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24)アサヒとキリンの壮絶な戦い

 アサヒビールがある発酵会社の酒類事業部門2工場を従業員350人とも含めて、約200億円で企業買収するという。(日経2002.2.19)

 その発酵会社の売却する酒類事業部門(焼酎甲類の一部とワイン部門)の売上高は、385億円(2001年3月期)で、2億円の営業損失という。

 アサヒビールは焼酎事業部門に事業を拡げるために買収するという。
 投資額の売上高倍率は、
      385億円÷200億円 ≒ 1.92
である。

 投資額を固定資産とみれば、固定資産回転率は1.92ということになる。
 酒類製造業の固定資産回転率は、平均2.9(標準偏差1.9)である。
 発酵会社の酒類事業部門は赤字であることを考えれば、標準偏差の1倍を加算した、
       2.9+1.9 = 4.8倍
の固定資産倍率が妥当な水準ではないかと思われる。
 この数値はその発酵会社の固定資産回転率から見ても、おおむね妥当と考えられる。

 その発酵会社の売上高と有形固定資産は、2001年3月期で、
       売上高    306,653百万円
       有形固定資産  72,086百万円
である。

 固定資産回転率は、
     306,653百万円÷72,086百万円 = 4.25
となる。

 前記妥当水準の固定資産回転率4.8より売買価格を求めると、
    385億円÷4.8 =80億円
80億円ということになる。
 この金額より見れば、アサヒビールの200億円の企業買収価格は非常に高い。

 一方、アサヒビールの売上高と有形固定資産は2001年12月期で、
       売上高   1,054,649百万円
       有形固定資産  570,776百万円
である。

 固定資産回転率は、
1,054,649百万円÷570,776百万円 ≒ 1.85
となる。

 この固定資産回転率より買収価格を見ると、
     385億円÷1.85 = 208億円
となり、200億円の買収価格はアサヒビールの企業経営感覚より見れば、妥当と言うことになる。

 アサヒビールの焼酎メーカー買収に刺激を受けたという訳ではないと思うが、ライバル企業であるキリンビールが、ある中国酒メーカーを60億円で企業買収するという。(日経2002.3.6)

 その中国酒メーカーは焼酎乙類、果実酒の製造免許を持っており、2001年3月の売上高は51億円である。
 キリンビールは製造工場と約100人の従業員を引き継ぐという。

 投資額に対する売上高倍率は、
     51億円 ÷ 60億円 = 0.85
である。

 工場を年間売上高以上の金額で取得するという信じがたい行為である。
 原材料・人件費がかかり売上高と同じ金額で工場を買ったら、大赤字になってしまう。
 大抵の企業は倒産してしまう。
 そのぐらいは買収側は百も承知である。
 こと左様に1兆円企業ですら、焼酎の発酵技術と製造免許が欲しいと言うことである。

 ビール会社にとって焼酎の発酵技術と製造免許がそんなにも必要かと思われるが、不動産鑑定の立場から分析してみると、アサヒとキリンの1兆円企業の、目に見えない壮絶な戦いが鮮やかに見えて来る。

 この競争に油を注ぐつもりなのか、2002年4月16日の日経は、アサヒビールの更なる焼酎事業の企業買収を報じる。

 ある大手企業の事業部門の中では小さい事業部門である焼酎、低アルコール飲料事業(売上高239億円 2002年3月見込み)を買収するという。

 買収金額は30〜40億円である。

 投下資本に対する売上高倍率は、
    239億円÷40億円 = 5.97
である。
 今度は工場買収価格としてはまともである。

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