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2003)公租公課倍率法と判決(判例の分析)

 2019年9月13日、東京赤坂見附のホテルニューオータニの小さな会議室で開かれた田原塾2019年9月会(第72回)で話したレジュメを、前編、後編と2回に分けて記す。

 前編は、判決に現れた公租公課倍率法の判例の分析説明である。
 後編は、2018年における東京23区住宅地の公租公課倍率について論述する。

 前編を下記に記す。

******


        公租公課倍率法と判決

不動産鑑定士 桐蔭横浜大学法学部客員教授                      田原拓治

1.はじめに

 地代を求める手法の1つとして公租公課倍率法と云う手法がある。その手法によって適正地代が判決された裁判例があるか否か。その判決はどういう判決かについて述べたい。

2.公租公課倍率法とは

 公租公課倍率法とは、継続地代を求める一手法である。

 算式は、
                      月額地代
                  ───────── = 倍率                       
                     月額公租公課
で求める。

 地代は支払い地代である。

 公租公課は、当該借地の固定資産税・都市計額税である。

 上記算式で求められる倍率が、当該不動産の属する地域で、一般的な地代倍率として把握された時、その倍率を公租公課に乗して地代を求める手法を「公租公課倍率法」という。

 算式は、下記である。

   対象借地の月額公租公課×倍率=公租公課倍率法による月額地代

 不動産鑑定評価基準(以下「鑑定基準」と呼ぶ)は、継続賃料(継続地代)を求める手法として、次のごとく規定する。

 「継続賃料にあっては差額配分法、利回り法、スライド法、賃貸事例比較法等がある。」(平成26年改正鑑定基準国交省版P31)

 鑑定基準が、継続賃料の認める手法として明記する手法には、「公租公課倍率法」という手法は明記されていない。

 では、公租公課倍率法は、鑑定基準が認めない手法であるのかと云うと、そうでは無い。

 鑑定基準が列記する4手法の最後の賃貸事例比較法の最後に「等」と付記されている。

 公租公課倍率法は、この「等」に含まれる手法と解釈される。

3.判決に現れた公租公課倍率法

@ 判例

 公租公課倍率法のみで地代を決定した判決を私は目にしたことは無いが、地代決定の妥当性を公租公課倍率法の倍率で確かめた判決はある。

 かなり古い判決であるが、東京高裁が昭和59年6月30日に出した判決がある。

 事件番号は、昭和58(ネ)第135号である。

 判例掲載専門誌は、判例タイムズ535号の209頁である。

A 所在等

 東京都武蔵野市吉祥寺、JR中央線吉祥寺駅の北西方約200m、公園通りに面する商業地、土地面積は省略されており不明である。

 借地上の建物は、SRC造9階建(地下3階付)で、大部分を百貨店に利用されている。その土地の地代の争いである。価格時点は昭和56年4月1日時点と、昭和57年4月1日時点の2時点である。

B 地代の経緯

 イ,始期  昭和45年3月地上権設定  地代年額60万円
 ロ,昭和47年4月1日    公租公課の3.5倍
 ハ,昭和50年4月1日    年額 9,352,008円
 ニ,昭和51年4月1日    年額 10,583,952円
 ホ,昭和52年4月1日    年額 12,184,584円
 ヘ,昭和53年4月1日    年額 13,397,328円
 ト,昭和54年4月1日    年額 14,733,320円
 チ,昭和55年4月1日〜56年3月31日    年額 14,861,856円

C 判決の判示

 イ,過去の地代の決定の経緯

 過去の地代は上記のごとく推移してきたが、その決定は

     ・昭和50年〜52年は公租公課の2.7倍
     ・昭和53年は         〃     2.8倍
     ・昭和54・55年は     〃     2.9倍

と公租公課倍率法の倍率で決定されている。
   
 ロ,周辺地代は公租公課の倍率で決定されている

 対象地周辺の地代は、近隣に月窓寺、蓮乗寺、光専寺の寺所有の借地が多いことから、判例は「右借地の地代は当該土地に対する固定資産税及び都市計画税(以下公租公課という)を基準として決定されるのが一般的で、概ねその2倍ないし3倍(商業地は3倍程度)とされている。」と述べ、公租公課の倍率によって地代を形成されている実態を認める。

 ハ,昭和56年4月1日時点の地代について

 「昭和56年度の公租公課は昭和55年度と同額であり、近隣の地代も昭和55年から昭和56年にかけては据え置かれた例が多い(鑑定結果の賃貸事例6例中4例の地代は据え置きである)から、前認定の一般消費者物価及び本件土地の地価の上昇を考慮しても、前示1年の間に既定賃料額が不相当に低額化したことを認めうるに足りる証拠はない。」

と判示して、地代の値上げを認めず、昭和55年4月の地代である年額14,861,856円とした。

 ニ,昭和57年4月1日時点の地代の鑑定地代

 裁判所鑑定人不動産鑑定士の求めた昭和57年4月1日時点の地代は、下記である。

 「賃貸事例比較法、スライド方式、地価公示価格に継続地代の一般的比率(いわゆる平均的活用利子率)を乗ずる方法及び公租公課に対し一定の倍率を乗ずる方法の四方法により本件土地の地代を試算し、これらを総合して、結局スライド方式による地代と賃貸事例比較法による比準地代との平均値をもって本件土地の適正地代とし、昭和57年4月1日における適正地代を3.3平方メートル当り月額6,200円と結論を導きだしている。」

 ホ,判決地代

 判決地代は、「昭和57年4月1日における本件土地の適正賃料は、前記スライド法式によって得られた3.3平方メートル当り月額5,790円とするのが相当である。右地代は本件土地の公租公課の約3倍にあたり、近隣の地代の相場とも適合することからも、相当の地代であることが首肯される。従って、本件土地の地代は、昭和57年4月1日以降年額15,749,726円に改訂された。」

D 判決の中の公租公課倍率法

 イ,公租公課倍率法が判決に取り上げられた理由

 公租公課倍率法が判決に取り上げられたのは、近隣に地代例が多く、その地代の決定に、公租公課に対する倍率で地代が決定されているのが一般的であるという事実があったことによる。

 周りに寺が多くあり、寺は貸地を多く持っている。

 その地代は、公租公課の3倍以内で決めるのが殆どである。

 それは税法によって、宗教法人の地代は、公租公課の3倍以内であれば、その収入に対して課税しないという法令によるためである。

 このことについては、著書『改訂増補 賃料<地代・家賃>評価の実際』(プログレス 2017年2月)のP604〜611で述べている。そのページ記載内容は後記資料3として添付していることから、ここでは述べないこととする。(資料3参照 省略)

 ロ,妥当地代の検証手段として使用している

 適正地代は、スライド法による地代が適正であると判示し、その判示した地代の妥当性の担保として、公租公課倍率法の倍率を採用している。

4,鑑定人の不動産鑑定評価について

@ 地上権の要因が地代に適正に反映されているか

 裁判所は2時点の適正地代を把握するために、裁判所鑑定人として、不動産鑑定士を選任し、鑑定評価の依頼をしている。

判決文よりその鑑定評価内容を考えると、本件裁判鑑定では積算法の手法の分析が行われていないようである。

 対象地は、堅固建物所有を目的とする土地賃借権で、かつ地上権設定されている。

 一般借地権で無く、物権である地上権借地である。地上権の借地の権利は、一般借地権に比し、権利は甚だ強く、例えば抵当権の設定が出来る権利でもある。一般借地権は物権化しつつあるが債権である。
 
 地上権設定であるから、多額な権利金の授受があつたものと推定される。

 その地上権設定の権利金が、地代形成にしっかりと反映されているのかどうか分からない。

 採用されている賃貸事例比較法は、継続賃料の賃貸事例比較法であると思われるが、その賃貸事例は、地上権の地代の賃貸事例であるのであろうか。

 一般借地権の非堅固建物所有の地代事例による比較であったとすれば、その賃貸事例比較法は、類型の異なる事例との比較地代で行われているということになり、その賃貸事例比較法は失当となる。

A 地上権地代の公租公課倍率であるのか

 判決は公租公課倍率法の倍率3倍を妥当と判断しているが、それは一般借地権の場合の、非堅固建物所有を目的とする住宅地の場合の公租公課倍率である。

 地上権で堅固建物所有目的の地代の倍率では無い。

一般借地権の地代倍率を、地上権の地代に適用することは、甚だ問題がある。

B 当該地の店舗の賃料(家賃)はどれ程か

 対象地は吉祥寺商業地にある。

 公園通りに面した対象地上にはSRC造9階建(地下3階付)の百貨店ビルが建っている。

 このビルの月額家賃はどれ程か。

 9階建のビル全体の家賃でなくとも、標準的規模の画地規模を1,000uとした場合、そこに想定される商業ビルの賃料はどれ程か。

 本件裁判鑑定では、この面からの地代分析が全く行われていない。

 昭和56年頃と古く、その頃はそうした地代分析は行われていなかったという人がいるかもしれないが、鑑定手法としては収益分析法があり、それを応用した賃貸ビルを想定し、その賃料から土地に配分される収益を求め、その土地収益より、地代を求める分析は多くではないが行われていた。

 地代は賃貸事例比較法より発生するものでは無い。

 地代は、その土地の収益より発生するものであり、その土地収益は家賃によって求められるものである。

 とすれば、対象地の店舗賃料はどれ程か。この面からの地代分析の検討は必要である。

5.地上権地代倍率の実例

 私は、2019年の前半に訴訟関係で、地上権地代の事件に携わった。所在地番等は、不動産鑑定士の業務上の知り得た秘密事項に抵触することから明らかにすることは出来ないが、東京渋谷の高度商業地の大通りに面する場所にある借地であった。

 その借地権は、堅固建物所有目的の土地賃貸借であり、地上権設定されていた。つまり地上権借地であった。

 昭和46年の地上権設定であった。

 地代は、地上権土地賃貸借契約書に、「土地公租公課の1.8倍」の金額を支払うと記載されていた。

 昭和46年の地上権設定以来、その契約に従って、地代は土地公租公課の1.8倍の金額が、現在まで授受されて来ていた。

 地上権者は、公租公課の1.8倍でも地上権としての地代は高いと述べていた。

 渋谷の高度商業地にあり、土地の公租公課は甚だ高い水準にある。

 地上権借地上に建つ賃貸建物の支払家賃から逆計算すると、土地公租公課の1.8倍の地代は、やや高いのでは無かろうかと思った。

6.公租公課倍率法の必要性

 土地所有者と借地権者の間で地代を決める時、公租公課倍率法を利用して地代を決める場合が多い。

 裁判所の地代増減額請求事件の調停において、調停委員から地代の提示がなされるが、その提示金額は、公租公課倍率法によって求められた地代金額である場合が多い。

 何故、地代を決める時に、公租公課倍率法が使用されるのか。

 それは、公租公課倍率法には、利用される理由があるからであろうと思われる。その幾つかについて述べる。

@ 容易に常識の範囲の地代を知ることが出来る

 土地賃貸人、賃借人は、双方とも地代は世間相場の常識の範囲の水準にあれば、ことさら裁判までして決める必要性はないと思っており、それには公租公課倍率法によれば、常識の範囲の地代を知ることが出来る。

A 求め方が簡単である

 公租公課の金額に、倍率を乗じて12で割れば、月額の地代が求められる。求め方が極めて簡単である。

B 公租公課は地代の経費である

 土地公租公課は、地代の経費である。地代から経費を控除したものが利益である。公租公課倍率法の倍率3倍とは、経費を30円とすると、地代は90円(30×3=90)ということで、利益は60円(90-30=60)である。

 企業会計は売上高、その売上高を上げるために要した経費を一般販売管理費とする。企業利益は、売上高より一般管理費を差し引けば求められる。

 地代を売上高とし、公租公課を一般販売管理費とみなせば、企業会計の会計理論で地代は論理的に説明される。

 公租公課倍率法は、企業会計の会計理論で説明される論理的な地代の求め方である。

C 公租公課と純賃料(利益)の適正な割合関係が確保される

 企業経営において、それぞれの業種にあっては、適正な経費率と適正な利益率がある。公租公課倍率法は、土地賃貸業という企業経営と考えられ、その適正な経費率、適正な利益率が分かり、かつ守られる。

 例えば、固定資産税等が45円、利益が55円、地代100円の地代があったとする。

 固定資産税等が毎年15%ずつ3年間値上がりしたとする。公租公課は、

                45円×1.15×1.15×1.15≒68円
68円となる。

 地代の値上げがなされないとすると、地代の利益(純地代)は、

        100円−68円=32円
となる。

 3年前の当初の利益と経費の関係は、0.55:0.45であったのが、3年後では、0.32:0.68となり、受け取る地代の68%を経費である公租公課として支払わなければならなくなる。利益は32%となる。3年前は利益は55%あったのにと云うことになる。公租公課倍率法では上記のごとくの不合理は生じない。

 公租公課倍率法では、利益と経費が適正に配分される地代となる。

 他の手法で求められた地代が、その地代の経費と利益の割合関係が適正であるかどうかの検証の手段として、公租公課倍率法を使用することによって確かめられる。
                     ( 後編に続く)


  鑑定コラム2004)
「公租公課倍率法と判決(公租公課倍率)」


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