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1612)バブル地価に無定見に連動する固定資産税

 ある貸ビルがある。

 その貸ビルの賃料収入と土地固定資産税は、下記のごとくであったとする。

 賃料収入は、

      平成21年   59,600,000円
      平成24年   47,900,000円

 土地公租公課は、

      平成21年    3,520,000円
           平成24年        4,320,000円

であったとする。

 賃料収入に占める土地公租公課の割合は、

 (平成21年)
                    3,520,000円
                 ───────  = 0.059 …… 5.9%                
                   59,600,000円

 (平成24年) 4,320,000円 ───────  = 0.090 …… 9.0% 47,900,000円

である。

 固定資産税は、本来はその土地の生み出す収益によって課税されるべきものである。

 かっては、土地が生み出す収益によって固定資産税は課税されていた。

 土地登記簿には、賃貸価格が表示されていた。

 賃貸価格は、その土地の生み出す収益を資本還元した価格であり、その価格に3%を乗じた額が現在でいう固定資産税であった。

 賃貸価格が昭和25年に廃止されてからは、課税価格は収益性を無視して決定されるようになり、現在は地価公示価格・基準価格と均衡する標準宅地の価格の0.7掛の価格が固定資産税評価額となった。

 地価公示価格、基準価格は収益価格を考慮するが、殆どは比準価格を重視して決められるため、不動産の需給事情のバランスが崩れて、地価上昇利益の転売利益を目的とする土地購入者が増えて、地価が高騰した場合にも、その高騰した地価を前提にして求められた価格も適正な価格ということになる。

 転売目的で土地価格を高くつり上げ、利食い売りして逃げた投資家によって作りあげられた土地売買事例の価格によって、固定資産税は算定されることになる。

 このことは、土地高騰に全く無関係な大半の土地所有権者が、地価高騰の尻ぬぐいを固定資産税の増額という事実によって、させられることになる。不合理なことである。

 急激な地価上昇に対する措置として、負担調整措置制度があるが、それとて3年間に0.7掛の固定資産税評価額に近づけるための措置であり、地価上昇を無定見に連動する固定資産税の算定であることには変わりは無い。

 健全な貸ビル業を脅かす固定資産税の上昇は、無定見な固定資産税行政である。

 納税者を苦しめる課税は、民主的では無い。

 経団連等の財界が、政府に法人税の減額要請をするのは何故か。

 そしてそれに応じる法律改訂は何故行われるのか。

 法人税を納める企業の経済・生産活動を阻害し、過剰に苦しめる課税負担はいけないと云う考え方があるためではないのか。

 同じことは、土地に課税される固定資産税にも考えられてしかるべきであろう。

 野放図に、土地価格が上昇したから土地の固定資産税をあげるという考えは、間違っている。

 「地価上昇に無定見に連動していない。0.7掛の負担調整をしている。」と課税する側は、正当性を主張するであろうが、その結果が、貸ビルの賃料収入に対して、上記貸ビル例のごとく、土地の公租公課だけで9%を占めるものとなり、健全な貸ビル経営を脅かしている。

 賃料収入あっての土地、建物の公租公課である。

 固定資産税の課税には、賃料収入という存在を重視すべきである。

 賃料収入から見た支払限度と云うものが経済には存在する。

 その賃料収入による固定資産税の支払限度が、固定資産税の上昇限度である。

 この限度をオーバーすると、その固定資産税は不動産業という産業を破壊し始めることになる。

 日本の不動産業を破壊する固定資産税の存在は、それは否定されるべき税となろう。

 賃料収入を無視して、土地価格が値上りしたから土地公租公課を値上げするという考えは理論的に間違っている。

 貸ビルの収入に対して土地公租公課が9%を占めることが、それがどうしたという反論があるであろう。

 その反論に対して、貸ビルにあっては、土地の固定資産税のほかに、建物の固定資産税があることから、それらをひっくるめて、健全な貸ビル経営の賃料収入に対する公租公課の占める割合で説明する。

 ビル賃料収入に占める土地建物の公租公課の割合は、年間賃料収入1億円以下の場合は、「11%程度」(改訂増補『賃料<地代・家賃>評価の実際』P94(田原拓治著、プログレス、2017年2月)である。

 日本の不動産業の雄の一つである三菱地所株式会社のビル事業では、公租公課の賃料収入に占める割合については、前掲書P97に次のごとく記されている。

 「先に述べた三菱地所の賃貸ビルの必要諸経費を見てみると、平成27年(2015年)3月期の決算書によれば、ビル事業の建物賃貸売上高は、416,631百万円である。

 そのビル事業費用の明細書は、以下である。単位百万円。

        不動産賃借料      100,175
              減価償却費               40,275
              租税公課                 33,884
              建物管理費               32,508
              水道光熱費               27,118
              修繕維持費                3,806
              その他諸経費             17,163

 租税公課は 33,884百万円である。賃料収入は416,631百万円である。

 租税公課の賃料収入に占める割合は、

                    33,884百万円
                 ──────────= 0.081                      
                    416,631百万円

8.1%である。」

 公租公課の賃料収入に占める割合は、8.1%である。これは建物の公租公課を含めた公租公課の割合である。

 全国的に貸ビル事業を展開している三菱地所の場合で、賃料収入に占める公租公課の割合は、8.1%である。

 設例貸ビルの場合には、土地だけの公租公課で9.0%である。このほかに建物の公租公課がある。

 これを知れば、如何に課税側の行政の設例貸ビルの土地に対する公租公課が異常に高いかが分かろう。

 設例貸ビルの経営は、課税側の土地固定資産税の無定見な増額により、土地の公租公課の賃料収入に占める割合が、5.9%から9.0%となり悪化している。

 貸ビルにおける公租公課(土地、建物)は、賃料収入の10%が限度であることから、その範囲で公租公課の増税は歯止めにすべきものである。

 土地固定資産税の負担調整措置制度にも欠陥があることの自覚と、限度は賃料収入の支払える範囲と云うことを認識するべきであろう。

 課税側は、自分達は不動産業者ではないから、賃料収入を知ることが出来ないという主張がなされるであろう。

 しかし、課税側でも確かな賃料収入を知ることが出来る。

 固定資産税を課税する場合には、標準宅地の土地価格を求めて、その0.7掛の金額で、類似の地域性を持つ土地の固定資産税の課税路線価を決めている。

 標準宅地の価格評価にあっては、土地価格の取引事例比較法の他に、収益還元法が必ず行われている。

 それは、標準宅地上に最有効使用の建物を想定し、近隣地域の貸ビルの賃料と比較して賃料収入を決め、土地の収益価格を求めている。

 ここに、標準宅地の土地上の建物の賃料収入が表示されることから、賃料収入が分かる。

 これに10%を乗じれば、それが土地建物合わせた公租公課の上限値である。

 課税側でも充分適正な賃料収入を把握することが出来る。

 建物の固定資産税がいくらかは、課税側であっても分かろう。

 土地建物の公租公課より、建物の公租公課を控除すれば、土地の公租公課が求められる。

 この求められた土地の公租公課の金額が、標準宅地の土地の公租公課の限界であり、それは同一路線価の土地の公租公課の限界額となる。

 負担調整措置制度の欠陥は、こうした方策を行うことで防ぐことが出来る。

 バブル地価に連動して、経済合理性に反する役所の身勝手な論理で持って、野放図に土地固定資産税を課税していると、重税に耐えかねた土地所有者から、固定資産税の減額請求の裁判を起こされかねない。


  鑑定コラム1619)
「銀座4丁目山野楽器土地5050万円/u(29年地価公示)」


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