153)「IT革命と不動産市場」特集の『Evaluation』12号の発行
不動産鑑定の実務理論雑誌の『Evaluation』12号(プログレス2004年2月15日発行)が発刊された。内容を紹介する。
12号の特集は「IT革命と不動産市場」と、もう1つ先号の特集続編の「都市法をめぐる課題と展望(続)」である。論文は11篇掲載されている。
『Evaluation』の編集顧問の一人でもある東京大学助教授の藤末健三氏と、クレデイスイス銀行香港支店の鈴木武徳氏が共著で、「不動産市場におけるビジネスモデルの再構築」の課題で、現在のITをツールにした技術を4番目の技術革新と位置づける。
1番目は15世紀のグーテンベルグの印刷技術、2番目は19世紀のグラハム・ベルの電話機の発明、3番目はベァードによるテレビの発明という。
レモン市場理論、デコンストラクション理論という最新のマーケティング理論とITがどの様に結びついているかを論述する。
結論的には、IT革命によって不動産市場はイヤがうえにも情報公開に進まざるを得ないという。(なお藤末健三氏は、残念であるが、事情が生じ『Evaluation』の編集顧問を最近辞退されました。いずれは東京大学の教授と期待していたのですが残念です。)
(株)IDUの鳴海大輔氏は、「マザーズオークションに見る不動産市場のIT化」の課題で、IDU社が最近行ったインターネットによる大量の不動産オークションの状況を説明する。
IDU社は、ダイヤ建設の全国1200余物件のマンションのインターネットオークションを行い、オークションを大成功させたのである。
鳴海氏はいう。
「今回の出展物件は、従来であれば、バルク処理されていたものであり、IDU社が受注しなければ間違いなくバルク処分されていたであろう」。
そして、業界初めてのインターネットの大量競売の成功に、
「インターネットという媒体の威力と可能性をまざまざと見せつけられることになった」
と述べる。
国土交通省の土地情報課長補佐の笹原顕雄氏は、「土地取引情報の提供制度に関する検討について」の課題で、土地取引の公開制度の行政側担当者としての今迄のいきさつ、内容について述べる。
土地取引の公開がB案で実施されると思っていたら、本誌発行間近になって、急に土地取引の公開法案は廃案になってしまった。
何がおこったのか。
不動産鑑定士の小林秀二氏が、「J-REIT市場のPuzzleと新しい不動産評価方法」として、金融工学の手法を導入したモンテカルロDCF法による収益価格の評価手法について論ずる。
現行の割引率の求め方は、「間違いだらけの割引率」といって、借入金併用方式、CAPM、利回りマップによる求め方を強烈に批判する。
そして、氏は、
「複雑なリスク要因・コスト・分岐が絡み合った不動産では、定式化して解析的に解くことが困難であるため、モンテカルロ法とすることで、いくらでも複雑さを表現することが可能になる」
という。
「複雑さを表現することが可能」ということは、どういうことか、どうも私にはわからない。
複雑さを表現してどうするのだ、という新たな疑問が湧く。私は「シンプルこそベスト」という考え方を持っているが。
氏の理論を理解しようと試みるが、
「キャッシュ・フローを平準化することも現実には不可能である」
と自ら言いながら、実例のキャッシュ・フローの計算では、
「本件では、過去3年の平均値の標準化CFを採用した」
といって価格計算を行っている。私の理解不足かもしれないが、読んでいてますます分からなくなってくる。
氏の新しい分野での価格分析手法の挑戦心は高く買うが、いま一歩、わかりやすく、多くの人が納得出来る記述が欲しい。
不動産鑑定士で税理士である北川孝氏は、「不動産鑑定に金融工学を応用する手法について」の課題で、金融工学の中の「確率過程モデルの構築」、「ダイナミックDCF法」、「リアル・オプション」の3点について、かなりかみくだいて説明する。
ブラウン運動、幾何ブラウン運動、ブラック・ショールズ過程の公式が論ぜられるが、この辺りの公式は私の理解能力を超えており、読者の判断にまかす。
ダイナミックDCF法は、ドリフト、ボラティリティの数値のとり方によって、結果はいか様にも変わり、割引率も科学的に決められるものではなく、事前に設定しておかなければならないと説く。
そして、次のごとく氏はいう。
「DCF法の設定方法が「非常に主観的」「恣意的」であるならば、ダイナミックDCF法の設定方法も、全く同様に「非常に主観的」「恣意的」である」
とダイナミックDCF法の本質的な矛盾を喝破する。
ブラック・ショールズ理論を株価に当てはめると、株価の動きが、その理論と近似した動きをするから、ブラック・ショールズ理論が支持されているのであるが、不動産価格がブラック・ショールズ理論に近似した動きをしているという実証がなされているのかと、氏は鋭く指摘する。
その検証が全く無されずに、金融工学理論を不動産価格に導入することに対して、氏は強い疑念を抱く。
賃料の平均増減率(ドリフト)、その賃料の散らばりの範囲(ボラティリティ)が事前にわかれば、氏のいうごとく確かに楽である。
わからないから賃料評価で、適正賃料算出に苦労しているのであるのだが。
ニューヨーク在住の不動産鑑定士の荒川正子氏が、(FOCUS)で、「ニューヨークにおける不動産情報開示(1)」の課題で、アメリカの不動産情報開示の現実を報告してくれている。
アメリカの不動産情報開示は、日本で考えている程、整備よく開示されているものではないようである。
Deedという不動産譲渡証書で1つ1つ見つけださなければならないが、その作業と労力と時間が大変という。
情報を一元的に整理して、情報提供することを業とする「Title Search会社」というものがあると紹介する。
その他、優れた論文が掲載されているが、既に紙面を多く使ってしまった。
それら論文は『Evaluation』12号を購入して読んでいただきたい。
『Evaluation』12号の頒価は1,500円+消費税です。
大都市の有名書店のほか、下記ホームページから購入出来ます。
http://www.progres-net.co.jp/