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235)「判例と不動産鑑定」特集のEvaluation18号

 不動産鑑定実務理論雑誌の『Evaluation』18号(プログレス 電話03-3341-6573 )が、 2005年8月15日に発行された。

 特集は「判例と不動産鑑定」をテーマにして、5つの論文が掲載されている。
 概略内容を紹介する。

   「不動産鑑定士への損害賠償請求事件をめぐって」という課題で、不動産鑑定士の津村孝氏は以下のごとく論述する。

 不動産鑑定は、不当鑑定に対して高額な損害賠償が求められる時代となり、大きな転機にあるといい、4つのゴルフ場の抵当証券発行に伴う不動産鑑定士の損害賠償の事件を取り上げる。

 1つは大阪地裁の判決(平成14年(ワ)第7675号事件 平成16年9月14日)であり、2つ目は東京地裁の判決(平成14年(ワ)第26249号事件 平成17年1月31日)である。

 その判決において、裁判所は不動産鑑定基準に対する認識を、
 @ 正常価格を算出するための一道具にすぎない。
 A 正常価格についての鑑定評価額の相違を出来るだけ小さくすることを目的とする。
という。
 この裁判所の考え方に対して、津村氏は猛然と異を唱える。

 津村氏は不動産鑑定評価の神髄は、「倫理的要請に照応するこころ」の問題であると説く。

 そして、平成5年、平成7年にゴルフ場の鑑定評価で収益価格を重視した者はほとんどいなかった。時間の経過によって、ゴルフ場の価格の異常に気づいたのである。

 10年後になって、収益価格を求めていないから不当鑑定と判断されて、損害賠償されてはたまらないと嘆く。

 その証拠の一つとして、平成7年3月に社団法人日本不動産鑑定協会近畿会調査委員会発表のゴルフ場の鑑定評価モデルをあげる。

 そのモデルでは、平成7年5月時点で、積算価格135億円、収益価格147億円であると紹介する。
 裁判所の抵当証券事件で不当鑑定と認識された鑑定書の鑑定額は141億円である。
 それ故、近畿会の発行しているゴルフ場のモデル評価額から考えると、「当時は141億円は実は適正な水準と思えてならない」と弁護する。

 津村氏のゴルフ場の抵当証券事件に対する考え方には、賛否両論があろうが、それは津村氏の論文を読んで各自判断して頂きたい。

 不動産鑑定士の廣内禎介氏は、「継続賃料(地代)の鑑定評価における差額配分法の適用」の課題で、地代の差額配分法について論ずる。

 東京高裁の浅生重機裁判官の差額配分法の否定判決(東京高裁 平成13年(ネ)第6510号)等を念頭にして、地代の差額配分法に論点を絞り、積算賃料と収益賃料の2手法による差額配分法の求め方を実例によって論述する。

 地代の積算賃料は、基礎価格を更地価格とし、それに契約減価を行う。期待利回りを5%として純賃料を求める。それに必要諸経費(地代であるから固定資産税、都市計画税である。)を加えて求める。

 収益賃料は、賃貸建物の家賃より、必要諸経費(土地の公租公課を除く)を控除し、建物に帰属する純収益を控除し、かつ、借地権者に帰属する収益として収入の7%の金額を控除して、得られた金額を地代の収益賃料とする。

 積算賃料の期待利回り5%、収益賃料の借地権者に属する収益を7%としている。

 実際の鑑定書においては、それら数値の採用根拠理由は説明されているであろうと思われるが、本稿において借地権者に帰属する収益が、何故収入の7%相当であるのか説明されていないのが残念である。

 3つ目の論文は、「判例に見る継続賃料の利回り法」の課題の私の論文であるが、これは既に鑑定コラムで紹介してあるから省略する。

 4つ目の論文は、建設省、日本道路公団で多くの公共用地の買収の実務を行い、最近まで明海大学教授であり、定年で現在は同大学の講師である田辺愛壹氏の「事業損失補償(地価下落補償)の裁判をめぐって」の論文である。

 ある公共事業に伴って土地価格に下落が生じているかどうか、裁判で争っている争点について、専門家として判断意見を求められたものを論述した内容の要約である。

 案件は幅員23mの公道の中央に公道と並行して架橋が造られ、当該地は接面道路間口113mあったものが、架橋へのスロープ状の取り付け道路の築造によって、幅員23m道路に接するのは19mとなってしまい、画地利用に著しい障害が生じ、土地価格に下落が生じたから、その価格下落の補償をせよという当該地の所有者の事業損失補償の申立の事件である。

 当該地はスロープ状の取り付け道路の築造の為に、用地買収されたという訳ではない。つまり、事業用地にかかっていないので損失補償の対象にならないのである。それ故、憲法29条3項により、この種の損失(こうした損失を事業損失という)にも損失補償を認めるべきであるという原告側(当該地の所有者)の主張である。

 憲法29条3項は次のごとく述べる。
 「私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用いることができる。」

 当該地は、幅員23mの道路を利用出来る道路接面間口が113mあったものが、19mに縮小し、利用道路も狭小化したのであるから、架橋へのスロープ状の取り付け道路の築造によって、当該地の価格は下落したと考えるのが一般的であろう。

 ではその補償を合法化する法律、規則は何か。その補償を担保する理論、学説はあるのかということになる。
 そしてどれ程の土地価格が下落するのかということになって、不動産鑑定士の登場ということになる。

 田辺論文を読んで、損失補償が発生するか否か。発生するとすれば、その理論構成と担保する理論はあるのか。土地の減価額、或いは妥当な減価割合はいかほどか。各自考えられたい。

 同論文の中に「反射的な効果」、「反射的利益の喪失」という言葉が出てくる。どうも私にはこの用語の意味が分からない。

 5つ目の論文は、不動産鑑定士曽我一郎氏の「市街地再開発事業における争訟と鑑定評価」の課題の論文である。

 同氏は、市街地再開発事業における争訟は、土地区画整理事業ほど多くないという。
 その理由として、
 @ 従前資産評価についての争訟は、基本的には収用委員会裁決申請前置主義であること。
 A 権利変換計画に対する不服については、意見書制度を設けていること。
 B 参加組合員や事業協力者等の主導で、私的解決を第一優先としてきたこと。
 C 市街地再開発事業は組合施行、個人施行で発展してきており、公権力を背景にした強権的施行は例外的な施行であること。
の4つをあげる。

 市街地再開発事業における「評価」の争訟例として、3つの事例を紹介する。
 1つはJR高槻駅再開発の土地買収をめぐる損害賠償の住民訴訟、2つは東京西大久保の市街地再開発事業の権利変換処分取消請求事件、3つは練馬区春日町再開発事業による図書館土地取得費をめぐる住民監査請求事件である。

 最初のJR高槻駅再開発の土地買収をめぐる損害賠償の住民訴訟では、原告住民は国土交通省の地価調査課に対して、買収土地を鑑定評価した不動産鑑定士を、土地価格を不当に高く評価したとして、不当鑑定の措置請求を行っていると事実関係を伝える。

 これら争訟事件に共通する争点は、「不当に高額な用地取得」という。それは当然の宿命として、不動産鑑定評価が問題の中心ということになると説明する。

 市街地再開発事業の「事業」における争訟例として4つの事例を紹介する。それらの原告は住民であり、今後も住民による監査請求、住民訴訟が増えるのではなかろうかと曽我氏は述べる。

 一般論文として、愛知工業大学の岡崎一浩教授が「企業価値と不動産鑑定評価」の課題で、企業価値の求め方およびそれに関する不動産鑑定評価の領域について述べる。

 その論文の中で、日本公認会計士協会・東京会がまとめた平成17年度の減損会計に伴う企業資産評価に採用した141社の割引率を紹介する。

 小さい数値の割引率は、

    第一中央汽船     0.9%
    日本触媒       1.2%
    アサヒペン      1.7%
    植木組        1.8%
    北陸電力       1.8%
    ウエスコ       1.8%
である。

 大きい数値の割引率は、
    東海アルミ箔     11.5%
    あいおい損害保険   10.5%
    大和商工リース    10.0%
藍沢證券        9.6%
    ヤマハ 9.4%
である。

 割引率の平均は 4.94%(標準偏差1.92)である。

 その他資本還元率の求め方、不動産鑑定士の用いる割引率との違いについても論述する。
 これらは不動産鑑定評価について、外から客観的に評価の妥当性を考えさせてくれるものであり、一読されることを勧める。

 最後に編集後記氏は、いつも不動産鑑定士に対して頭の痛いことを言うが、本号においても辛辣な言葉を浴びせる。
 編集後記氏は、専門家の三要素として、次の3つを掲げる。
 @ 高度の職業的専門性
 A 高度の職業倫理
 B 職能団体による教育と規律維持

 専門家の職業に入る不動産鑑定士及びその団体に、上記3つの要素に対する問題意識が本当にあるのかと、強い疑問を不動産鑑定士に投げかける。


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