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1878)公有地売却は議会の議決を

 鑑定コラム1876)、1877)は、広島県大竹市の公有地である大願寺宅地見込地の売却価格に対する最高裁の判決(以下「大願寺最高裁判決」とする)について、公有地売却価格に対する不動産鑑定評価の係わり方について述べた。

 大願寺最高裁判決の本旨は、公有地売却価格に対する不動産鑑定評価の係わり方についてのものでは無い。

 大願寺最高裁判決の本旨は、地方自治法237条2項についての判断を示すものである。

 地方自治法237条2項は、以下のごとくの条文である。
   
 「第二百三十七条 この法律において「財産」とは、公有財産、物品及び債権並びに基金をいう。

2 第二百三十八条の四第一項の規定の適用がある場合を除き、普通地方公共団体の財産は、条例又は議会の議決による場合でなければ、これを交換し、出資の目的とし、若しくは支払手段として使用し、又は適正な対価なくしてこれを譲渡し、若しくは貸し付けてはならない。」

 市有地の土地は、普通地方公共団体である市の財産である。

 その財産の譲渡は、適正な対価で、条例又は議会の議決によらなければならないと地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)は云う。

 この地方自治法237条2項の解釈として、大願寺最高裁判決は次のごとく判示する。

 「地方自治法237条2項は,条例又は議会の議決による場合でなければ, 普通地方公共団体の財産を適正な対価なくして譲渡し,又は貸し付けてはならない旨規定しているところ,同項の趣旨は,適正な対価によらずに普通地方公共団体の財産の譲渡又は貸付け(以下「譲渡等」という。)がされると,当該普通地方公共団体に多大の損失が生ずるおそれや特定の者の利益のために財政の運営がゆがめられるおそれがあるため,条例による場合のほかは,適正な対価によらずに財産の譲渡等を行う必要性と妥当性を議会において審議させ,当該譲渡等を行うかどうかを議会の判断に委ねることとした点にあると解される。そうすると,同項の議会の議決があったというためには,財産の譲渡等が適正な対価によらないものであることを前提として審議がされた上当該譲渡等を行うことを認める趣旨の議決がされたことを要するというべきである(最高裁平成15年(行ヒ)第231号同17年11月17日第一小法廷判決・裁判集民事218号459頁参照」

 この考え方より、次のごとく判示する。この判示が大願寺最高裁判決の本旨である。

 「当該譲渡等が適正な対価によるものであるとして普通地方公共団体の議会に提出された議案を可決する議決がされた場合であっても,当該譲渡等の対価に加えてそれが適正であるか否かを判定するために参照すべき価格が提示され,両者の間に大きなかい離があることを踏まえつつ当該譲渡等を行う必要性と妥当性について審議がされた上でこれを認める議決がされるなど,審議の実態に即して,当該譲渡等が適正な対価によらないものであることを前提として審議がされた上これを認める趣旨の議決がされたと評価することができるときは,同項の議会の議決があったものというべきである。」

 鑑定評価額7億1300万円に対して、公有地の売却価格は3億5000万円について、次のごとく判示する。

 「以上の事情を総合的に考慮すれば,本件譲渡議決に関しては,市議会において,本件譲渡価格に加えて平成23年鑑定評価額を踏まえた上で,本件譲渡が適正な対価によらずにされたものであったとしてもこれを行う必要性と妥当性についても審議がされており,審議の実態に即して,本件譲渡が適正な対価によらないものであることを前提として審議がされた上これを行うことを認める趣旨でされたものと評価することができるから,本件譲渡議決をもって,地方自治法237条2項の議会の議決があったということができる。」

 結論として、広島県大竹市A市長の3億5000万円の公有地売却行為は、「本件譲渡に財務会計法規上の義務に違反する違法はなく,A市長は,本件譲渡に関して,市に対する損害賠償責任を負わないというべきである。」と判示する。

 大願寺最高裁判決は、少し分かり難い判決かもしれないが、地方自治法96条に地方自治体の議会の議決事項が規定されている。下記である。
  
 「第九十六条 普通地方公共団体の議会は、次に掲げる事件を議決しなければならない。
 一 条例を設け又は改廃すること。
 二 予算を定めること。
 三 決算を認定すること。
 四 法律又はこれに基づく政令に規定するものを除くほか、地方税の賦課徴収又は分担金、使用料、加入金若しくは手数料の徴収に関すること。
 五 その種類及び金額について政令で定める基準に従い条例で定める契約を締結すること。
 六 条例で定める場合を除くほか、財産を交換し、出資の目的とし、若しくは支払手段として使用し、又は適正な対価なくしてこれを譲渡し、若しくは貸し付けること。
(以下省略)」

 地方自治法96条6項に議会の議決必要事項として、「適正な対価なくしてこれを譲渡し」とある。

 「適正な対価なくしてこれを譲渡し」することは、議会の議決があれば行えると云うことである。

 このことを考えれば、議会はしっかりしなければいけないということになろう。

 県市町村会議員は、識見を持ってしっかりしていなければ駄目と云うことになる。

 しかし、237条2項では、「適正な対価なくしてこれを譲渡し」することを禁じておきながら、96条2項は、それを許すという相矛盾する法理論である。

 この法理論の構成は、民主主義を破壊する可能性をはらんでおり、地方自治法96条6項は見直しする必要があるのでは無かろうか。


  鑑定コラム1876)
「公有地の売却には2人の不動産鑑定士の不動産鑑定書を」

  鑑定コラム1877)「大竹市大願寺公有地売却価格最高裁判決」

  鑑定コラム1879)「地方自治法の「適正な対価」とは」


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