1876)公有地の売却には2人の不動産鑑定士の不動産鑑定書を
公有地の売り払いに伴う適正時価の把握には、2人の不動産鑑定士、不動産鑑定業者による不動産鑑定書を徴して、当該不動産の適正価格を把握すべきであると私は思う。
1人の不動産鑑定士或いは1不動産鑑定業者発行の鑑定評価書では、その鑑定書表示価格が適正な評価額であったとしても、その適正価格であると云うことを担保するものが必要である。
適正価格であることを担保するものが無くては、幾らその鑑定評価額が適正であると云っても、それは主観的なものであって、客観的に見て適正であるとは断定出来ない。担保するものがあって適正であると云えるのである。
では担保するものとは何かと云えば、違う不動産鑑定士の不動産鑑定書の存在である。
もう1つの不動産鑑定書が必要である。
2つの不動産鑑定書があることによって、当該不動産の適正価格がわかり、公有地売却価格の妥当性が認められるのである。
平成30年11月6日に最高裁第三小法廷(裁判長裁判官山崎敏充)で、公有地売却価格についての最高裁判決が言い渡された。
事件番号等は、「平成29年(行ヒ)第226号 違法公金支出損害賠償請求事件」である。
広島県大竹市の大願寺の公有地の土地価格をめぐって、市有地の売却価格が低額過ぎて、住民が市長に損害賠償を求めた案件である。
その判決文は、後日掲載するつもりであるが、その判決において、2人の裁判官の補足意見が記されている。
2人の裁判官とは、山崎敏充裁判官と宮崎裕子裁判官である。宮崎裕子裁判官は、山崎裁判官の主張に同調するというものであるから、山崎裁判官の補足意見の中で、注目すべき部分を記す。
補足意見として、山崎裁判官は、次のごとく述べる。
「上記鑑定評価額は,現実に4回にわたって実施された売却手続の状況からうかがえる本件土地をめぐる不動産市況の現況,特に具体的な立地条件を踏まえた本件のような大規模土地の需要の状況,宅地造成とその分譲販売という事業が抱えるリスクなどが的確に反映されたものか疑問を挟む余地があり,それが不動産鑑定評価基準に則って算出されたものであり,その過程に特段の不合理な点が指摘できないとしても,上記の諸点を十分に考慮に入れた別異の評価もあり得たのではないかと思われる。」
山崎裁判官は、7億1300万円の鑑定評価額に対して、疑問を呈している。本件事件では、役所は1人の不動産鑑定士からしか不動産鑑定評価書をとっていなかったのではなかろうかと推測される。それによって適正価格の判断に齟齬が生じたのでは無かろうか。
山崎裁判官が、上記引用の最後で「上記の諸点を十分に考慮に入れた別異の評価もあり得たのではないかと思われる。」と述べる。
つまり、もう1つの不動産鑑定書が必要と云うことを示唆している。
山崎敏充裁判官は、固定資産税の車返団地事件の再上告を棄却した裁判官でもある。このことについては鑑定コラム1265)に記してある。
山崎敏充裁判官は、何れ最高裁の長官になられる方では無かろうかと私は思う。
裁判の争いになると4、5年以上の時間が掛かり、裁判資料作成のための膨大な時間と労苦そして弁護士費用がかさみ、敗訴になれば損害賠償の責めを負う。
それらを避ける為には、2人の不動産鑑定士の鑑定書を徴して、しっかりした適正価格で公有地の売却を行うべきである。
本件のごとく、62,000uの規模大で、宅地見込地の不動産の場合、価格判断が極めて難しいことから、特にそれが必要である。
鑑定料がかさむと云うような、浅はかな考えを持たない方がよい。
不動産鑑定は、入札と云う制度には親しまない業務内容であり、不動産鑑定を入札に供し、安い鑑定料の入札業者に不動産鑑定を頼むというような行為は、行うべきものでないと私は思う。
鑑定コラム1265)「車返団地事件 再上告棄却」
鑑定コラム1877)「大竹市大願寺公有地売却価格最高裁判決」
鑑定コラム1878)「公有地売却は議会の議決を」
鑑定コラム1879)「地方自治法の「適正な対価」とは」
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