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159)企業経営の再構築は会社分割か

 今より4年程前、平成12年(2001年)の中頃であったろうか。

 情報分析に優れ、洞察力のある知り合いの不動産鑑定士が、私に、
 「田原、会社分割法という法律が出来るようだ。この法律は利用される法制度の様な気がする。
 会社分割に伴う企業財産の鑑定評価という仕事に結びつく可能性があるぞ。 勉強しておいた方が良い。」
と云った。

 その後、平成13年(2002年)会社分割を折り込んだ商法改正が施行されるのを待って、縁あって、その不動産鑑定士と共に会社分割に伴う企業財産価値の鑑定評価を行うことになった。

 その企業は、本業の事業所・営業所以外に賃貸事務所ビル等の不動産を多く持っていたため、会社分割後、所有不動産の多くを売却処分した。
 会社分割時に、前もって不動産鑑定評価されていたため、不動産売却処分は、随分とスムーズに行ったと聞く。
 その幾つかの不動産は、不動産証券化され、或いはJリート組成の物件になっている。

 会社を分割するとはどういうことか、当初は私は全く知らなかった。
 羊羹を包丁で2つに切るごとく、会社を分割する事が出来るのであろうかと思った程である。

 しかし、会社分割の有用性が知れ渡り、企業の不況脱出あるいは経営の再構築の切り札として、多く使われるようになった。

 最近(2004年)の日本経済新聞に掲載された会社分割、企業分割、分社の主なものを拾うと、次の様なものが見受けられる。

 1.2004年1月13日   ヤマト運輸 物流受託事業を会社分割
 2.2004年2月18日   神戸製鋼  クレーン事業を会社分割
 3.2004年2月21日   高島屋   会社分割で岡山高島屋、岐阜高島
                  屋、高崎高島屋を新設
 4.2004年3月6日    ブリヂストン 化成品事業を会社分割
 5.2004年3月10日   産業再生機構 カネボウの化粧品事業を会社分割
 6.2004年4月1日    国土交通省  ゼネコンの会社分割を促進
 7.2004年4月6日   第一製薬   秋田工場、静岡工場、大阪工場
                   の3工場を会社分割
 8.2004年4月8日   NEC  NECエレのULSI開発試作事業部と先端SOC
                ライン運営事業部を会社分割
 これら記事を見ると、企業経営の再構築に、今や会社分割という手法が無視出来ないものであるとわかる。

 こうしたこと故、企業会計人には、会社分割の会計経理税務の知識が必須条件であると、本鑑定コラム158) 「無線事業の投資利回り12%」 で述べた。
 勤務している会社・企業がいつ何時、会社分割という経営方針をとるかもしれない。
 その時になって、企業会計の専門家である経理担当者が、
 「私知りません。出来ません。」
と言って、ことが収まるものでは無い。

 国土交通省が、ゼネコンに会社分割を積極的に勧めているのには驚く。
 経営の行き詰まりに遭遇するゼネコンが多いため、その再建を目的に会社分割を勧めているものと想像する。
 しかし、国土交通省は、そもそも、この会社分割法の法律作成に、どれほど積極的に関与してきたのであろうか。

 会社分割には資産の分割が必ず伴うが、その際にどれ程の企業が、分割所有不動産の時価を把握して会社分割を行っているのであろうか。
 資産の時価の把握に、「不動産鑑定評価」を利用して、会社分割を行っているのであろうか。

 簿価による資産価値の把握とか、固定資産税評価額等による財産価値の把握という「見なし時価」という安易な手段をとっているのでは無かろうか。

 そして改めて時価会計に遭遇し、あわてふためくということになる。

 企業経営者にお願いしたい。
 会社分割の資産価値の把握には、是非、「不動産鑑定評価」を行って、事業分割されることを勧める。
 鑑定評価には費用がやや掛かるが、「不動産鑑定評価」を行って時価評価の会計にする事により、それによって得られる経営利益は、不動産鑑定評価の費用など比では無い。その経営利益は計りしれない程大きい。
 極端なことを言えば、倒産を避ける経営方針が取り得られるかもしれないのである。

 企業の再構築に重要な制度となりつつある会社分割法は、平成12年(2001年)に立法化され、翌13年(2002年)4月より施行された。

 この法律の立案に不動産鑑定士、日本不動産鑑定協会は、どれ程関与し、成立のために努力したのであろうか。
 全く関与しなかったのでは無かろうか。
 そのような法律が出来るということすら知らなかったのでは無かろうか。

 今、現在、不動産鑑定士、日本不動産鑑定協会の全く知らないところで、不動産鑑定に係わる重要な問題が、不動産鑑定士の存在など無視して、立法化されつつあるかもしれない。

 幸いにも、平成13年の会社分割という商法改正は、不動産鑑定士にフォローの風となったが、その逆もあり得る。

 「先を洞察し、それに対策を立てるということに、不動産鑑定士は全く鈍感だ。他力本願過ぎる。」
と再び云われないことを望みたい。
    

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