○鑑定コラム



フレーム表示されていない場合はこちらへ トップページ

田原都市鑑定の最新の鑑定コラムへはトップページへ

前のページへ
後のページへ
鑑定コラム全目次へ

172)駅の左か、右か

 今から20年前(1980年) 頃だったろうか。
 東京の郊外の住宅地開発が盛んで、電鉄会社、旧日本住宅公団がニュータウンを建設していた頃である。

 丘陵山林或いは農地を、区画整理事業や全面土地買収により大規模住宅団地の造成が行われていた。そうした大規模住宅団地開発と共に鉄道新線も作られ、新駅が作られていた。

 ある人が、新駅が出来た新興住宅団地の商業地の土地購入について、私に相談があった。

 「駅前広場に面する商業地の土地があるが、駅の出入口を出て右か、左かどちらの土地を買ったら良いのか。」
という相談であった。

 話は飛ぶ。

 商業地の鑑定評価の依頼があった場合、私は対象地、取引事例地、地価公示地、基準地の前の通行人の量を、それぞれの現地に立ってカウンターで調べることにしている。

 一日中の通行人量を調べるのがベストであるが、時間の制約と調査をする人を雇う費用の事もあることから、簡便な方法として、平日日中13時〜14時の間の通行人の量で比較推定する事にしている。

 平日日中13時〜14時の間は、一番人通りの少ない時間帯である。
 その一番人通りの少ない時間帯であるにも係わらず、通行人が多い地域は、一日の通行人はやはり多いであろうと仮説推定する。

 13時〜14時の一時間の人通りの数と商業地の地価との関係を分析すると、相当高い信頼度で相関関係が認められる。
 道の狭い商店街でも、街道と名の付く広い幅員の通りよりも、人通りが多ければ、土地の価格は高い。

 これは当然の事である。
 お金を持ってきてくれるのは来店する「人」である。 人通りが少なくては、小売り店舗の売り上げは上がらない。
 通行人の多い所の商業地の地価は高く、人通りの少ない所の商業地の地価はやはり安い。
 但し例外はある。夜の飲み屋街には日中の人通りの多寡は適用出来ない。

 商業地の通行人と地価の関係を調査分析しているうちに、妙な現象が分かってきた。
 同じ駅前広場に面している商業地であっても、改札口との位置関係で、地価に大幅な違いがあることが分かった。

 鉄路と平行に正面改札口を背にして立って、改札口の左と右とでは、土地価格に差がある事が分かった。

 左側の土地の方が高い場合が多い。
 駅の設置のいきさつとか、川や山に遮られる等の地形によって例外はあるが、何故か左側の土地の方が価格が高い。

 この価格現象をJR中央線の主要駅で、相続税の路線価(平成15年 2003年)の価格で検討してみると、次のごとくである。

 吉祥寺駅は、北口側が主要出入口であり、主要出入口を背にして駅前広場の路線価を見ると、左側は平方メートル3,000千円、右側は1,620千円である。
 近鉄百貨店は右側先に立地していたが撤退した。
 左側の奥には東急百貨店があり、ここは繁盛している。

 立川駅は北口側が主要出入口であり、駅広場の路線価の価格を見ると、左側は平方メートル2,280千円、右側は1,500千円である。

 八王子駅は、ここも北口側が主要出入口であり、駅広場の路線価の価格を見ると、左側は平方メートル1,640千円、右側は1,400千円である。
 もっと価格差があっても良いと思われるが、右側の斜め道路先には京王八王子駅があり、この駅の存在が土地価格に影響していると思われる。

 都心ターミナルの新宿駅で見ると、山手線を背にして見れば、東口側が主要出入口である。駅広場の路線価の価格を見ると、左側は新宿通りであることも関係するが、平方メートル10,640千円、右側は5,600千円である。

いずれも左側の土地の方が高い。

 では東京駅ではどうであろうか。
 丸の内側が東京駅の主要出入口である。皇居に向かって左側は、東京中央郵便局で、その前の路線価価格は、平方メートル10,950千円、右側は旧国鉄本社で、現在高層ビルが建築中である。その前の路線価価格は、平方メートル10,950千円である。

 東京駅は左側、右側とも同じ価格である。

 左側は丸の内2丁目で東京三菱銀行本店を中心にした、いわゆる三菱村と呼ばれるオフイスビル街である。
 右側は丸の内1丁目で三菱村の一部であるが、それ以外の所有者の事務所ビルがあり、その先は大手町で、中央官庁の東京地方管轄局の多い地域である。

 相続税路線価は、左側の丸の内2丁目の東京中央郵便局前、右側の丸の内1丁目の旧国鉄本社前も同じであるが、私が評価するとすれば、同じ価格では無く、左側の東京中央郵便局前の方が10%以上高く価格を付ける。

 東京国税局の路線価付設担当者は、それなりの理由があり、或いは過去からのいきさつもあって、左右どちらが優れているかという判断がつきかね、無難なところを考えて同一価格にしたのでは無かろうかと想像する。

 もっとも、丸の内地区に相続税路線価を設定する事は、「相続税」の主旨を考えれば必要無いと私には思われるが。

 話は最初に戻る。

 郊外分譲地の駅前広場の土地の、左か右かどちらを買った方が良いのかという相談を受けた時、私は相談者に聞いた。
 「左と右の土地の平方メートル単価はいくらか。」
 そしたら、
 「同じ平方メートル単価だ。」
と答が帰ったきた。
 私は即座に、
 「迷わずに左側の土地を購入した方が良い。」
とアドバイスした。

 何故左側の土地が高いのかの原因は分からない。

 人は右方向よりも左方向に歩む本能を持っているのであろうか。
 陸上競技のトラック走は何故か左廻りである。
 サッカーのホームグランドで勝った選手が、応援してくれたスタンドのファンに対して感謝のためのグランドの廻り方も、誰に指示された訳でもないのに、自然と左廻りに回っている。
 何かあるのであろうか。

 この目に見えない人間の習性か本能が、駅前広場の土地価格の形成に反映されているのであろうか。

フレーム表示されていない場合はこちらへ トップページ

田原都市鑑定の最新の鑑定コラムへはトップページへ

前のページへ
後のページへ
鑑定コラム全目次へ