2544) 継続家賃のスライド法の尺度に対象不動産の純賃料の変動率を採用は不可
最近、家賃の訴訟で、地裁鑑定人不動産鑑定士が作成したおかしな継続賃料の不動産鑑定書を目にした。
その不動産鑑定書をA鑑定とする。
A鑑定は、スライド法の変動率尺度として12項目のデータを並べている。
12項目の変動データと評価建物の賃料変動率とどの様な関係があるものかと思いながら鑑定書を読み、どういう考え方でスライド法の尺度を求めるのかと思って鑑定書を読み進めた。
A鑑定は、12項目の中の1つのデータとして掲載されている「対象不動産の純賃料」の項目の変動率を、スライド法の尺度として採用し、平成27年8月1日〜令和2年2月1日迄の対象不動産の純賃料の変動率は4.1%であるから、スライド法の変動率は「対象不動産の純賃料」の変動率を採用して、4.1%としていた。
この変動率の決定には私は驚いた。
スライド法の変動率については、不動産鑑定評価基準(以下「鑑定基準」と呼ぶ)は、次のごとく規定する。
「変動率は、直近合意時点から価格時点までの間における経済情勢等の変化に即応する変動分を表すものであり、継続賃料固有の価格形成要因に留意しつつ、土地及び建物価格の変動、物価変動、所得水準の変動等を示す各種指数や整備された不動産インデックス等を総合的に勘案して求めるものとする。」(平成26年改正鑑定基準 国交省版P35)
鑑定基準の示す変動率は、いずれも一般的に客観的に目に見え、発表されているデータで、賃料が変動していると分かるデータである。
一方、A鑑定が採用した変動率は、「対象不動産の純賃料」の変動率である。
そのデータは一般的に発表されているものでは無く、かつ客観的に目に見える数値でない。
借地借家法32条の賃料増減額請求の要件の一つとして、「近隣同種の建物の借賃に比較して不相当となったとき」と例示する。
近隣同種の建物の借賃は、一般的に調べれば目にすることが出来るものであり、客観的に比較することによって賃料の変動を知ることが出来る。
「対象不動産の純賃料」は、近隣同種の建物の借賃のごとく、一般的に調べることが出来るものではない。客観的に比較して賃料の変動を知ることが出来るものではない。
そうした性質の数値を、スライド法の変動率に採用することは、一般性、客観性の要因が欠落しており変動率の数値として採用することは不可である。間違っている。
「対象不動産の純賃料の変動率」をスライド法の変動率に採用することは、客観性が無く不可である。
鑑定基準は上記のごとく記しているが、土地建物の価格変動率と対象建物の賃料の変動率が連動しているというわけでは無い。
地価が倍になったから賃料が倍になるわけでは無い。東京の商業地では家賃の値上りは数年遅れ、それも僅かな値上り程度である。
同じことは、消費者物価指数、所得水準の変動にも言い得る。
鑑定コラム2410)「事務所賃料の評価でスライド法に消費者物価指数を使うことは妥当か」で、事務所賃料と消費者物価指数の関係を分析した結果、両者の間に、明確な相関関係を認めることは出来ず、「事務所賃料評価のスライド法の尺度として、消費者物価指数(家賃指数)を採用しない方が良い。」という結論のコラム記事を書いた。
賃料は、土地価格と同じく、多くの経済的要因、社会的要因、自然的要因等が入り交じって形成されている事から、賃料の変動率を知るには、同類型の賃料から求められる変動率に優るものは無いと私は思っている。
鑑定コラム2410)「事務所賃料の評価でスライド法に消費者物価指数を使うことは妥当か」
▲