入者)の立場でものごとを考えているのか。情報の公開とは透明性を高めることであり、情報の公開性の名を借りた不透明な情報公開は逆効果を招き、自らの首を締めることになるのだと、私は肥田野教授の巻頭言を読む。
アメリカの不動産取引価格情報の公開の実態を知るには一度、アメリカの不動産会社のホームページを開いてみることである。取引事例の一覧がザァーと何十と続くことに驚かされる。もちろん英字による情報であるが、その公開情報量に圧倒されてしまう。
全てがアメリカに右ならえとはいわないが、消費者の目にうつる日本の不動産取引価格について回る「うさん臭さ」を払拭することが、結果において、不動産業の発展につながるのではなかろうかと私は思う。
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