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1809)田原の著書の期待利回り・還元利回りの求め方に対する批判の反論

イ,期待利回りとは

 期待利回りとは賃料を求める場合に、元本の土地、建物の価格と純賃料を取り持つ利回りをいう。

                 土地、建物の価格×期待利回り=純賃料

 期待利回りと還元利回りは、貨幣でいえば表と裏の関係である。

 即ち還元利回りは、

                  純賃料÷還元利回り=土地、建物の価格

の利回りをいう。

 上記算式から、還元利回りは、

                                    純賃料
              還元利回り =  ────────────              
                                 土地、建物の価格

の算式より求められる。

 期待利回りを直接求めることは、困難である。還元利回りを求めて、それを貨幣の表と裏の関係から期待利回りとして採用する。

ロ,賃料の期待利回りは、貸主が期待する、即ち、希望する利回りではない。

 賃料の期待利回りは、当該不動産が属する地域の土地価格、地域で形成されている賃料、当該建物の建築年数等の個別性、そして契約内容の個別性を反映して形成されるものであり、各建物ごとに期待利回りは異なって形成されてしかるべきものである。

ハ,還元利回りの算式

 『賃料(地代・家賃)評価の実際』p45(田原 プログレス 2005年)で、還元利回りは、

         粗利回り×(1-必要諸経費率)=還元利回り

と求め方が説明されている。

 粗利回りは、当該土地建物の価格に対する賃料総収入の割合である。

                           賃料総収入
       粗利回り= ───────────                     
                           当該土地建物価格

 そして、粗利回りの求め方の算式は、前掲書同ページに理論分析され、下記算式の成立が証明されている。

      粗利回り
           u当り賃料×12×共益費修正率×運用償却額修正率×空室率修正
               ×経年賃料修正率×容積率×賃貸面積率
          =─────────────────────────       
            土地単価+建物工事費単価×容積率×償却修正率

 上記式に土地価格等の数値を代入し、必要諸経費率(減価償却費込み)を代入すれば、期待利回りは求められる。

 償却前必要諸経費率を使用すれば、償却前期待利回り(償却前還元利回り)が求められる。

 必要諸経費率は、賃料総収入に占める割合である。

 下記算式で求められる。

                      必要諸経費
                   ────────  = 必要諸経費率               
                     賃料総収入

 必要諸経費の中に減価償却費を含めたものが、償却後必要諸経費であり、求められる必要諸経費は、償却後必要諸経費であり、それを利用して求められた期待利回り、還元利回りは、「償却後期待利回り、償却後還元利回り」である。

 一方、必要諸経費の中に減価償却費を含め無いものが、償却前必要諸経費であり、求められる必要諸経費は、償却前必要諸経費であり、それを利用して求められた期待利回り、還元利回りは、「償却前期待利回り、償却前還元利回り」である。

 必要諸経費率は、減価償却費込みで、おおよそ下記の割合である。

   ショッピングセンター     33% (鑑定コラム694)
      貸事務所                   36% (鑑定コラム684)
      丸ビル                        37.1% (鑑定コラム1387)
      賃貸マンション(日本賃貸住宅投資法人)
                                   44.0% (鑑定コラム1647)
      賃貸マンション                35% (前掲著書P79)

 賃料総収入、必要諸経費、純賃料(純収益)の関係は、下記である。

     賃料総収入−必要諸経費 = 純賃料

 前記の期待利回り(還元利回り)の求め方は、不動産鑑定評価基準が還元利回りの求める方法として挙げている4つの方法のうち(ア)の「類似の不動産の取引事例との比較から求める方法」(26年改正鑑定基準国交省版P30) を論理的に、科学的により進化させたものである。

 具体的には、土地価格等の数値を算式に代入して求めると下記である。

    土地単価          u当り3,150,000円
    建物工事単価     u当り  333,000円
        建物価格           u当り   86,600円
    償却修正率         86,600円/333,000=0.26
    u当り支払賃料    5,300円/月
    共益費修正率          1.450
    運用償却額修正率   1.005
      空室率修正率          0.95
    経年賃料修正率    1.00
    容積率               3.55
    賃貸面積率(レンタブル比) 0.780
    必要諸経費率     0.38

    標準粗利回り 0.07051546 還元利回り(総合) 0.043719585 0.044

(注)
a,土地価格は標準価格である。

b,u当り賃料5,300円は次のごとく求める。

 後記(省略)比準賃料の検討から、対象地の建物の品等、立地の良さを考慮し、基準階の3階の支払賃料をu当り6,000円程度と判断する。これは基準階の3階の賃料とする。

 3階の賃貸面積は583.33uであるから、

                  6,000円×583.33u=3,499,980円

が3階事務所賃料となる。

 その3階の階層別効用配分割合は0.2379であるから、ビル全体の支払賃料は、

                  3,499,980円÷0.2379=14,711,980円

と推定される。これを賃貸面積で除せば、

                   14,711,980円
                 ───────=5,302円≒5,300円                   
                    2,774.98u

 ビルの平均支払賃料は、u当り5,300円と求められる。

ニ,期待利回り

 対象地周辺の賃料と均衡をはかった賃料より、対象建物の個別性、契約事情を反映して求められた適正な期待利回りを

                               4.4%
とする。

ホ, 批判

 上記算式を具体化した上記数値一覧において、u当り賃料に比準賃料を採用していることから、田原鑑定の求めている期待利回りの求め方は間違っているという批判が、過去になされた。また現在でもなされている。

 その批判は次の様な内容のものである。

 「積算法と賃貸事例比較法は、各手法の適用において共通する価格形成要因に係る判断に整合性に留意しながら、それぞれ独立して新規賃料を求めるものであるから、積算法の適用過程において賃貸事例比較法の適用結果である比準賃料を用いることは明らかに鑑定評価手法における誤りである。」と。

へ, 鑑定基準の改正

 しかし、その批判は平成26年5月1日に鑑定基準の改正により、退けられることになった。

 a.改正前の鑑定基準

 総論
 第8章
 第7節 鑑定評価方式の適用

 鑑定評価方式の適用に当たっては、鑑定評価方式を当該案件に即して適切に適用すべきである。この場合、原則として、原価方式、比較方式及び収益方式の三方式を併用すべきであり、対象不動産の種類、所在地の実情、資料の信頼性等により三方式の併用が困難な場合においても、その考え方をできるだけ参酌するように努めるべきである。

 b.26年改正 

 第7節 鑑定評価の手法の適用

 鑑定評価の手法の適用に当たっては、鑑定評価の手法を当該案件に即して適切に適用すべきである。この場合、地域分析及び個別分析により把握した対象不動産に係わる市場の特性等を適切に反映した複数の鑑定評価の手法を適用すべきであり、対象不動産の種類、所在地の実情、資料の信頼性等により複数の鑑定評価の手法の適用が困難な場合においても、その考え方をできるだけ参酌するように努めるべきである。(平成26年鑑定基準国交省版P38)

ト、基準の変更になった個所

 a.節の文言  鑑定評価方式 → 鑑定評価の手法

 b.加入文言1 「地域分析及び個別分析により把握した対象不動産に係わる市場の特性等を適切に反映した複数の鑑定評価の手法」

 c.加入文言2 「複数の鑑定評価の手法の適用」

チ、基準改正の解説

 鑑定評価の手法が三方式にこだわらず、一つの手法に複数の方式を取り入れることになった鑑定基準の変更について、基準を解説する基本書物には次のごとくの説明がなされている。

 平成26年5月1日に鑑定基準の改正の重要方針の1つとして「不動産市場の国際化への対応」の項目が掲げられた。

 その項目の中の1つとして、鑑定基準の考え方が大きく変更となった。

 「鑑定評価手法に関し、原則として「3方式」を併用することを求めている改正前規定について、市場分析により把握した市場の特性を適正に反映した「複数の手法」を適用することを求める規定に変更」することになった。(『要説 不動産鑑定評価基準と価格等調査ガイドライン』P29(公益社団法人日本不動産鑑定士協会連合会監修、鑑定評価基準委員会編著、住宅新報社、2015年10月発行))(資料1 省略)

 この「複数の手法」を適用する規程の変更の解釈として同著P150で次のごとく解説する。

 「鑑定評価の方式は、価格を求める手法と賃料を求める手法に分類され、三方式それぞれの考え方を中心とした鑑定評価の三手法が規定されているが、これら各方式と各手法とは必ずしも一対一の関係にあるものではなく、一つの手法の中にそれぞれ三方式の考え方が輻輳して取り入れられて適用されるものであることに留意する必要がある。

 そのほかに、鑑定評価の三手法の考え方を活用した手法が、価格を求める手法と賃料を求める手法のそれぞれに固有の手法として規定されている。

 このように、鑑定評価の各手法を適用して求められた価格又は賃料は、それぞれの手法に共通する要因を反映したものであり、いずれもそれぞれ最終的に求めようとする価格又は賃料を指向するものであるから、これら共通する要因に係る判断の整合性について再吟味することによって適正な鑑定評価額を最終的に導き出すことができる。」

リ、2005年に発表した還元利回り・期待利回りの求め方の算式が、発表以後賛同を得る一方批判も受けた。

 現在においても、鑑定基準が前記のごとく変更されたということが分かっていない複数の不動産鑑定士から、法廷で田原鑑定の期待利回りの求め方は鑑定基準違反であると激しく攻撃され批判を受けているが。

 だが、11年の歳月を経て、ようやく求め方の妥当性が認められたようである。

 日本不動産鑑定士協会連合会が、鑑定評価の三方式が、それぞれ一対一の関係にあるものではなく、一つの手法の中にそれぞれ三方式の考え方が輻輳して取り入れられて適用されるものであると鑑定評価の考え方の大転換を行った。

 上記還元利回りの求め方が、その大転換の遠因の1つになっているかどうかは、私には分からないが、少なくとも今後裁判の法廷において、田原鑑定の還元利回り(期待利回り)の求め方は、不動産鑑定評価基準違反であり、その様な利回りの求め方は認められないものであると云う批判は、その批判こそが鑑定基準違反となることから、そうした批判は影を潜めることになろうとホッとしている。

 (2018年7月25日ホテルニューオータニの小さな会議室で開かれた田原塾の講話のレジュメに加筆追加して)


  鑑定コラム19)
「還元利回りの求め方」


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