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1694) 建物価格評価の落とし穴

 建物の価格は、

    その建物の再調達原価×現在価値率=現在の建物価格
の算式で求める。

 再調達原価とは、不動産鑑定評価基準は、次の如く云う。

 「再調達原価とは、対象不動産を価格時点において再調達することを想定した場合において必要とされる適正な原価の総額をいう。」(平成26年改正鑑定基準国交省版P23)

 言い換えれば、再調達原価は、現存する建物の現在の新築価格を云う。

 昭和36年(1961年)に建てられた鉄骨鉄筋コンクリート造8階建ての事務所ビルがあったとする。1961年築であるから、現在(2017年)からみれば56年前に建てられたSRC造の建物である。

 この建物の再調達原価を、下記の2つの考え方を勘案して求めている鑑定書があった。

 @ 一般社団法人日本不動産鑑定士協会連合会発行の『平成28年地価公示における収益還元法適用上の運用指針等』における「基準建物・事務所ビルSRC造8F建て」のu当り278,000円に、設計監理費率1.05を乗じてu当り292,000円と求める。

 A 一般財団法人建設物価調査会JBCI2013によるSRC造事務所ビルの基準建築単価u当り249,000円に、事情補正、時点修正、建物仕様修正等を行って、u当り278,000円と求める。
 
 上記@Aよりu当り292,000円を対象建物の再調達原価とする鑑定書があった。

 上記再調達原価の求め方は間違っているのでは無かろうか。それも重過失な間違いである。

 それが何処かわかるであろうか。

 ここまでの文章をもう一度最初から読み直して、重過失は何処か見つけて欲しい。

 重過失が分からなかったら、自分の不動産鑑定評価のレベルは高くないと自覚し、不動産鑑定評価を勉強し直す心構えを謙虚に持って欲しい。

 繰り返す。「謙虚」にである。

 平成7年(1995年)1月17日、兵庫県南部を襲う「阪神・淡路大震災」が発生した。

 その時、旧耐震基準で建てた古い事務所ビル、マンションの多くが倒壊等の被害を受けた。

 ここまで書けば、前記SRC造の建物の鑑定評価が、重過失の評価であると分かるであろう。

 政府は、昭和56年(1981年)6月1日に、建築基準法施行令を改正した。建物の耐震基準を強化した。

 この強化された建物耐震基準を「新耐震基準」と云う。それまでの耐震基準を「旧耐震基準」と云う。

 前記取り上げた建物価格鑑定例の再調達原価は、@、Aで求められている。その@Aの再調達原価は、いずれも新耐震基準に拠る再調達原価であろう。

 平成28年地価公示の収益価格算出に使用する建物は、新耐震基準によって建てられている建物の賃料から求めた収益価格であろう。それを旧耐震基準の建物を想定しているということはないであろう。

 同じ様に、建設物価調査会発表の再調達原価は、新耐震基準に基づくものである。これを旧耐震基準による再調達原価であると云う人はいないであろう。

 鑑定例の建物は、昭和36年(1961年)建設のSRC造の建物である。

 その建物は、昭和56年(1981年)以前の建築であるから、旧耐震基準に基づく建物である。

 同じSRC造でも、旧耐震基準の建物の構造体と新耐震基準の構造体とは、構造が異なっている。構造体が異なっているにも係わらず、構造体が同じとして価格評価することは出来ないであろう。

 構造体が異なっておれば、当然再調達原価は異なろう。

 旧耐震基準の建物の再調達原価を、新耐震基準の再調達原価であるとして求めて良いであろうか。

 旧耐震基準の建物の再調達原価に、構造体が異なる新耐震基準の建物の再調達原価を採用することは間違いであろう。

 強度が増えてより安全性が高くなるからよいでは無いのかという反論があるであろうが、それは奇弁であり、反論に論理的合理性は無い。

 旧耐震基準の建物の再調達原価は、旧耐震基準の状態の再調達原価であるべきである。

 旧耐震基準の建物の再調達原価を、新耐震基準の建物の再調達原価と同じであるとして求めるものではない。重過失のあるその鑑定書の信頼性は、ほぼゼロとなる。

 その求め方は間違っていると注意してくれる人が、その不動産鑑定士の周りにいないのか。

 挙げ句の果てに、そうした鑑定書を書いている不動産鑑定士が、他人の不動産鑑定書を間違っていると激しく非難しているものに出くわす。

 旧耐震基準の建物を新耐震基準に対応する建物にするには、新耐震基準に対応する耐震改修工事をする必要がある。

 その耐震改修工事費は、延床面積10,000uのRC造建物で、u当り5万円程度の耐震工事費が必要と、東京建設業協会は発表している。

 旧耐震基準のSRC造の建物、RC造の建物の耐震改修工事費単価は同じであると仮定すると、上記新耐震に対応する建物の再調達原価は、u当り292,000円であるから、昭和36年建築の鑑定例の建物の再調達原価は、

         292,000円−50,000円=242,000円

u当り242,000円程度となる。

 私は、旧耐震建物の場合、新耐震基準の建物の再調達原価から耐震改修工事費u当り5万円を差し引いて再調達原価を求めていたが、その田原鑑定書は間違っていると激しく非難された。それも裁判所提出書類としてである。イヤハヤ。


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