最高裁判所の第2小法廷が興味ある判決を下した。(平成17年7月15日 平成15年(行ヒ)第250号 非公開決定処分取消請求事件)
その判決は、「土地開発公社が個人から買収した土地の買収価格に関する情報は、個人情報に該当しない」という判決である。
案件は、名古屋市の住民が、名古屋市公文書公開条例に基づき、名古屋市に対して、名古屋市土地開発公社が市の委託により、将来市に譲渡することを予定して先行取得を行い保有している土地に関する一覧表の公開を請求したところ、名古屋市が非公開事項に該当するとして、公開を拒否した事案である。
原審の名古屋高裁は、土地の取得価格は公示価格を規準として算出された公正な価格であり、プライバシーとしての要保護性に乏しいことから、非公開情報に該当しないとした。
そして建物、工作物、立木、動産等の補償額は個別性が強いが、対象に応じて客観的公正な金額となっているはずであるから、これも非公開情報に該当しないと判示した。
この高裁の判決に対して、最高裁の今井均裁判長裁判官は、土地価格についての高裁の判決は支持するが、補償金は非公開情報に該当すると判決した。
土地開発公社の取得の土地価格について、最高裁の今井均判決はより詳しく、その非公開情報に該当しない事を述べる。
今井均判決はそのことについて、次のごとく述べる。
「公社が個人から取得した土地の取得価格に関する情報であり,当該個人が識別され得るというのであるから,個人の所得又は財産に関する情報であって,特定の個人が識別され得るものであるということができる。
前記事実関係等によれば,上記取得価格は,公有地の拡大の推進に関する法律7条の適用があるものとされ,当該土地と地価公示法2条1項の標準地との位置,地積,環境等の土地の客観的価値に作用する諸要因について比較して,標準地の公示価格と当該土地の取得価格との間に均衡を保たせるように算定されたというのであるから,売買の当事者間の自由な交渉の結果が上記取得価格に反映することは比較的少ないものというべきである。
そして,当該土地が公社に買い取られた事実については不動産登記簿に登記されて公示される性質のものである上,当該土地の取得価格に影響する諸要因,例えば,駅や商店街への接近の程度,周辺の環境,前面道路の状況,公法上の規制,当該土地の形状,地積等については,一般に周知されている事項か,容易に調査することができる事項であるから,これらの価格要因に基づいて公示価格を規準として算定した価格は,一般人であればおおよその見当をつけることができる一定の範囲内の客観的な価格であるということができる。
そうすると,上記取得価格をもって公社に土地を買収されたことは,個人地権者にとって,私事としての性質が強いものではなく,2の情報(=土地開発公社の取得の土地価格(筆者注書き))は,性質上公開に親しまないような個人情報であるということはできないから,本件条例9条1項1号所定の非公開情報に該当しないというべきである。」と。
土地価格の取得情報は、当該個人が識別され得るのであるから、個人の所得又は財産に関する情報であって、特定の個人が識別され得るものであると判決は言う。つまり個人保護情報の要件に該当することを認めている。
しかし、だからといって個人情報として、それを絶対保護しなければならないかというとそうでは無いという。
その理由として、当該土地の取得価格に影響する諸要因は、一般に周知されている事項であり、それら要因に基づいて公示価格を規準として算定すれば、一般人でもおおよその見当をつける事が出来る範囲内の客観的な価格である。
そうした価格は個人地権者にとって、私事としての性質が強いもので無く、公開に親しまない個人情報であるという事は出来ないと判示して、土地取引価格が個人情報だから保護されるべきものという考え方を否定するのである。
不動産鑑定士は、現在地価公示価格、基準地価格の査定、或いは一般の不動産鑑定の評価で、土地取引事例が個人保護情報の対象で有ると言って、情報の提供を拒まれ、土地取引事例の収集に大変頭を痛めている。
土地の取引事例が収集出来なければ、取引事例比較法による土地価格の査定作業が出来ないのである。
上記、最高裁の今井均判決は、一つの解決策を与えてくれているのでは無かろうか。
なお、補償金は非公開情報に該当するという判決内容については、判決文を読まれたい。