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173)実際実質賃料とは

 実際実質賃料という用語を初めて目にする人は多いと思う。
 この用語は、不動産鑑定評価の専門用語である。

 不動産鑑定評価の専門用語であるからと言って、不動産鑑定評価の中でしか使われなく、かつ存在でしかないものかというと、そうではない。

 その専門用語の意味する内容のものは、建物の賃貸借契約が行われている賃料には、全て実際実質賃料というものが存在している。

 実際実質賃料とは、賃貸借契約されている時に、借主から貸主に支払われる全ての賃料対価をいう。

 それを構成するものは、

     支払賃料
     共益費
     保証金・敷金の運用益
     保証金の償却額
     礼金の償却額
     過去に支払った更新料の償却額
である。

 実際実質賃料は、対象建物の賃料のみに適用されるだけでなく、賃貸事例比較法を行う場合には、その賃貸事例の賃料にも適用される。

 実際実質賃料が鑑定評価上に登場する場合は2つある。
 
 1つは、新規賃料を求める場合に、積算賃料と賃貸事例比較法の2つの賃料より実質賃料を求めるのであるが、その賃貸事例の賃料を求める時に実際実質賃料を考えなければならない。

 もう1つは、継続賃料の差額配分法を行う際に、対象不動産の実際実質賃料を求める必要がある。

 実際実質賃料の計算で、多くの不動産鑑定士が見落すのが、共益費、保証金の償却額、過去に支払われた更新料の償却額である。
 
 共益費は通り抜けの金額だからという理由で計上しなくても良いと考えている不動産鑑定士も居るようであるが、収入としての共益費と支払としての共益費は必ずしも同額であるとは言えない。共益費の中には共益費として通り抜けの金額もあろうがそうでない部分もある。その通り抜けでない部分は賃料のうちの純賃料に属することになる。

 もし通り抜けを理由として経費計上もしないとするならば、固定資産税はまさに通り抜けそのものであることから、経費計上する必要が無いことになる。
 しかし、通り抜けの費用の最たるものである固定資産税には通り抜け云々の理由を付けずに計上し、共益費は通り抜けであるから経費計上しないという理論構成は自己矛盾も甚だしく、論理の破綻をきたしている。

 共益費は賃料を形成するものであるから、授受されているならば、それは計上しなければならない。

 保証金の償却額とは、賃貸借契約の終了時に保証金の10%程度を償却するという契約がある場合の、その償却額である。これも実際実質賃料を形成する。

   一つの例を挙げる。
 保証金の金額が月額支払い賃料の10ヶ月とし、そのうち2ヶ月は賃貸借契約終了時に償却するという賃貸借契約があったとする。

 この条件で、ある不動産鑑定書は、
     保証金の運用益     8ヶ月×運用利回り
     保証金の償却額          2ヶ月×償却率
と求めていた。

 保証金の償却が発生するのは、賃貸借契約終了時である。
 賃貸借期間が2年であれば、2年後に償却は発生するのである。それまでは保証金は預かり金であり、賃借人の所有物であり、賃貸人の所有物ではない。
 上記の不動産鑑定書の求め方は、賃貸借契約時に保証金の2ヶ月分が、賃貸人の所有物になったと考えている求め方である。この考え方は礼金の償却額の求め方である。
 保証金の償却と礼金の償却とははっきりと異なるのである。

 弁護士の中ですら、保証金の償却は賃貸借契約時に発生し償却出来ると考えている人がいた。
 賃貸人のある代理人弁護士が 、準備書面で保証金の償却が契約時に発生して計算して、賃料増額請求をしてきたので 、
 「賃借人の所有物を勝手に賃貸人の所有物にするのか。それは詐欺・横領の類では無いのか。」
と噛みついてやったことがある。

 賃貸人の代理人弁護士も、詐欺・横領に等しいと指摘されて、法律家として分かったのか、主張を撤回してきた。

 賃貸借契約が継続していると、契約期間の更新に当たって、新規賃料の1ヶ月分の更新料を支払うという契約がある場合が多い。
 月額賃料が低額の場合には、さほど問題にならないかもしれないが、月額賃料が400万円とか500万円の賃料の場合、その金額相当の償却額は侮れない金額となる。

 例えば、6年前と4年前に500万円の更新料を過去2回支払っていたとする。
 その金額は1000万円である。
 更新料の償却額は、金利を考えないとすると、
     500万円÷6年÷12=6.94万円
 2回目の更新の500万円は、
     500万円÷4÷12=10.41万
で、2つの更新料の償却額は、月額で、
     6.94万円+10.41万円=17.35万円
となる。

 この金額が支払賃料に加算されて、現時点・賃料改訂時の実際実質賃料になる。

 この17.35万円は、500万円の支払賃料に対して、
     17.35万円÷500万円=0.0347≒0.035
3.5%の割合になる。無視するには大きすぎる割合であり、無視する事の出来ない割合である。

 継続賃料が、新規賃料より安い賃料現象を生じる一つの原因は、長期の賃貸借契約の間に、更新料の授受等が行われ、その償却相当額が支払賃料に影響を与えるためである。

 賃借期間の長期化に伴い、賃借人は、その間は賃貸人の財産価値の形成に協力してきたのである。
 このことを無視して、授受された更新料は支払賃料とは関係ないとして継続賃料を評価すると、賃借人側より猛反発を食らうことになる。

 『賃料<家賃>評価の実際』p347(清文社)に、このことについて、次の様な記述がある。

 『更新料の償却を忘れると、賃借人側から「支払った更新料はドブに捨てた金になるのか」と強い反発を受けることになる。そして「鑑定を知らない不動産鑑定士」、「不等鑑定」の非難を強烈に浴びることになる。』

 最近(2004年)、東京地裁の鑑定人の家賃の鑑定書で、過去に支払ったおよそ1000万円の更新料を全く無視して、2年前に改訂した現行賃料を増額するという鑑定書にお目にかかった。

 賃借人側に、
 「この鑑定書の更新料無視は賃借人を愚弄しているものだ。」
と、説明したところ、
 「こちらが家賃に素人だと思って馬鹿にしゃがって。」
と賃借人は、東京地裁の鑑定人の鑑定家賃に対して怒り出してしまった。

 多額な更新料を支払っているのに、全くその事実を無視して、
 「賃料増額の賃料が適正である。」
と結論づける鑑定書に対して、賃借人が、
 「何が適正か。」
と言って怒るのは当然であろう。


  鑑定コラム1068)「実質賃料、新規実質賃料、実際実質賃料」


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