○鑑定コラム
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当該更地の面積が、近隣地域の標準的な土地面積に較べて大きい場合、更地分譲地を想定するか、分譲マンションを想定して土地の更地価格を求める。
この土地価格の求め方を開発法と云う。原価法の逆の求め方である。
分譲マンションを想定する場合の開発法について、不動産鑑定評価基準(以下「鑑定基準」と呼ぶ)は、次のごとく述べる。
「一体利用することが合理的と認められるときは、価格時点において当該更地に最有効使用の建物が建築されることを想定し、販売総額から通常の建物建築費用相当額及び発注者が直接負担すべき通常の付帯費用を控除して得た価格」(平成26年改正鑑定基準国交省版P42)を求める手法を云う。
「一体利用」とは、土地の上に建物を建てて、その建物と土地が1つの不動産として利用されることを云う。
分譲マンションを建てて、分譲マンションとして販売するまでには数年の年月が必要である。
収入・支出は、価格時点以降の将来に入る収入金額であり、将来に出る支出金額である。
将来のものであるため、価格時点の現在価値に引き戻す、つまり割り引く必要がある。
この割引率は、「投下資本利益率」と呼ばれる。
この投下資本利益率は、開発利益、利子そして事業リスクの要因で形成されている。
投下資本利益率をどれ程の値にするかは、開発法の手法を行う時には、大変重要なことである。
開発法の投下資本利益率をどの様に求めたらよいのか。
1つの求め方を以下で述べる。
財務省の研究機関である財務総合政策研究所が『財政金融統計月報』を発行している。
その月報の10月発行号に、前年度の法人企業の統計をまとめた「法人企業統計年報特集」が発表される。
その統計年報に、不動産業の経営統計数値が記されている。その中に不動産業の営業利益率、金融費用比率の数値がある。
営業利益率は、
営業利益
───── ×100
売上高
の算式で求められる。
金融費用比率は、
支払利息等
───────×100
売上高
の算式で求められる。
不動産業の営業利益率、金融費用比率は、下記である。
営業利益率 金融費用比率
平成18年度 11.0% 3.0%
平成19年度 11.0% 3.0%
平成20年度 8.8% 4.2%
平成21年度 9.3% 5.6%
平成22年度 12.1% 4.1%
平成23年度 11.7% 4.5%
平成24年度 9.9% 3.7%
平成25年度 11.0% 3.3%
平成26年度 12.6% 2.7%
平成27年度 11.6% 2.4%
平均 10.9% 3.7%
標準偏差 1.2 1.0
変動係数 0.110 0.270
製造業の金融費用比率は、同統計年報に依れば0.3%である。
それに比し、不動産業の金融費用比率は、平成27年度で2.4%、平成18年度〜平成27年度の平均で3.7%である。
不動産業の金融費用比率が、甚だ高い。製造業の8倍である。
その理由は、不動産業は銀行からの借入金が甚だ多額であるためである。
不動産業の借入金は、同統計年報に依れば、売上高の178.2%である。製造業は25.2%である。
例えば売上高が100億円の不動産会社があったとする。
その不動産会社の借入金は、
100億円×1.782=178億2000万円
となる。
売上高に対して金融費用比率は2.4%であるから、支払利子は、
100億円×0.024=2億4000万円
となる。
売上高の1.782倍の借入金が不動産業の平均であり、それで企業活動及び営業しているのである。
この借金体質は、製造業の企業から見ればひっくり返る程の借金経営と映るのではなかろうか。
多額の借金経営が不動産業の体質と分かったが、ついでに借入金利は、どれ程か分析してみる。
借入金の支払利子は2億4000万円であり、その借入金は178億2000万円であるから、
2億4000万円
─────── =0.01346≒0.0135
178億2000万円
借入金利は1.35%となる。低利の貸付金利である。
黒田日銀の超超金融緩和の低金利政策の恩恵を、不動産業はフルに受けていると云うことが分かろう。
分譲マンションを行う業者は、不動産業者である。
投下資本利益率は、営業利益、利子を構成要素としていることから、不動産業の営業利益率、金融費用比率を採用することには合理性があろう。
平成27年度の各値を採用すれば、
営業利益率 11.6%
金融費用比率 2.4%
小計 14.0%
である。
事業リスクとしては、不動産が本質的に持っているリスクである不動性、不変性、換金の困難性は、事業が不動産を扱うものであるから、求められた14.0%の中に既に折り込まれている。
しかし、環境の悪さ、遠い場所にある、道路要因、地形が悪い、傾斜地である等の要因に依って、売上高が落ち、或いは売れなくて利益に影響が出るとか、保有期間が長くかかり管理費、金利がかさむ等が生じることも充分ある。
上記と全く逆の場合もある。
駅に近く、道路条件、地形も良く、住環境も優れている土地では、マンションの売れ行きは良く、短期間で利益を回収することが出来る場合もある。
これら要因は、結果として営業利益の多寡や金融費用の高低に結びつく。
とすれば、それらリスクは、営業利益率と金融費用比率のリスク数値でカバー出来るのではなかろうかと考えられる。
統計学上では、標準偏差の1倍の範囲で、その生起率の約70%はカバーされる。
ここで、各年の平均値に対する標準偏差の割合(変動係数)は、平成18年度から平成27年度の平均値で求められた変動係数と同じとする。
上記で述べた開発法の事業リスクは、営業利益率、金融費用比率の標準偏差の1倍の値の範囲で解決されると判断する。
平成27年度の営業利益率の標準偏差は、
11.6%×0.110=1.3(%)
と推定される。
平成27年度の金融費用比率の標準偏差は、
2.4%×0.270=0.6(%)
と推定される。
これからリスク数値は、
営業利益率の標準偏差の1倍 1.3(%)
金融費用比率の標準偏差の1倍 0.6(%)
小計 1.9(%)
となる。
リスク修正値はプラス・マイナス1.9%と考えられる。
14.0+1.9=15.9%
14.0−1.9=12.1%
開発法の投下資本利益率は、
12.1%〜15.9%
と分析される。
不動産が本来持っているリスクは、既述した如く、既に14%の投下資本利益率に折り込まれている。
事業リスク修正は、必ずしなければならないと云うものでは無いことから、特別な要因も見当たらない場合には、14%を投下資本利益率とすれば良い。
上記の考え方で、投下資本利益率を14.0%若しくは14.0%±1.9%と分析した。
この求め方は1つの求め方である。外にも違った求め方はあろうかと思われる。
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