エレクトロニクス機器の製造会社であるケンウッドが、東洋通信機(株)の無線事業を買受けた。(ケンウッドHPプレスリリース、2004年4月9日)
買受けしたのは、東洋通信機の業務用無線事業で無線機器事業と、その保守事業である。従業員50人も引継という。
東洋通信機の業務用無線事業とは、警察無線、消防・救急無線等の公共機関が公共業務に使用している無線である。
ケンウッドはタクシー配車無線などのほか、F1レースの無線にその名を聞く。
譲渡価格は約5億円である。
東洋通信機の同事業の年間売上高は、約18億円(2003年3月期)である。
投下資本に対する売上高の倍率は、
18億円÷5億円=3.6倍
である。
ケンウッドの2003年3月期の売上高、営業利益は、同社発表の損益計算書によれば、
売上高 157,799百万円
営業利益 5,256百万円
である。
営業利益率は、
5,256÷157,799=0.033
3.3%である。
買い受ける事業用無線事業の売上高は18億円である。
ケンウッドの経営方針によって事業経営されるとすれば、その18億円の売上に対する営業利益は、
18億円×0.033≒0.6億円
ということになる。
この事業取得するために投下した金額は5億円であるから、投下資本の利回りは、
0.6億円÷5億円=0.12
12%の利回りである。
約8年での資本回収である。
妥当な企業売買ではなかろうかと思われる。
上記12%の利回りは、企業収益より企業の価格を求める利回りであり、企業価格(企業価値)を求める場合の還元利回りと言うことになる。
この企業の工場の土地建物の価格を求める場合の還元利回りはどれ程になるかと云えば、上記企業利回りの12%から、下記のごとく求めることが出来る。
経営配分利益率を15%、資本配分利益は土地建物・機械装置に化体しているとして0%とし、機械装置の価格割合を20%とすると、
(1-0.15)×(1-0.2)=0.85×0.8=0.68
12%÷0.68=17.6%≒18%
工場の土地建物の価格を求める還元利回りは、18%ということになる。
18億円の売上高事業の本件の企業売買の土地建物の価格は、
0.6億円×0.68=0.408億円
0.408億円÷0.18=2.26億円≒2.3億円
と推定されることになる。
売買価格5億円と土地建物の価格2.3億円の差額は、技術・営業・経営・無体財産・機械装置の価値と言うことになろうか。
売上高に対する土地建物の価格割合は、
2.3億円÷18億円=0.128
と求められる。
20%以下のかなり低い価格割合で有る。
しかし、売買価格の5億円は、技術・営業・経営・無体財産・機械装置の価値を含めて考えれば、妥当な価格ということになろうか。
以上のこれらのことはあくまでも私の推定によるものである。事実とはかけ離れているかもしれないことを断っておく。
本件も、平成13年の商法改正による会社分割、分社化の簡易制度化による事業譲渡の一つであると思われるが、会社分割して企業売却ということが、ようやく一般企業にも浸透してきた。
企業の経理関係者は会社分割とはどういうものか、その知識を身につけていなければ、企業会計処理が出来無くなると思われる。
私は、それらの税務会計の知識は持っていないが、企業会計人には、それら知識は身に付けておく必須知識条件になるので無かろうか。
会社分割、分社そしてそれの企業売買は、今後益々増えるのでは無かろうかと思われる。
ではその際、どれ程の価格で売却すればよいのか。
購入する企業は、どれ程の価格で買うのか。
赤字決算の事業部門が、どれ程の価格になるのか。ゼロと言うわけでは無いであろう。
「妥当な投下資本利回りはどれ程か」等が、必ず問題になると思われる。
まさか、簿価で売買と言うような、安易ではあるが愚かなことを、企業経済人は行わないであろう。
鑑定コラム32)「企業収益還元法」