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191)競売における鑑定評価特集の『Evaluation』14号

 不動産鑑定実務理論雑誌の『Evaluation』14号(プログレス 電話03-3341-6573)が、2004年8月15日に発行された。

 2004年8月15日の発行であり、いささか時間が過ぎているが、年4回の雑誌でもあり、遅くなったが、同誌の編集委員の一人であるという責務もあり、内容を紹介する。

 同14号の特集は「競売における鑑定評価」である。
 4つの特集論文が掲載されている。

 不動産鑑定士の堀川裕巳氏が「競売制度について思うこと」の課題で、競売評価人の仕事をしながら、感じた矛盾を鋭く論じる。

 1つは、調査事項が法定されていなく、どの範囲まで行えばよいのか分からない。対象地の確定に困難性が伴う時には、評価人の責任の範囲が不明であるために、競売落札後、落札者から調査不足を原因として責任を追及されることは不合理であると嘆く。

 2つは、競売評価の運用基準がないことを指摘する。
 不動産鑑定には「不動産鑑定基準」があるが、競売評価には評価の基準とするものが無いという。

 3つは、評価人の評価報酬の不明確さを挙げる。請求書を白紙で提出すると堀川氏は述べる。私にはこの点についてはさつぱり理解出来ない。

 不動産鑑定士の河井要祐氏は、「競売評価の作業と表示登記の基本的課題」という課題で、約20年の評価人としての実績から、次の3つを問題点として指摘する。

 @ 担保設定時の審査の甘さ
 A 表示登記制度の不備・未整備
 B 競売評価人への無限定な責任論

 上記3つの問題点を挙げつつ、自ら経験した評価人の苦労と嘆きを綴る。
 しかし、嘆いて居るだけで良いであろうか。
 書類の不備、制度の不備によって、そのしわ寄せが、競売評価人である不動産鑑定士に無限定に責任転嫁されているのが現状であるとするならば、それを改善して行くのが、現在評価人の中枢として活躍されている人に与えられた使命ではなかろうか。次の世代の人に、自分達と同じ苦労とつらさを味わわせないために。
 そうで無ければ、進歩は無く、仕事としての夢はないでは無かろうか。

 土地家屋調査士作成による地積測量図の無い物件については、競売手続は行わない。評価はそれに基づいた評価であり、それによっての責任追及は、評価人の善管注意義務違反で無い限り行われないという制度に変えて行くべきであろう。

 河井氏は、「政治的な運動をしたりすることは別の次元の話」と言うが、上記制度を最高裁判所、法務省の官僚に頼んでも実現可能性は無い。官僚・役人達が評価人のために制度改革を進んでやってくれることなど、まず無い。
 官僚・役人達は法律に従って事務を遂行するのみであり、それ以上の事は行えない。
 民事執行法の法律改正を行い、法律を作る以外方法は無い。
 官僚が法律作成をしてくれないと言うならば、議員立法による方法がある。
 立法の主旨からいえば、国会議員が法律を立案すべきものである。法律を作れない人を国会議員に選ぶべきものではない。
 かつては主務官庁の役人が法律を作るという全く主客転倒していたが、今は議員立法が多くなりつつある。
 議員立法で制度改善を行う方法を考えても良いでは無かろうか。
 競売だからと言って、無定見に競売にかければ良いというものではない。
 また、評価人であるからと言って、全ての物件を無条件に評価する必要性は無い。

 不動産鑑定士の梅田真氏は、「民事執行手続、特に競売評価における評価人の役割」という課題で、競売評価の調査の手順を細かく述べる。
 調査の手順として、まず、
 @ 法務局の調査
 A 役所関係の調査
 B 現地調査
と順番に述べる。

 上記の各番号の調査では、何を調査すべきか、その調査事項と留意点について、分かり易く詳しく説明する。

 現地調査においては所有権者・占有者からいかにして協力してもらい、情報を引き出すかの苦労が述べられている。

 競売評価で最も困難を極める作業は、梅田氏も、やはり「評価対象物件の位置の明確な確定」という。

 競売評価の第一線で実際に評価を行っている3人の不動産鑑定士が、そろいもそろって同じ要因を挙げることは、競売評価制度に大きな欠陥があるということでは無かろうか。
 それも見捨てておけない要因のものである。
 現在の競売評価人の要職にある人は、自ら進んで、制度の欠陥の改善に取り組むべきものであろう。
 誰かがやってくれるだろうと傍観者的な他力本願でなく、自力本願で改善に取り組むべきではなかろうか。

 4つ目の論文は、「競売評価と判例」の課題の私の論文である。
 裁判の判決に現れた競売評価の3つの判例の紹介と論評を行っている。
 1つは、競売減価を35%でも、40%でも55%でも妥当であるという東京高裁等の判決に対して、減価数値に妥当性があると判決するのであれば、それは説得力ある数値で論証するべきであり、数値による具体的妥当性の論証がなされない限り、間違いでないという判決は妥当では無いと、東京高裁等の判決を真っ向から否定する論文である。

 2つは、競売評価に重過失が有りながら、落札価格が大きく上まわれば、その競売評価の重過失は治癒されるという名古屋高裁の判決に対して、評価の重過失は重過失であり、それが治癒されて重過失でなくなるという法理論は、不合理性も甚だしく、全く理解しがたい判決と論評し、これまた真っ向から名古屋高裁の判決を批判する論文である。東京高裁と名古屋高裁の2つの高裁判決を真っ向から否定する論文内容に興味ある人は、当雑誌を買って読んで頂きたい。

 3つは、市街化調整区域の建物の建たない土地を、その事を全く見落として競売評価したことに対して、国家賠償を命じた判決を紹介している。
 この判決は真に妥当な良い判決と論評した。この論文については、本鑑定コラム178) 「再建築不可要因を見落とした競売評価書」 として記事にしてある。

 なお競売の最低売却価格について、最低売却価格の2割下まわる価格までなら競売物件の売却が出来るという法案が、今年のつい最近(2004年11月26日)参議院本会議で可決、成立した。

 この法案は誰が提案し立法化したのか。
 不動産鑑定士を所轄する国土交通省か、それとも不良債権処理を急ぐ金融庁であったのか、抵当権の登記を司る法務省であったのか、あるいは競売事務を執り行う裁判所の元締めの最高裁判所であったのか、不動産鑑定士の団体である日本不動産鑑定協会であったのか。一体誰がこの最低売却価格の2割下まわる価格までなら競売物件の売却が出来るという法案を考え、法律化させたのか。

 この法律は議員立法による法律である。
 何故議員立法なのか。
 この法律作成にどれ程日本不動産鑑定協会は協力したのか。
 不動産鑑定士を管轄する国土交通省はどういう行動を取ったのか。
 そして評価の当時者である不動産鑑定士はどういう行動を取ったのか。
 不動産鑑定士の中で一人、孤軍奮闘してこの法案を成立するために汗を流して動いた人がいる。日本不動産鑑定協会も現在の評価人である不動産鑑定士達の誰一人協力せず、反対に回り汗を流している一人の不動産鑑定士の足を逆に引っ張るのみである。先の見えない情けない不動産鑑定士達で有り、日本不動産鑑定協会の幹部達である。法案が結局成立して、利益を得ているのは、誰なのか。

 法律作成までのいきさつや、それぞれの行動がいずれ漏れ伝わって来るであろう。

 横道にそれた。14号の内容の紹介にもどる。

 その他の一般論文は、次のものが掲載されている。
 ・不動産鑑定業界の現状と不動産鑑定士法への改正提言(平澤春樹)
 ・新・不動産鑑定基準等への一考察-6- (高瀬博司)
 ・林地の価格の一つの求め方(田原拓治)
 ・J-REITの現状と展望(松原幸生)
 ・土地収用に関する損失補償の要否・方式についての経済的検討(芦谷典子)

 上記のほか、論文とはやや言い難く、随筆的な色彩が強いが、不動産鑑定士の伊澤珠樹氏の「積算あれこれ」が掲載されている。

 編集後記氏は、不動産鑑定士に対して相変わらず厳しい目を向ける。
 世界の鑑定評価基準はIVSとUSPAPの融合化の動きにあると指摘する。(IVSやUSPAPとは何かと言うことが分からない不動産鑑定士は、自らが専門とする不動産鑑定評価についての情報・知識に相当遅れていると自覚され、勉強される事を望む)

 そして、編集後記氏は、キャップレートの積み上げ方式の求め方について、次のごとく痛烈に批判する。
 「米国で30年間も研究開発を行って来たにもかかわらず、国債の利回りとキャップレートに相関関係が見いだせないという状況があります。一方、REITのレンダーやアレンジャーの関係者からは、不動産鑑定士の採用している積み上げ方式の還元利回りはブラックボックスであり、説明責任を果たしていないという強烈な批判(不信)があります」と。

 『Evaluation』14号の頒価は、1,500円+消費税です。
 大都市の有名書店のほか、下記ホームページから購入出来ます。

      http://www.progres-net.co.jp/      

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