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2410) 事務所賃料の評価でスライド法に消費者物価指数を使うことは妥当か

 小言を云いたく無いが、腹に据えかねる質の劣る不動産鑑定書を最近多く見る様になってきた。

 そのうちの一つから。

 指導した先輩の不動産鑑定士が悪いのか、本人の不勉強が原因か分からないが、事務所賃料・店舗の継続賃料のスライド法の尺度に消費者物価指数を使用して、スラド法の賃料を求めている賃料鑑定書に遭遇した。

 事務所賃料・店舗賃料と消費者物価指数の間に強い相関関係があるとでも思っているのであろうか。

 事務所賃料と消費者物価指数(家賃指数)の間に相関関係があるのか、東京のデータを例にして検討してみる。

 東京都心5区の事務所賃料と東京23区消費者物価指数(家賃指数)との間に相関関係があるか具体的に調べて見る。

 事務所賃料のデータは不動産仲介、不動産情報提供会社である株式会社三幸エステートの調査・発表している東京都心5区の2000年から2021年までの各年6月賃料とする。坪当り円である。

 消費者物価指数は、総務省統計局発表の東京23区の消費者物価指数の中の家賃指数とする。

 データ一覧は、下記である。


年月 東京都心5区事務所賃料 円/坪 三幸エステート  東京23区消費者物価指数・家賃 2015年=100
2000年6月 16985 104.9
2001年6月 16987 104.9
2002年6月 16895 104.1
2003年6月 16900 103.6
2004年6月 16388 103.0
2005年6月 16102 103.2
2006年6月 16457 103.5
2007年6月 17519 103.5
2008年6月 18918 104.1
2009年6月 18224 103.3
2010年6月 16531 102.3
2011年6月 15588 102.2
2012年6月 15171 101.4
2013年6月 14646 100.9
2014年6月 14663 100.4
2015年6月 15062 99.8
2016年6月 15100 99.7
2017年6月 16520 99.3
2018年6月 17452 99.3
2019年6月 18699 99.9
2020年6月 20000 100.0
2021年6月 19879 100.0


 上記データを、左側縦軸に事務所賃料(円/坪)、右側縦軸に消費者物価指数・家賃(2015年=100)を取って図示したグラフが下図である。




東京都心5区事務所賃料と消費者物価指数




 上図を見て、事務所賃料と消費者物価指数・家賃との間に強い相関関係があると読み取れるであろうか。

 消費者物価が2%下がったら、事務所賃料も2%程度下がっているのであろうか。

 両者の関係を概略検討すると次のことが云える。

@ 2000年6月〜2021年6月の間

                   2000年6月a         2021年6月b       変動率b/a
        事務所賃料       16,985円           19,879円          1.170
        家賃指数          104.9              100.0            0.953
 事務所賃料は17.0%上昇しているのに、家賃指数は▲4.7%下落している。

A 変動巾
                           最低a      最高b        高低倍率b/a
    事務所賃料        14,646円          20,000円        1.356
    家賃指数           99.3              104.9          1.056
 事務所家賃の変動巾は、低値に対して35.6%の巾がある。

 家賃指数の変動巾は、低値に対して5.6%の巾である。

 変動巾の率が違い過ぎる。

B 変動時期の違い、変動率の違い
 事務所賃料は、2014年6月の14,663円/坪から2021年6月には19,879円/坪に値上がりしている。変動率は、
      19,879円
          ──────  = 1.355                                   
           14,663円
35.5%値上がりしている。

 家賃指数の同じ期間を見ると、2014年6月は100.4、2021年6月は100.0である。 変動率は、
       100.0
          ───────   = 0.996                               
        100.4
▲0.4%値下がりしている。

 上記@ABの両者の関係を見て、変動が似かよっているから、スライド法の尺度として採用すべきであると云えるであろうか。

 当の不動産鑑定士は採用していることから、似かよった変動をしていると判断しているようである。

 著書『改訂増補 賃料<地代・家賃>評価の実際』P278で、スライド法の尺度について、次のごとく述べている。

 「そもそも変動の激しい事務所賃料のスライド法尺度に消費者物価指数を採用すること自体が間違っている。」と。

 事務所賃料、店舗賃料の継続賃料の鑑定評価で、スライド法の尺度に消費者物価指数を採用して変動率を求めている鑑定書を見たら、その鑑定書は要注意と考えた方が良い。

 この位の厳しいことを云わないと、最近多く見受けられる不動産鑑定書の評価内容のレベルの低下を防ぐことが出来ないであろう。

 スライド法で採用すべき変動率については、同書P263で次のごとく記述している。

 「賃料は、その建物の属する地域要因、それを取り巻く社会的、経済的、行政的要因が複雑に入り交じって形成されているのであるから、賃料の変動率は、当該建物の所在する地域、或いは類似地域の賃料の変動率でもって求めるものがベストである。これに優る変動率の尺度は無い。」

C 相関図

 事務所賃料と消費者物価指数との間に相関関係があるか否かは、相関図を見ればより良く分かる。

 縦軸に都心5区事務所賃料、横軸に消費者物価指数・家賃を取り、上記データをプロットすると、はっきりと相関関係の程度の有無が分かる。

 都心5区事務所賃料と消費者物価指数・家賃のプロットの点は、散在し、傾向がはっきりと認められる散布図で無い。両者の間に強い相関関係があるとは認められない。




都心5区事務所賃料と消費者物価指数・家賃回帰図




 事務所賃料評価のスライド法の尺度として、消費者物価指数(家賃指数)を採用しない方が良い。


  鑑定コラム2411)「店舗賃料の評価でスライド法に消費者物価指数を使うことは妥当か」

  鑑定コラム2412)「店舗賃料と日銀店舗賃料指数との関係」

  鑑定コラム2415)「事務所賃料と日銀店舗賃料指数との関係」

  鑑定コラム2416)「日本銀行事務所賃料指数・東京圏とSC店舗賃料の関係」

  鑑定コラム2417)「日本銀行事務所賃料指数・東京圏と都心5区事務所賃料の関係」

  鑑定コラム2544)「継続家賃のスライド法の尺度に対象不動産の純賃料の変動率を採用は不可」


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