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19)還元利回りの求め方

 還元利回りのデータが整備されていない地域(還元利回りのデータが整備されている地域などどこにもないのが実情であるが)の不動産を評価する場合、還元利回りをどのように決定すべきか判断に迷う時がよくある。
 土地価格、平方メートル当り賃料はわかったが当該土地、当該地域の還元利回りが不明である場合が多い。

 国債利回り2.5%、リスクa%、その他要因b%等々で総合して云々という求め方なぞ止めた方がよい。(もつとも論理的にそれら各割合によって還元利回りが実証できれば話は別だが)

アメリカの投資銀行のある人がこんなことをいっていた。
 「うちの会社でハーバード大学を出た優秀な人々が、国債の利回りと不動産の還元利回り(キヤップレート)の関係を何十年もかかって分析しているが、今なお両者の関係を説明できない」と。

 私はこの言葉を、日本の不動産鑑定士が還元利回りの説明に何の実証もせず、国債の利回り云々といって、さも関係があるごとく鑑定書に書き、説明している態度への痛烈な皮肉と解釈した。

 還元利回り(総合還元利回り)は次の2つの公式で求めることができる。

(1) 標準粗利回りの公式

  標準粗利回り= (平方メートル当り支払賃料×12×共益費修正率×運用償却額修正率×空室率修正率×経年賃料修正率×容積率×賃貸面積率)÷(土地単価+建物工事単価×容積率×償却修正率)

この公式の求め方の詳細は、 『賃料<家賃>評価の実際』 p265 清文社を参照されたい。

(2) 還元利回りの公式

  還元利回り=標準粗利回り×(1−必要諸経費率)

 上記(1)と(2)の公式を使って、下記の任意設定の条件で還元利回りを求めてみる。

    土地単価        平方メートル当り200,000円
    建物工事単価   平方メートル当り180,000円
        建物価格         平方メートル当り135,000円
    償却修正率       135,000円/180,000円=0.75
    平方メートル当り支払賃料    2,000円/月
    共益費修正率          1.05
    運用償却額修正率   1.01
      空室率                0.95
    経年賃料修正率    1.0
    容積率           300/150=2.0
    賃貸面積率(レンタブル比)0.8
    必要諸経費率     0.35

 上の数値を(1)の公式に入れて計算する。
 (2000×12×1.05×1.01×0.95×1.0×2.0×0.8)÷(200,000+180,000×2.0×0.75)=0.0823

 標準粗利回りは0.0823と求められた。

 還元利回りは、
      0.0823×(1−0.35)=0.053
5.3%と求められる。

 上記2つの公式を利用すれば、還元利回りは日本全国どこの物件でもほぼ求められる。

 鑑定書の内容の説明の時、「還元利回りはどのように求められましたか。」の質問にも論理的に説明できる。

 「それはあなたの個人的で独断的な判断理論ではないのか?。その求め方を担保するものは?。」という意地悪な質問に対しては、『賃料<家賃>評価の実際』清文社発行の本のp265に、不動産鑑定士の誰それが理論分析していると言って、理論担保の反論ができる。
 収益還元法および不動産鑑定評価額に対する信頼性は、これでぐっと増す。(この辺りはかなり我田引水ですが)

 パソコンに上記(1)(2)の公式を一度覚え込ませておけば、あとは数値を打ち込めばたちどころに還元利回りは求められる。簡単である。

 ものは試し、一度利用されてみたら。

 上記還元利回りは総合還元利回りのことをいい、その求め方である。

 還元利回りは総合還元利回りの外に、土地の還元利回り、建物の還元利回りがある。

 それら2つの還元利回りは総合還元利回りから求めるのであるが、その求め方は日を改めて述べたい。 早く知りたい人は前掲書p260を読まれたい。




****追記 2018年3月19日 還元利回り、期待利回りの求め方 鑑定コラム1755)の転載

 下記は、鑑定コラム1755)の転載である。上記コラム内容の文章と一部重なる部分があります。

  1, 期待利回りと還元利回り

 期待利回りとは、賃貸借に供する不動産の純賃料を求めるために基礎価格(土地建物の価格)に乗じる割合である。

 即ち、下記公式の

      
            基礎価格(土地建物の価格) × 割合 = 純賃料

の「割合」が期待利回りと称されるものである。

 還元利回りは、

                 純賃料
          ────────── = 還元利回り                       
       土地建物の価格

である。

 還元利回りと期待利回りは、貨幣の表裏の関係がある。

 当該不動産(土地建物)の期待利回りは、先に分かるものでは無い。

 還元利回りは、当該土地建物価格は分かり、純賃料も分かることから求めることが出来る。

 それ故、還元利回りを求めて、還元利回りと期待利回りとは貨幣の表と裏の関係があるという関係を使用して、求められた還元利回りを当該土地建物の期待利回りであると判断する。

2,還元利回り・期待利回りの留意点

 @ 還元利回り・期待利回りは、対象不動産の所在する地域の土地価格、賃料そして対象建物の個別性によって形成されるもので、複合不動産それぞれで利回りの値が異なるものである。

 還元利回り・期待利回りを求めるのに、地域要因を異にする他の地域と比較して求めることは、大変難しいものであり、やらない方が良い。行った場合、比較の結果の妥当性を担保するものが必要である。

 銀座の期待利回りが4%であるとして、この銀座の期待利回りと比較して、草加の商業地の期待利回りを7%であるとする賃料鑑定書を見たが、とても適正であると云えるものでは無い。

 不動産鑑定評価基準(以下「鑑定基準」とする)は、不動産の価格に関する11の原則を規程する。

 即ち、不動産の価格は、11の価格原則に従って形成されているというのである。

 その11の原則とは、需要と供給の原則など経済学でも認められている価格形成の原則である。

 その原則の中に、競争の原則、代替の原則がある。

イ、競争の原則

 鑑定基準は競争の原則について、次のごとく云う。

 「不動産については、その利用による超過利潤を求めて、不動産相互間及び他の財との間において競争関係が認められる。したがって、不動産の価格は、このような競争の過程において形成される。」(平成26年改正鑑定基準国交省版P13)

ロ、代替の原則

 鑑定基準は代替の原則について、次のごとく云う。

 「代替性を有する二以上の財が存在する場合には、これらの財の価格は、相互に影響を及ぼして定まる。不動産の代替可能な他の不動産又は財の価格と相互に関連して形成されている。」(平成26年改正鑑定基準国交省版P12)

 期待利回り、還元利回りも価格、賃料から求められるものであるから、11の価格原則の影響下にある。

 銀座の商業地の期待利回りと草加の商業地の期待利回りは、競争の関係にあるであろうか。

 銀座の土地価格と丸の内、新宿の土地価格とは、競争関係にあると云うことは充分立証し、その関係を認めることは出来る。

 だが、草加の商業地の土地価格が、銀座の商業地の価格と競争関係にあるであろうか。

 両商業地の地域要因、価格水準が異なりすぎて、とても競争関係にあると認めることは困難であろう。

 銀座の商業地の期待利回りと草加の商業地の期待利回りは、代替の関係にあるであろうか。

 銀座の商業地が買えなかったから、草加の商業地を代替に買うということを一般の人は行うであろうか。商業要因が異なりすぎて行わないであろう。

 以上2つの価格原則から検討すれば、銀座の商業地と草加の商業地とは、競争、代替の関係には無いということになる。

 銀座の商業地の期待利回りが4%であるから、草加の商業地の期待利回りは7%であると求めている当該不動産鑑定書の期待利回りは、論理が成り立たない期待利回りであろう。

 しかるに、その賃料鑑定書は適正であると、裁判官は判断して判決を書いていた。

 あきれてものも云えなかった。

 こんな賃料の判決をしていては、裁判の信頼を無くするだけである。

 裁判官ょ、もっと賃料について勉強してくれないかと云いたくなる。

   A 賃料の評価の場合の期待利回りは、減価償却後の期待利回りを使用する。

 減価償却費が必要諸経費に含まれている利回りを使用する。

 平成26年改正鑑定基準は、何を考え違いをしたのか、必要諸経費から減価償却費をハズしてしまった。

 この改正基準の新しいやり方で賃料評価していると、地代の賃貸事業分析法を行う時に大失敗をする。一度裁判鑑定で失敗を味わうことだ。

 相手側代理人弁護士から、無能な不動産鑑定士であるごとく徹底的に批判され、鑑定書の内容を厳しく叩かれる経験を味わえば、二度と失敗の経験はしたくないと思うであろう。

 地代の賃貸事業分析法での失敗を避ける為に、賃料評価においては、常に必要諸経費には減価償却費を入れて行っていた方がよい。

 B 積み上げ期待利回りは、各リスクの証明が必要であり、それが出来ない時は、やらない方が良い。前記と同じく相手側代理人弁護士から厳しく突っ込まれる。

 例えば、下記のごとくの求め方である。

         国債利回り         1.5%
                  リスクプレミアム      2.5%
                  流動性欠如プレミアム    1.3%
                  資産の安全性プレミアム   1.0%
               ───────────────────               
                      計                      6.3%

として6.3%の期待利回りであった。

 初めて不動産鑑定書を見た人は、期待利回りとはこうして求めるのかと感心するかもしれない。つまり一見もっともらしく見えるのである。

 しかし、その割合の根拠、算出を説明するものは一切ない。

 いきなり数値が突然出てきて、その期待利回りで賃料が計算されている。

 国債の利回りはともかくとして、プレミアムの利率として採用している2.5%、1.3%、1.0%の実証的データ分析による説明が全くなされていない。

 何故2.5%なのか。
 何故1.3%なのか。
 何故1.0%なのか。
 何に対しての%なのか。

 そうした事の証明を要求される。

 それが出来れば行ってもよいが、今迄それらを証明している鑑定書を私は見たことが無い。

 現在の鑑定評価理論は、残念であるが、それら数値が理論分析して立証されている段階には至っていない。

 建物の古さ、経年によるリクス値は、理論分析されて立証されている。

 上記の期待利回りの求め方は、期待利回りを都合よくデッチ挙げているのではないのかの批判を激しく浴びる。

 C 期待利回りの値を最もらしい文言による求め方の表現は止めた方が良い。

 下記の例のごとくである。

 (例A)

 「不動産投資家調査」((財)日本不動産研究所調査)等の公表資料を中心に一棟の事業用投資物件の売買事例等を参考とし、JR**駅周辺地区における事業用賃貸物件に対し投資家が通常要求する償却後期待利回りを4%と判断した。」

 (例B)

 「対象不動産の投資対象としての危険性・流動性・管理の困難性・資産としての安全性、昨今の金融市場の推移・動向、(財)日本不動産研究所が実施している「不動産投資家調査」による期待利回りの水準等を総合的に考量して、対象不動産の期待利回りを5.0%と査定した」

 こうした文言の羅列から、4%とか5%の期待利回りが求められるとは思われない。

 具体的に証拠として挙げ、それからどの様にして4%、5%の期待利回りを求めたか述べる必要があろう。

 不動産鑑定は不動産鑑定士の意見であり、判断であると云われるが、その判断意見は、データ数値に基づいて、客観的に論証されるものでなければならない。

 不動産鑑定評価は、実証科学であるという認識を持つ必要性がある。

3, 還元利回りを求める算式

    還元利回り=標準粗利回り×(1−必要諸経費率)

4, 標準粗利回り

@ 粗利回り

 年間賃料収入を、その収入を生み出す土地・建物の不動産の価格で除いたもを粗利回りと呼ぶ。必要諸経費を含んだ賃料を土地・建物の価格で除した利回りである。

                               年間賃料収入
       粗利回り =───────────                     
                            土地価格+建物価格

 これを「粗利回りの算式」と呼ぶとする。

A 標準粗利回り

 土地に建つ建物が、その土地に許容される容積の建築面積を持つ建物の場合の利回りを「標準粗利回り」と呼ぶこととする。

B 標準粗利回りの求め方の算式

 標準粗利回りは、次の算式で求められる。

 標準粗利回り=

 u当り賃料×12×共益費修正率×運用償却額修正率×空室率修正×経年   賃料修正率×容積率×賃貸面積率 ─────────────────────────────────   土地単価+建物工事費単価×容積率×償却修正率

 上記算式を「標準粗利回りの算式」と呼ぶこととする。

 この標準粗利回りの算式を、粗利回りの算式より、次のごとく導く。

 最初は、新築の建物で保証金の授受のない簡単な条件で考える。

イ、標準粗利回り算式の分子の「賃料収入」

   賃料収入 = 賃料単価 × 12 ×共益費修正率× 建物の賃貸面積

 建物賃貸面積は、土地面積に容積率を乗じたものに賃貸面積率を乗じたものである。

 
    建物賃貸面積 = 土地面積 × 容積率 × 賃貸面積率

よって賃料収入は次式に書き替えられる。

   賃料収入=賃料単価×12×共益費修正率×土地面積×容積率× 賃貸面積率

ロ、粗利回り算式の分母の「土地価格+建物価格」

        土地価格 = 土地単価 × 土地面積

    建物価格 = 建物工事単価 × 建物面積
    建物面積 = 土地面積 × 容積率

であるから、分母は次式に置き換えられる。

    土地価格 + 建物価格

    =土地単価 × 土地面積 + 建物工事単価 × 土地面積 × 容積率
=土地面積 ×(土地単価 + 建物工事単価 × 容積率)

 上記で求められた分子、分母より、粗利回り算式は、次の式に置き換えられる。

    粗利回り算式=

賃料単価×12×共益費修正率×土地面積×容積率×賃貸面積率      ────────────────────────────     土地面積 ×(土地単価 + 建物工事単価 × 容積率)

 ここで、分子、分母の土地面積は消去されるから、利回り算式は次式となる。


                 賃料単価×12×共益費修正率×容積率×賃貸面積率
 粗利回り算式 =────────────────────────   
                    土地単価 + 建物工事単価 × 容積率

ハ,賃料収入は賃料のみでなく、保証金の運用益、償却額があり、かつ空室率も考えなければならない。

 新築以外の建物の場合、経年に伴い賃料は下落することから、その賃料修正も考えなければならない。

 これら要因による修正を分子に行う。

 保証金は一般的には 賃料の何ヶ月分として金額が決められ、それに金利を乗じると運用・償却額が求められるから、u当り賃料×12に、修正率を乗じることによって処理出来る。

 空室の発生は賃料の修正であり、空室率修正率をu当り賃料×12に乗じることによって処理出来る。

 建物が古くなると、その経年に応じて賃料が安くなる傾向がある。これもu当り賃料×12に修正率を乗じることによって処理出来る。

 保証金の運用償却額、空室率、経年賃料減額の各修正率を、それぞれ運用償却修正率、空室修正率、経年賃料修正率とし、u当り賃料×12の賃料を修正する率とするならば、分子は次の式に書き替えられる。

 u当り賃料×12×共益費修正率×運用償却額修正率×空室率×容積率×賃貸面積率×経年賃料修正率
       
 一方、分母の建物価格は経年に伴い建物価格は安くなり、この経年に伴う建物減価を償却率とすれば、建物工事単価×容積に償却修正率を乗じることで処理出来る。

 分母は次の式に書き替えられる。

 
    土地単価 + 建物工事費単価 × 容積率 × 償却修正率

 以上の分子、分母をまとめれば、

 標準粗利回り=

 u当り賃料×12×共益費修正率×運用償却額修正率×空室率修正×経年   賃料修正率×容積率×賃貸面積率 ─────────────────────────────────   土地単価+建物工事費単価×容積率×償却修正率

と求められる。

ニ、この標準粗利回りの算式は、土地あるいは複合不動産の価格を評価する時の収益還元法の還元利回りを決定する時にも利用出来る。

 還元利回りのデータが整備されていない地域の不動産を評価する場合、還元利回りをどの様に決定すべきか判断に迷う時がよくある。

 u当り賃料は分かったが、当該不動産の収益還元法を適用する場合に、当該土地あるいは当該地域の還元利回りが不明である場合が多い。

 そうした場合に、上記標準粗利回りによって粗利回りの数値を求め、それより必要諸経費率による修正を行えば、当該不動産もしくは当該地域の標準的な還元利回りを求めることが出来る。

 上記標準粗利回りの算式は利用価値のある算式である。

ホ、上記算式を使って、下記の任意設定の条件で標準粗利回りを求めてみる。

    土地単価        u当り200,000円
    建物工事単価   u当り180,000円
        建物価格         u当り135,000円
    償却修正率       135,000円/180,000円=0.75
    u当り支払賃料    2,000円/月
    共益費修正率          1.05
    運用償却額修正率   1.01
      空室率                0.95
    経年賃料修正率    1.0
    容積率           300/150=2.0
    賃貸面積率(レンタブル比)    0.8
    必要諸経費率     0.35

 上の数値を@の公式に入れて計算する。

 (2000×12×1.05×1.01×0.95×1.0×2.0×0.8)÷(200,000+180,000×2.0×0.75)=0.0823
 
 標準粗利回りは0.0823と求められた。

5.還元利回り

 上記より、標準粗利回りは0.0823と求められた。

 必要諸経費率は0.35である。

 求められた標準粗利回り0.0823の数値と、必要諸経費率0.35の数値を、還元利回りを求める算式

      還元利回り=標準粗利回り×(1−必要諸経費率)

に代入する。

 還元利回りは、

      0.0823×(1−0.35)=0.053

5.3%と求められる。

 上記2つの算式を利用すれば、還元利回りは日本全国どこの物件でもほぼ求められる。

 この還元利回り(期待利回り)の求め方は、不動産鑑定評価基準が還元利回りの求める方法として挙げている4つの方法のうち(ア)の「類似の不動産の取引事例との比較から求める方法」(26年改正鑑定基準国交省版P30)を、より科学的に論理的に進化させたものである。

 鑑定書の内容の説明の時、「還元利回りはどのように求められましたか。」の質問にも論理的に説明できる。

 「それはあなたの個人的で独断的な判断理論ではないのか?。その求め方を担保するものは?。」という意地悪な質問に対しては、『賃料<家賃>評価の実際』清文社発行の本のp265に、不動産鑑定士の誰それが理論分析していると言って、理論担保の反論ができる。収益還元法および不動産鑑定評価額に対する信頼性は、これでぐっと増す。(この辺りはかなり我田引水ですが)

 パソコンに上記@Aの公式を一度覚え込ませておけば、あとは数値を打ち込めばたちどころに還元利回りは求められる。簡単である。

 ものは試し、一度利用されてみたら。

 上記還元利回りは、総合還元利回りのことをいい、その求め方である。

 総合還元利回りは、家賃(純家賃)還元利回りとも呼ばれる。

 還元利回りは、総合還元利回りの外に、土地の還元利回り、建物の還元利回りがある。

   (平成28年10月20日にホテルニューオータニの小さな部屋で開かれた田原塾の講話テキストに加筆して)



****追記 2018年3月26日 土地還元利回りと建物還元利回り 鑑定コラム1757転載
 1.はじめに

 鑑定コラム1747)「京都右京区の住宅地の土地還元利回りは2.2%である」でも述べたが、総合還元利回りを構成する土地還元利回り、建物還元利回りの求め方について述べる。

 土地還元利回り、建物の還元利回りは同じで、そして総合還元利回りと土地還元利回りは同じであると主張する不動産鑑定士もいるようであるが、3つの還元利回りは異なり、還元利回りの数値はそれぞれ異なると私は思っている。

2.土地還元利回りと建物還元利回りの値は異なる

@ 米田、門脇の論説

 不動産鑑定評価の大先輩である阿部淳、米田敬一両氏は、それぞれの著書で、期待利回り(還元利回りに同じ)の値を述べられていることを、拙著『改訂増補 賃料<地代・家賃>評価の実際』P59(プログレス 2017年2月)に記している。

 下記である。

 「期待利回りの割合数値として、阿部淳先生は、『不動産の実務相談室』(不動産法研究会・阿部淳監修、有斐閣、1974年)P234に次の割合を示している。

       土地の期待利回り     5 〜  6%
       建物の期待利回り          8 〜 15%

 米田敬一先生は、『増補不動産鑑定評価と実践』(港出版、昭和43年)P258で期待利回りを「普通8〜12分位で考えている」といい、282頁の賃料の鑑定書の具体的内容の説明で、「土地の利潤を6%、建物利潤を8%とし」といい純賃料を求めている。

 両先生とも土地・建物の期待利回りを、それぞれ独立して把握している。

しかし、土地の期待利回りがどうして5〜6%であり、建物の期待利回りの8〜15%がどの様にして求められるのかの説明はない。」

 両先生とも、土地の期待利回り(還元利回りに同じ)と建物の期待利回りは異なると認識されている。

A 不動産鑑定評価基準

 不動産鑑定基準(以下「鑑定基準」と呼ぶ)は、還元利回りを求める方法として4つの手法を挙げるが、その中の一つに「土地と建物に係わる還元利回りから求める方法」がある。そのことについて、鑑定基準は次のごとく述べる。

 「この方法は、対象不動産が建物及びその敷地である場合に、その物理的な構成要素(土地及び建物)に係わる各還元利回りを各々の価格構成割合により加重平均して求めるものである。」(平成26年改正鑑定基準国交省版P30)

 鑑定基準は、土地、建物に係わる「各還元利回り」と云う。このことは、土地と建物の還元利回りは、異なっていると云うことを示している。

 土地建物の還元利回りが同じであるならば、土地建物の価格構成割合による加重平均で求めることの必要性は無い。これは土地建物の還元利回りが異なっているために行う行為である。

B 上記2つの検討から、土地還元利回りと建物還元利回りの値は異なると判断出来る。

3.土地還元利回りと建物還元利回りとは何故異なるのか

 土地と建物の還元利回りが、何故異なり、建物の還元利回りが土地還元利回りよりも高いかについて、拙著『改訂増補 賃料<地代・家賃>評価の実際』P62(プログレス 2017年2月)で、次のごとく記している。

 「建物の期待利回りは、土地の期待利回りより何故高いかについては、私は建物の経済的耐用年数が来た時に、建て替えるため即ち再取得するための資金の積み立て額が必要であり、その金額の利回り相当分が土地利回りよりも高いと考える。」

 建物の還元利回りは、建物再取得するための資金の積み立て額が必要であり、その金額の利回り相当分が土地利回りよりも高いと私は考える。

4.償還基金率

 建物再取得するための資金の積み立て額相当分の毎年の利率を求めるには、償還基金率を用いれば良い。

 償還基金率とは、n年後1円にするために毎期末に預託すべき率をいう。

 耐用年数n年の建物の取得価格を、n年後に再取得するために、年利率rで年末に一定額を償却額とし積立てる場合に使用する率が償還基金率である。

 償還基金率の算式は

                               r
                     ───────────                         
                      (1+r)のn乗 −1 

            但し、r:利率                n:年数

である。年金終価率の逆数である。

 例えば、取得金額3000万円の建物があったとする。20年後に再取得する為の毎年の償却額を求める。

 利率は5%とする。利率5%、期間20年の償還基金率は0.030243である。

 年間償却額は

         3000万円 × 0.030243 = 90.73万円

と求められる。

 利率5%、期間20年の年金終価率は33.065954である。

 90.73万円に年金終価率を乗ずると

      90.73万円 × 33.065954 = 3000.0万円

となり、毎年90.73万円を年利5%で20年積立てると確かに3,000万円になる。

5.土地還元利回りと建物還元利回り

 総合還元利回りは、土地還元利回りと建物還元利回りによって構成されている。

 それ故、土地還元利回り、建物還元利回りは、総合還元利回りより求めることが出来る。

 土地の還元利回りをXとする。

 建物の還元利回りは、

                    X + 償還基金率相当

である。

 償還基金率を求める利率は、建物の経済耐用年数の平均償却率の利率を採用する。

 例えば、建物の経済的耐用年数を40年とすれば、平均償却率は、

                    1/40 = 0.025

0.025である。

 この0.025を償還基金率を求める利率とする。

 償還基金率は、利率0.025、期間40年の値より求める。

 償還基金率は0.015である。

 建物の還元利回りは、X+0.015である。

 総合還元利回りと土地建物価格、土地建物個別還元利回りの間には、次の関係式が成り立つ。

  土地価格×土地還元利回り+建物価格×建物還元利回り
   ───────────────────────  = 総合還元利回り
                土地価格+建物価格

 上記算式に土地価格、建物価格、総合還元利回りの数値を代入すれば、土地還元利回りは求められる。

 求められた土地還元利回りに償還基金率相当を加算すれば、建物還元利回りが求められる。

 具体的数値を入れて説明すれば、下記である。鑑定コラム1747)の京都右京区の例で説明する。

 土地価格は、52,650,000円である。

 建物価格は、53,280,000円である。

 土地建物価格の合計は、105,930,000円である。

 総合還元利回りは3.0%である。

    52,650,000×X +53,280,000×(X+0.015)
  ────────────────────────── = 0.030       
              105,930,000

 これを解けば、

                    X=0.022

である。

 土地の還元利回りは、2.2%である。

 建物の還元利回りは、

                    2.2%+1.5%=3.7%

である。

 これが土地還元利回り、建物還元利回りの求め方である。

 土地還元利回り、建物還元利回りが、単独でいきなり求められるものではない。

 土地還元利回り、建物還元利回りは、総合還元利回りが先にあって、その総合還元利回りから求められるものである。3つの還元利回りは密接に繋がっているのである。

 まとめると、

     総合還元利回り    3.0%
          土地還元利回り    2.2%
     建物還元利回り        3.7%

である。 上記各利回りは、総合期待利回り、土地期待利回り、建物期待利回りでもある。

         鑑定コラム1757転載



****追記 2018年7月31日 「田原の著書の期待利回り・還元利回りの求め方に対する批判の反論」鑑定コラム1809)転載

イ,期待利回りとは

 期待利回りとは賃料を求める場合に、元本の土地、建物の価格と純賃料を取り持つ利回りをいう。
                 土地、建物の価格×期待利回り=純賃料

 期待利回りと還元利回りは、貨幣でいえば表と裏の関係である。

 即ち還元利回りは、

                  純賃料÷還元利回り=土地、建物の価格

の利回りをいう。

 上記算式から、還元利回りは、

                                    純賃料
              還元利回り =  ────────────              
                                 土地、建物の価格

の算式より求められる。

 期待利回りを直接求めることは、困難である。還元利回りを求めて、それを貨幣の表と裏の関係から期待利回りとして採用する。

ロ,賃料の期待利回りは、貸主が期待する、即ち、希望する利回りではない。

 賃料の期待利回りは、当該不動産が属する地域の土地価格、地域で形成されている賃料、当該建物の建築年数等の個別性、そして契約内容の個別性を反映して形成されるものであり、各建物ごとに期待利回りは異なって形成されてしかるべきものである。

ハ,還元利回りの算式

 『賃料(地代・家賃)評価の実際』p45(田原 プログレス 2005年)で、還元利回りは、

         粗利回り×(1-必要諸経費率)=還元利回り

と求め方が説明されている。

 粗利回りは、当該土地建物の価格に対する賃料総収入の割合である。

                           賃料総収入
       粗利回り= ───────────                     
                           当該土地建物価格

 そして、粗利回りの求め方の算式は、前掲書同ページに理論分析され、下記算式の成立が証明されている。

      粗利回り
           u当り賃料×12×共益費修正率×運用償却額修正率×空室率修正
               ×経年賃料修正率×容積率×賃貸面積率
          =─────────────────────────       
            土地単価+建物工事費単価×容積率×償却修正率

 上記式に土地価格等の数値を代入し、必要諸経費率(減価償却費込み)を代入すれば、期待利回りは求められる。

 償却前必要諸経費率を使用すれば、償却前期待利回り(償却前還元利回り)が求められる。

 必要諸経費率は、賃料総収入に占める割合である。

 下記算式で求められる。

                      必要諸経費
                   ────────  = 必要諸経費率               
                     賃料総収入

 必要諸経費に減価償却費を含めたものが、償却後必要諸経費であり、求められる必要諸経費は、償却後必要諸経費であり、それを利用して求められた期待利回り、還元利回りは、「償却後期待利回り、償却後還元利回り」である。

 一方、必要諸経費に減価償却費を含め無いものが、償却前必要諸経費であり、求められる必要諸経費は、償却前必要諸経費であり、それを利用して求められた期待利回り、還元利回りは、「償却前期待利回り、償却前還元利回り」である。

 必要諸経費率は、減価償却費込みで、おおよそ下記の割合である。

   ショッピングセンター     33%(鑑定コラム694)
      貸事務所                   36%(鑑定コラム684)
      丸ビル                        37.1%(鑑定コラム1387)
      賃貸マンション(日本賃貸住宅投資法人)
                                   44.0%(鑑定コラム1647)
      賃貸マンション                35%(前掲著書P79)

 賃料総収入、必要諸経費、純賃料(純収益)の関係は、下記である。

     賃料総収入−必要諸経費 = 純賃料

 前記の期待利回り(還元利回り)の求め方は、不動産鑑定評価基準が還元利回りの求める方法として挙げている4つの方法のうち(ア)の「類似の不動産の取引事例との比較から求める方法」(26年改正鑑定基準国交省版P30) を論理的に、科学的により進化させたものである。

 具体的には、土地価格等の数値を算式に代入して求めると下記である。

    土地単価          u当り3,150,000円
    建物工事単価     u当り  333,000円
        建物価格           u当り   86,600円
    償却修正率         86,600円/333,000=0.26
    u当り支払賃料    5,300円/月
    共益費修正率          1.450
    運用償却額修正率   1.005
      空室率修正率          0.95
    経年賃料修正率    1.00
    容積率               3.55
    賃貸面積率(レンタブル比) 0.780
    必要諸経費率     0.38

    標準粗利回り 0.07051546 還元利回り(総合) 0.043719585 0.044

(注)
a,土地価格は標準価格である。

b,u当り賃料5,300円は次のごとく求める。

 後記(省略)比準賃料の検討から、対象地の建物の品等、立地の良さを考慮し、基準階の3階の支払賃料をu当り6,000円程度と判断する。これは基準階の3階の賃料とする。

 3階の賃貸面積は583.33uであるから、

                  6,000円×583.33u=3,499,980円

が3階事務所賃料となる。

 その3階の階層別効用配分割合は0.2379であるから、ビル全体の支払賃料は、

                  3,499,980円÷0.2379=14,711,980円

と推定される。これを賃貸面積で除せば、

                   14,711,980円
                 ───────=5,302円≒5,300円                   
                    2,774.98u

 ビルの平均支払賃料は、u当り5,300円と求められる。

ニ,期待利回り

 対象地周辺の賃料と均衡をはかった賃料より、対象建物の個別性、契約事情を反映して求められた適正な期待利回りを

                               4.4%
とする。

ホ, 批判

 上記算式を具体化した上記数値一覧において、u当り賃料に比準賃料を採用していることから、田原鑑定の求めている期待利回りの求め方は間違っているという批判が、過去になされた。また現在でもなされている。

 その批判は次の様な内容のものである。

 「積算法と賃貸事例比較法は、各手法の適用において共通する価格形成要因に係る判断に整合性に留意しながら、それぞれ独立して新規賃料を求めるものであるから、積算法の適用過程において賃貸事例比較法の適用結果である比準賃料を用いることは明らかに鑑定評価手法における誤りである。」と。

へ, 鑑定基準の改正

 しかし、その批判は平成26年5月1日に鑑定基準の改正により、退けられることになった。

 a.改正前の鑑定基準

 総論
 第8章
 第7節 鑑定評価方式の適用

 鑑定評価方式の適用に当たっては、鑑定評価方式を当該案件に即して適切に適用すべきである。この場合、原則として、原価方式、比較方式及び収益方式の三方式を併用すべきであり、対象不動産の種類、所在地の実情、資料の信頼性等により三方式の併用が困難な場合においても、その考え方をできるだけ参酌するように努めるべきである。

 b.26年改正 

 第7節 鑑定評価の手法の適用

 鑑定評価の手法の適用に当たっては、鑑定評価の手法を当該案件に即して適切に適用すべきである。この場合、地域分析及び個別分析により把握した対象不動産に係わる市場の特性等を適切に反映した複数の鑑定評価の手法を適用すべきであり、対象不動産の種類、所在地の実情、資料の信頼性等により複数の鑑定評価の手法の適用が困難な場合においても、その考え方をできるだけ参酌するように努めるべきである。(平成26年鑑定基準国交省版P38)

ト、基準の変更になった個所

 a.節の文言  鑑定評価方式 → 鑑定評価の手法

 b.加入文言1 「地域分析及び個別分析により把握した対象不動産に係わる市場の特性等を適切に反映した複数の鑑定評価の手法」

 c.加入文言2 「複数の鑑定評価の手法の適用」

チ、基準改正の解説

 鑑定評価の手法が三方式にこだわらず、一つの手法に複数の方式を取り入れることになった鑑定基準の変更について、基準を解説する基本書物には次のごとくの説明がなされている。

 平成26年5月1日に鑑定基準の改正の重要方針の1つとして「不動産市場の国際化への対応」の項目が掲げられた。

 その項目の中の1つとして、鑑定基準の考え方が大きく変更となった。

 「鑑定評価手法に関し、原則として「3方式」を併用することを求めている改正前規定について、市場分析により把握した市場の特性を適正に反映した「複数の手法」を適用することを求める規定に変更」することになった。(『要説 不動産鑑定評価基準と価格等調査ガイドライン』P29(公益社団法人日本不動産鑑定士協会連合会監修、鑑定評価基準委員会編著、住宅新報社、2015年10月発行))(資料1 省略)

 この「複数の手法」を適用する規程の変更の解釈として同著P150で次のごとく解説する。

 「鑑定評価の方式は、価格を求める手法と賃料を求める手法に分類され、三方式それぞれの考え方を中心とした鑑定評価の三手法が規定されているが、これら各方式と各手法とは必ずしも一対一の関係にあるものではなく、一つの手法の中にそれぞれ三方式の考え方が輻輳して取り入れられて適用されるものであることに留意する必要がある。

 そのほかに、鑑定評価の三手法の考え方を活用した手法が、価格を求める手法と賃料を求める手法のそれぞれに固有の手法として規定されている。

 このように、鑑定評価の各手法を適用して求められた価格又は賃料は、それぞれの手法に共通する要因を反映したものであり、いずれもそれぞれ最終的に求めようとする価格又は賃料を指向するものであるから、これら共通する要因に係る判断の整合性について再吟味することによって適正な鑑定評価額を最終的に導き出すことができる。」

リ、2005年に発表した還元利回り・期待利回りの求め方の算式が、発表以後賛同を得る一方批判も受けた。

 現在においても、鑑定基準が前記のごとく変更されたということが分かっていない複数の不動産鑑定士から、法廷で田原鑑定の期待利回りの求め方は鑑定基準違反であると激しく攻撃され批判を受けているが。

 だが、11年の歳月を経て、ようやく求め方の妥当性が認められたようである。

 日本不動産鑑定士協会連合会が、鑑定評価の三方式が、それぞれ一対一の関係にあるものではなく、一つの手法の中にそれぞれ三方式の考え方が輻輳して取り入れられて適用されるものであると鑑定評価の考え方の大転換を行った。

 上記還元利回りの求め方が、その大転換の遠因の1つになっているかどうかは、私には分からないが、少なくとも今後裁判の法廷において、田原鑑定の還元利回り(期待利回り)の求め方は、不動産鑑定評価基準違反であり、その様な利回りの求め方は認められないものであると云う批判は、その批判こそが鑑定基準違反となることから、そうした批判は影を潜めることになろうとホッとしている。

 (2018年7月25日ホテルニューオータニの小さな会議室で開かれた田原塾の講話のレジュメに加筆追加して)

鑑定コラム1809)転載



****追記 2024年5月11日鑑定コラム2719)「「家賃の期待利回りの求め方」千葉県不動産鑑定士協会講演レジュメ」

1.はじめに

 2024年2月26日に、千葉県不動産鑑定士会の依頼による講演を行った。

 その講演は、「家賃の期待利回りの求め方」であり、標準粗利回りを求め、その標準粗利回りに(1-必要諸経費)乗じて求める求め方を説明した。

 標準粗利回りは、下記の算式(説明の便宜上「田原算式」と呼ぶ事にする)より求めることを説明した。

      標準粗利回り
          u当り賃料×12×共益費修正率×運用償却額修正率×空室率修正
               ×経年賃料修正率×容積率×賃貸面積率
          =─────────────────────────
                土地単価+建物工事費単価×容積率×償却修正率

 この算式の求め方はここでは省略する。

 この算式について、賃料裁判において、相手側の弁護士・不動産鑑定士から批判がなされた。

 批判ついての私の反論を講演で述べた。その講演のレジュメを以下に記す。

2.批判

 @ 批判1 循環論であるという批判

 この要因については、前に記したから省略する。

 A 批判2

  イ、事件の概略
 東京の高度商業地の店舗の継続賃料の家賃増額請求の争いである。

 建物は昭和56年(1981年)築のSRC造7階建(地下2階)の建物のうち、地下1階・1階・2階店舗(賃貸借面積約1480u)の継続賃料の鑑定評価であった。

 価格時点は、令和3年(2021年)3月である。
 賃借人の依頼による賃料鑑定であった。

 私の鑑定は、土地価格u当り21,275,000円、建物価格u当り102,000円であり、期待利回りは3.8%である。

 その期待利回りの根拠は、前記還元利回りを求める算式によって、下記のごとく求めた。

 還元利回りを求め、この求められた還元利回りを期待利回りに採用した。


土地単価 円/u 21275000  
建物工事費 円/u 392250  
建物価格 円/u 102000  
建物償却率   0.26  
u当り賃料 円/u 23500  
共益比率   1.024  
運用償却額修正率   1.000  
空室率修正率   0.94  
経年賃料修正率   0.96  
容積率   7.37  
賃貸面積率   0.70  
必要諸経費率   0.38  
       
標準粗利回り   0.061032822  
還元利回り(総合)   0.03784035 0.038

  ロ、賃貸人側不動産鑑定会社の批判
 賃貸人側不動産鑑定会社は、私の上記還元利回りの求め方について、下記のごとくの批判がなされた。

   a. 独自の算定式で期待利回りを求めていること
 田原鑑定は、不動産鑑定評価基準にはない独自の算定式を用いて期待利回りを求めている。

   b. この算定式は循環論法であり、不適切である
 田原鑑定の算定式は循環論法であり、不適切である。
 積算法の命題は、「対象不動産の賃料を求める」ことであるところ、その過程において、「対象不動産の賃料を比準賃料と仮定」している。つまり、『ある命題の証明において、その命題を過程する論法』、即ち循環論法である。

   c. 空室率を計上している誤りがあること
 本契約は、昭和56年以降継続している契約であり、対象不動産について空室が発生したことも、発生する見込みもない。
 したがって、空室率修正は不要であり、不要な空室率を計上したことで算定式の分子が小さくなるため、期待利回りが過小に算定されている。

   d. 事務所の経年賃料修正率を採用する誤りがあること
 本契約は、店舗の賃貸借契約である。事務所賃料の下落率を採用する理由が無い。

   e. 実際の必要諸経費率を採用しない誤りがあること
 田原鑑定は、還元利回りの算式を次のとおりとする。
       粗利回り×(1−必要諸経費率)=還元利回り
 そしてこの必要諸経費率について、本建物並びに原告及び被告とも何ら関係もなく、また、2017年の著書から引用しているため価格時点とも合致しないであろう『三菱地所の減価償却後必要諸経費』を参考に38%を採用している。

 しかしながら、田原鑑定は、「各建物毎に期待利回りは異なって形成されてしかるべきものである」と期待利回りには個別性があることを意見している。 そうであれば、上記算定式の重要な要素である必要諸経費率について、個別性がなく時期も異なる『三菱地所の減価償却後必要諸経費』を参考にすることは誤りである。

 そもそも、田原鑑定は本建物の減価償却後必要諸経費を「月額9,318,850円」と自ら算定しているのであるから、「月額9,318,850円」を分子に、また、「粗利回り」の算定式で採用している比準賃料「月額34,000,000円」を分母に算定すれば、本建物の減価償却後必要諸経費率は27.4%と容易に算定される。

 そして、『三菱地所の減価償却後必要諸経費』を参考にした38%と、田原鑑定が算定した減価償却後必要諸経費率27.4%を比較すると大幅に異なるところ、上記算定式からすれば、減価償却後必要諸経費率は小さいほど期待利回りが高いことになる。

 以上より、田原鑑定の期待利回りは、不相当に低く算定されていることは明らかである。

   f. 適切な期待利回りについて
 本算定式には、本建物のような階層別用途別の効用が異なる区分建物や建物の部分の賃料の算定には対応できない欠陥がある。

 そもそも、本算定式分子の賃料単価は、本件では、1階及び2階並びに地下1階と3階以上に比して賃料水準の高い階層の賃料単価である。

 しかしながら、分母の土地単価とは、全階層の価値を集約したものであるから、分子の賃料単価に比して、分母の土地単価が割安であるために割高な期待利回りが算定されることになるのである。

 反対に言えば、田原鑑定は本算定式の欠陥に気がつかないまま、高水準な利回りとなることを糊塗するために、意図して前記のごとく算定式の分子を小さくし、必要諸経費率を大きくしたほか、比準賃料自体も割安に算定した可能性も否定できない。

 したがって、田原鑑定に基づいて適切な期待利回りを算定することは不可能というべきである。

  ハ、批判2への反論
 6つの上記批判に対して、次のごとく反論する。

   a. aについて
 鑑定基準に田原算式の求め方は規程されていない。田原算式は不動産鑑定士田原拓治が、論理的に還元利回りを求めることが出来ないかと考え出した求め方である。

 鑑定基準に載っていない求め方ということを捉えて見れば、独自の算式である。

 総賃料収入/土地建物の価格より求められる粗利回りの算式を、要因分析し、より論理的に科学的に求められる算式を導き出したのである。

 その田原算式が間違っていると批判し、足を引っ張ろうとするが、それ等の行為は、私から見ればやっかみ以外何者でも無い。田原算式が鑑定評価で邪魔なのか。

   b. bについて
 賃貸側不動産鑑定会社(以下「賃貸側鑑定」と呼ぶ)は、田原鑑定の還元利回りを求める算式(以下「田原算式」と呼ぶ)は、循環論法と呼び批判するが、積算賃料を求める為に、積算賃料を採用すれば、それは循環論法になるが、積算賃料と比準賃料とは全く性格が異なるものであり、賃貸事例比較法で求められた比準賃料を採用しても、それは循環論法にはならない。

 継続賃料を求める場合、積算賃料は当該建物の必要諸経費を求め、使用する。

 スライド法賃料及び利回り法賃料を求める時に、積算賃料で求められた同じ必要諸経費を使用して、それぞれの賃料を求める。
 この場合に、循環論法と言うであろうか。

 賃貸側鑑定の批判は失当である。

   c. cについて
対象賃貸借は、昭和56年以降継続している契約であり、対象不動産について空室が発生したことも、発生する見込みもないことから、空室率の計上を間違いと批判するが、ビル全体の賃貸状況を考える必要性もある。

 期待利回りは、対象不動産の個別的要因を反映する一方、不動産賃貸市場の要因との整合性も必要である。

 積算賃料にも、不動産賃貸市場で形成されている要因を反映させ、整合させる必要がある。

 積算賃料に、不動産賃貸市場の形成要因を反映させ、市場と整合性を保つため、期待利回りに空室率要因を考える必要がある。

   d. dについて
 対象ビルは全階店舗では無い。事務所用途もある。

 地域のビル賃料は、事務所賃料によって形成されている。店舗賃料も事務所賃料の動向と無関係には形成されない。対象店舗賃料も事務所賃料の動向と無関係に存在していない。

   e. eについて
 賃貸側鑑定は、「個別性がなく、時期も異なる「三菱地所の減価償却後必要諸経費」を参考にすることは不適切である」と批判するが、期待利回りは対象不動産の個別的要因を反映させる一方、不動産賃貸市場の要因を反映させ、整合性を保つ必要がある。その必要諸経費率は適正な割合で無ければならない。

 賃貸ビルの一般的必要諸経費率として貸ビル業界の雄の一つである三菱地所の貸ビルの必要諸経費率を使用して、不動産賃貸市場の要因を反映させ、整合性を保っているのである。

 対象不動産の必要諸経費率が27.4%であれば、対象不動産のビル経営は健全で優れていることになり、それは良いことである。それは賃料は妥当と云うことに繋がる。妥当な賃料であれば、賃料値上げ要求の必要性は無くなるが。

 例えば、対象不動産の実際の必要諸経費が、月額1600万円であったすると、その場合の必要諸経費率は、
      1600万円÷3130万円≒0.51
51%となる。その必要経費率を使用して田原算式から求められる期待利回りは、0.03になる。以下である。


土地単価 円/u 21275000  
建物工事費 円/u 392250  
建物価格 円/u 102000  
建物償却率   0.26  
u当り賃料 円/u 23500  
共益比率   1.024  
運用償却額修正率   1.000  
空室率修正率   0.94  
経年賃料修正率   0.96  
容積率   7.37  
賃貸面積率   0.70  
必要諸経費率   0.51  
       
標準粗利回り   0.061032822  
還元利回り(総合)   0.029906083 0.030

 その時も実際の必要諸経費率であるから、その期待利回り0.03を使用して求めるべきであると言い張るであろうか。

   f. f.適切な期待利回りについて
 賃貸側鑑定は、「算定分子の賃料単価は、3階以上に比して賃料水準の高い、本件貸室(1階及び2階並びに地下1階)の賃料単価であるが、分母の土地価格とは全階層の価値を集約したものであるから、分子の賃料単価に比して、分母の土地単価が割安であるために割高な期待利回りが算定されることになるのである」と批判する。

 これに対して、下記のごとく反論する。

 地下1階〜2階の比準賃料は、月額34,000,000円(u当り23,500円)である。

 算式の賃料の個所にu当り23,500円と入力すれば、還元利回りは3.8%と求められる。

 田原算式の容積率の数値を見て欲しい。容積率7.37とある。これは建物の面積全体を指す。容積率7.37の地下2階から7階の建物の階層別効用比は、同じということを意味する。

 即ち、ビル全体がu23,500円の場合の状態のことを示し、その場合の還元利回りは3.8%ということである。

 他方、田原算式の元式は、
                              年間賃料総収入
     標準粗利回り=  ────────────                 
                           土地価格+建物価格
である。

 この算式は、その賃貸建物の土地建物に対する年間賃料総収入を意味する。

 求められる利回りは、その賃料を産み出す不動産の価格である。

 u当り23,500円を産み出す不動産はどこかと言えば、複数階のあるビルの中で地下1階〜2階の賃料である。

 であるから、3.8%の還元利回りは地下1階〜2階の還元利回りと云うことになる。

 u当り23,500円を産み出す不動産は、地下1階〜2階であるから、地下1階〜2階の土地建物価格を、階層別効用配分割合で求め、その価格を基礎価格にして、求められた3.8%の利回り(期待利回り)を乗ずれば、地下1階〜2階の純賃料が求められる。

 それ故、賃貸側鑑定が批判する「算定分子の賃料単価は、3階以上に比して賃料水準の高い、本件貸室(1階及び2階並びに地下1階)の賃料単価であるが、分母の土地価格とは全階層の価値を集約したものであるから、分子の賃料単価に比して、分母の土地単価が割安であるために割高な期待利回りが算定されることになるのである」は失当である。

 例えば、5階の賃料を求める場合、5階の賃料がu当り13,000円であるすれば、ビル全体の賃料が13,000円/uとして考えて求めれば、期待利回りは2.1%と求められる。13,000円/uの賃料利益を生み出すのは5階のみしか無いから、それは5階の利回りと云うことになる。

 5階部分の土地、建物の基礎価格を求め、その基礎価格に2.1%を乗ずれば、5階部分の純賃料は求められる。但し、他の条件が同じとした場合である。


土地単価 円/u 21275000  
建物工事費 円/u 392250  
建物価格 円/u 102000  
建物償却率   0.26  
u当り賃料 円/u 13000  
共益比率   1.024  
運用償却額修正率   1.000  
空室率修正率   0.94  
経年賃料修正率   0.96  
容積率   7.37  
賃貸面積率   0.70  
必要諸経費率   0.38  
       
標準粗利回り   0.033762838  
還元利回り(総合)   0.02093296 0.021


 同じごとく、1階店舗賃料がu当り33,000円であった場合の1階店舗の期待利回りを求めてみる。

 1階店舗の期待利回りは、5.3%と求められる。下記である。但し、他の条件が同じとした場合である。


土地単価 円/u 21275000  
建物工事費 円/u 392250  
建物価格 円/u 102000  
建物償却率   0.26  
u当り賃料 円/u 33000  
共益比率   1.024  
運用償却額修正率   1.000  
空室率修正率   0.94  
経年賃料修正率   0.96  
容積率   7.37  
賃貸面積率   0.70  
必要諸経費率   0.38  
       
標準粗利回り   0.085705666  
還元利回り(総合)   0.053137513 0.053

 5.3%を1階に配分される土地建物価格に乗ずれば、1階店舗の純賃料が求められる。5.3%と高い期待利回りと思われるかも知れないが、建物は築40年であり、建物価格は低額である。

 これらの実証より、賃貸側鑑定が云う、「本件貸室のような階層別用途別の効用が異なる区分所有建物や建物の部分の賃料の査定には対応できない欠陥がある。」という批判は当たらない。

 階層別によって、賃料が異なっている場合も、その異なっているフロアの賃料を田原算式の賃料欄に入力すれば、その賃料に対応する還元利回り(期待利回り)が求められる。その階の土地建物の価格を階層別効用配分割合で算出し、その土地建物価格(基礎価格)に求められた期待利回りを乗ずれば、その階の純賃料が求められる。

 つまり、田原算式は、賃貸側鑑定が批判するごとくの現象は生じなく、全ての階の賃料が異なっていても、その階毎の還元利回り(期待利回り)が求められる。

 一棟全体の利回りを知りたい時は、一棟全体の賃料の平均賃料を入力すれば、求められる。その時の基礎価格は一棟全体の土地建物価格である。本件で言えば容積率7.37の数値が算出される土地建物の価格である。

 賃貸側鑑定が言う「田原鑑定に基づいて適切な期待利回りを算定することは不可能というべきである」の批判は失当である。

 自分で言うのも手前味噌過ぎると思われるかも知れないが、田原算式は、還元利回り・期待利回りを求めるのに優れた算式であると言える。

 なお、貸主側鑑定の期待利回りは3.5%(償却前)で、土地価格はu当り31,800,000円であった。(田原鑑定は償却後の利回りで3.8%である。土地価格はu当り21,275,000円である。)

 貸主側鑑定の期待利回りの求め方は、地価公示価格の地区の基本利回りを考慮したと記すが、地価公示価格の期待利回りは新築建物の期待利回りである。

 本件建物は築40年である。築40年の建物の賃料期待利回りと新築建物の賃料の期待利回りとは同じでは無い。

 築40年の建物の賃料の期待利回りを求めるのに、新築建物の賃料の期待利回りを採用するべきものでは無かろう。

 現在東京地裁で争訟中である。

 以上


 貸ビル・マンション等利回り、還元利回りに関して、本ホームページの『鑑定コラム』に次の記事があります。参考になると思います。

  鑑定コラム   28)「日本プライムリアルティ投資法人のリート」

  鑑定コラム   41)「田の還元利回り4.2%」

  鑑定コラム  154)「不動産の利回り(割引率とターミナルレート)」

  鑑定コラム  179)「ある投資法人の購入ビルの利回り」

  鑑定コラム  186)「沖縄の家賃と不動産利回り」

  鑑定コラム  189)「東京の賃貸ビルのフアンドバブル化」

  鑑定コラム  149)「積み上げ方式の割引率に実証性はあるのか」

  鑑定コラム  256)「平成16年東京マンション利回り」

  鑑定コラム  257)「危険ゾーンに入った都心一部の貸ビル利回り」

  鑑定コラム  264)「単身者用マンションの利回りも危険ゾーンに」

  鑑定コラム  270)「ススキノの利回り22%」

  鑑定コラム  544)「銀座の利回り2.0%、表参道、新宿、渋谷、池袋は?」

  鑑定コラム  733)「還元利回りを求めるある大学の期末試験課題」

  鑑定コラム  1104)「Jリートの還元利回りは賃料評価の期待利回りにはならない」

  鑑定コラム1111)「丸の内にあるビルのキャシュフローの還元利回りは2.8%」

  鑑定コラム1523)「丸ビルの還元利回りは2.51%(28年3月)」

  鑑定コラム1581)「借入金割合と金利で求める利回りに疑問あり」

  鑑定コラム1742)「京都右京区のマンションの還元利回りは3.0%」

  鑑定コラム1755)「還元利回り、期待利回りの求め方」

  鑑定コラム1756)「倉敷のマンションの還元利回りは2.8%」

  鑑定コラム1757)「土地還元利回りと建物還元利回り」

  鑑定コラム1758)「倉敷・岡山の土地還元利回り、建物還元利回り」

  鑑定コラム1809)「田原の著書の期待利回り・還元利回りの求め方に対する批判の反論」

  鑑定コラム1939)「三菱地所の賃貸不動産の還元利回りはどれ程か」

  鑑定コラム1940)「還元利回り=標準粗利回り×(1−必要諸経費率)の証明」

  鑑定コラム2719)「「家賃の期待利回りの求め方」千葉県不動産鑑定士協会講演レジュメ」


 本鑑定コラムには上記以外に還元利回りに付いての多くの記事があります。鑑定コラムの中の還元利回りに関しての記事を検索する場合には、グーグル或いはヤフーの検索窓に下記をコピーして貼り付け、検索実行すれば関連記事の一覧が表示されます。又「還元利回り」の検索日本語の所の言語を替えて検索すれば、その関係の記事一覧が検索されます。

      還元利回り site:www.tahara-kantei.com

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