○鑑定コラム


フレーム表示されていない場合はこちらへ トップページ

田原都市鑑定の最新の鑑定コラムへはトップページへ

前のページへ
次のページへ
鑑定コラム全目次へ

263)ある投資法人の単身者用マンション取得価格と利回り(その1)

 ジャパン・シングルレジデンス投資法人というJリート上場の投資法人がある。
 単身者用マンション(シングルマンションと呼ぶ)を投資対象に主として限定した投資法人である。

 投資法人設立者は、株式会社ダーウィン、リーマン・ブラザーズ・インベストメンツ・ジャパン・インク、株式会社クリードの3社である。
 平成17年2月設立、平成17年7月Jリートに上場した。

 上場するに際し17の不動産物件を取得した。うち2件はスーパーホテルであり、単身者用マンションは15物件である。

 ジャパン・シングルレジデンス投資法人のホームページによれば、平成17年4月に取締役会を開き、15物件の購入の決議をしたと云っている。
 このことから取得物件は、平成17年4月時の価格ということになる。

 平成17年6月15日付で、財務省に提出した同投資法人の有価証券届出書記載のリート物件について、利回り等の分析をしてみる。
 
 取得物件の最初の港区芝3丁目にある「メゾン・ド・ヴィレ芝公園」の概要を述べると、下記の通りである。

イ、建築年       平成15年
ロ、戸数        30戸
ハ、賃貸可能面積    1008.32平方メートル
ニ、賃貸面積       782.33平方メートル 
ホ、月額賃料      4,011,000円
ヘ、取得価格      954,000,000円
ト、鑑定評価額     954,000,000円
チ、直接還元収益価格  975,000,000円
リ、DCF法収益価格    932,000,000円 
ヌ、積算価格      628,000,000円

 このデータより次のごとく分析する。
a、戸当り面積      1008.32÷30=33.61平方メートル
b、賃料単価             4,011,000円÷782.33=5,127円
c、戸当り月額賃料       5,127円×33.61≒172,300円
d、賃貸面積当り価格     954,000,000円÷1008.32≒946,000円
e、粗利回り             (4,011,000円×12)÷954,000,000円=0.050
f、還元利回り          
  減価償却費を必要諸経費に含めない必要諸経費率を、賃料収入の25%とする。
                        0.050×(1-0.25)≒0.038
g、DCF法収益価格と積算価格の開差率
                        932,000,000円÷628,000,000円≒1.48
h、積算価格での粗利回り  (4,011,000円×12)÷628,000,000円≒0.077
i、積算価格での還元利回り 0.077×(1-0.25)≒0.058
i、空室率             (1008.32-782.33)÷1008.32≒0.224 
という分析結果が得られた。

 上記データを見るといささか奇妙な数値の関係に気づく。

 一つ目は、取得価格と鑑定評価額とが同額である。
 二つ目は、直接収益還元法の収益価格とDCF法の収益価格の金額が極めて近接しており、鑑定評価額は2つの収益価格のほぼ中央値で決められている。
 三つ目は、積算価格とDCF法の収益価格との間に開差が有り、DCF法の価格が積算価格の1.48倍であることである。
 四つ目は、空室率22.4%の賃貸物件の還元利回りが3.8%であることである。

 他の14のデータも下記に示すが、15件の平均取得価格(1,622,900,000円)と平均鑑定評価額(1,629,300,000円)の間の開差は、1.004、つまり0.4%しかない。ほぼ同額である。

 この価格の数値を見て、ある不動産業関係者は、
 「ちよっとおかしいでは無いか。
 売主と買主はそれぞれ対立しており、思惑がある。

 買主は少しでも安く買おうと考え、売主は少しでも高く売ろうとするものである。
 中には不動産鑑定評価額で売買合意することもあろうが、15件全部が不動産鑑定評価額のほぼ近似か、或いはぴったり同額ということなぞあり得るであろうか。信じがたいことである。
 買主は、自分の思惑より高い価格であるならば、安くする交渉をし、売主がそれに応じれば購入するが、売主が応じなければ購入をあきらめるのが一般の不動産取引である。」
と云う。

 収益価格に直接還元法とDCF法による2つの価格が求められている。2つの価格が同額か、これまた近似の価格である。
 DCF法に借入金を考えておれば、この様な現象は生じないハズである。
 どうも借入金を考えずに収益価格が求められているのでは無かろうか。

 とすると、DCF法の価格に歯止めが架からなくなる。
 還元利回りをいじくれば、如何様な金額でも求められることになる。これがDCF法収益価格の最も危険とすべき所である。
 還元利回り6%を3%にすれば、価格は倍に求められるのである。

 借入金の金額、借入金の金利及び返済期間次第では、元金の返済、支払金利の額があることから、DCF法の価格は赤字の価格にすら成りうるのである。

 賃料収入より必要諸経費を差し引いた賃料純収益の7割までを限度として、借入金の元金の返済、借入金利の返済額とするDCF法の求め方をするならば、逆算的に借入金の最高額が決められことになる。

 これがDCF法の価格暴走を防ぐ役目をしてくれる。

 また、収益価格の中で借入金の返済額、支払金利の額がどれ程かわかり、その額を前提にして収益価格が求められていると分かることは、価格の透明性を形成することになり、投資家にとって安心して投資出来ることになる。
 価格の透明性があると云うことは、DCF法収益価格の信頼性が大変高まることになる。

 DCF法収益価格が932,000,000円であることはわかった。
 ではその932,000,000円のうち借入金がどれ程で、その元金の返済額がいくらで、支払金利はどれ程なのだ。残った利益はどれ程なのだ。その利益より配当を例えば4%する余裕があるのか。その例えの4%の配当が出来ない状態ではないのか。
 これらのことが、投資家に分かるようにして書かれた収益価格932,000,000円の不動産鑑定書であろうか。

 賃料に基づくDCF法であるから、評価額は適正であり、かっての土地バブルには成らないという発言を耳にすることがあるが、その様な発言を私は信用することは出来ない。

 上記データ分析では、DCF法の価格が、積算価格の1.48倍である。
 下記に掲載する№8のデータでは、2.09倍である。取得価格は、DCF法の価格を重視した結果2.06倍である。
        1,127,000,000円÷548,000,000円=2.06

 積算価格の2倍が適正な価格とは。空室率が19.3%もある状態であるにもかかわらずである。
 一体積算価格は何の為にあるのであろうか。

 DCF法価格が積算価格より下位にあるのは、
          名古屋市西区     0.97
          札幌市北区      0.66
の2件のみである。他は全てDCF法の収益価格が積算価格を上回っている。
 積算価格に対してDCF法収益価格の価格倍率の平均は、1.29倍(標準偏差0.32)である。
 標準偏差1倍の範囲での価格倍率は、
        0.97~1.61
である。№8のデータの2.09倍は標準偏差の1倍をはるかに超えて存在している。

 統計学に詳しい人が2.09倍の数値を見たら何と云うであろうか。
 平均1.29、標準偏差0.32の条件数値より見ると、2.09倍のデータ数値は2.5%の有意水準が得られないものとして、たちどころにそのデータに疑問符がつけられるかもしれない。

 空室率が22.4%という高い空室率で、貸主は持ちこたえることが出来るであろうか。持ちこたえることが出来れば、それに越したことはないが、空室率が22.4%という高い空室率は、投資家に対して不安感を与える。空室率を低くするには賃料を下げざるを得ないのでは無かろうか。

 還元利回りについての分析を次に述べたいが、文章が長くなるから、(その2)の鑑定コラムの記事で述べることにする。

 上記で述べた分析のデータは下記に掲載する。

  ジャパン・シングルレジデンス投資法人   所在等            
               
  マンション名 所在 賃貸可能戸数 賃貸可能面積 賃貸面積 空室率 月額賃料円
               
№1 メゾン・ド・ヴィレ芝公園 港区芝3丁目 30 1008.32 782.33 0.224 4011000
№2 メゾン・ド・ヴィレ三田 港区三田3丁目 47 1436.83 1255.35 0.126 6274000
№3 クレグラン高輪 港区三田4丁目 29 1131.66 1071.07 0.054 4405000
№4 ラ・レジダンス・ド・白金台 港区白金台5丁目 28 1089.98 1012.58 0.071 5001000
№5 メゾン・ド・ヴィレ銀座東 中央区新富1丁目 74 2072.39 1912.11 0.077 8425000
№6 メゾン・ド・ヴィレ八丁堀Ⅱ 中央区新川2丁目 84 2750.56 2321.52 0.156 10293000
№7 メゾン・ド・ヴィレ八丁堀Ⅲ 中央区新川2丁目 37 1447.33 1270.92 0.122 5299000
№8 クレグラン銀座レジデンス 中央区銀座1丁目 45 1118.84 902.54 0.193 4524000
№9 トゥールジョーヌ駒沢公園 世田谷区駒沢2丁目 287 8141.02 7515.58 0.077 39298800
№10 メゾン・ド・ヴィレ梅田 大阪市北区曽根崎1 147 4469.53 4223.24 0.055 18728000
№11 メゾン・ド・ヴィレ中之島 大阪市北区中之島3 38 1242.3 1242.3 0 4941265
№12 ジュネス阿波座 大阪市西区立売堀4 63 1618.38 1618.38 0 4622000
№13 T'sDream丸の内 名古屋市西区幅下2 72 1981.26 1953.67 0.014 4973000
№14 メゾン・ド・ヴィレ北23条 札幌市北区23条西7 30 810.9 729.9 0.1 1448000
№15 グランブルー平尾 福岡市南区那の川2 199 6262.12 5506.42 0.121 13171409
               
平均           0.093  
標準偏差           0.0640  



価格等            
             
取得価格円 鑑定評価額円 直接還元収益価格 DCF法収益価格 積算価格 DCF法/積算価格
             
№1 954000000 954000000 975000000 932000000 628000000 1.48
№2 1250000000 1250000000 1280000000 1220000000 937000000 1.30
№3 900000000 900000000 912000000 879000000 818000000 1.07
№4 947000000 947000000 968000000 926000000 633000000 1.46
№5 1613000000 1630000000 1640000000 1580000000 998000000 1.58
№6 2170000000 2170000000 2180000000 2100000000 1660000000 1.27
№7 1010000000 1010000000 1020000000 989000000 866000000 1.14
№8 1127000000 1144000000 1201000000 1144000000 548000000 2.09
№9 7072200000 7100000000 7240000000 6960000000 4320000000 1.61
№10 2850000000 2850000000 2880000000 2820000000 2410000000 1.17
№11 645000000 650000000 656000000 644000000 514000000 1.25
№12 664800000 669000000 671000000 666000000 579000000 1.15
№13 695000000 695000000 697000000 692000000 716000000 0.97
№14 145000000 150000000 155000000 147000000 223000000 0.66
№15 2300000000 2320000000 2363000000 2320000000 1973000000 1.18
             
平均 1622900000 1629300000 1655900000 1601300000 1188200000 1.29
標準偏差           0.32



賃料単価等        
         
  戸当り面積 賃貸面積価格 賃料単価 戸当り賃料
         
№1 33.61 946000 5127 172300
№2 30.57 870000 4998 152800
№3 39.02 795000 4113 160500
№4 38.93 869000 4939 192300
№5 28.01 778000 4406 123400
№6 32.74 789000 4434 145200
№7 39.12 698000 4169 163100
№8 24.86 1007000 5013 124600
№9 28.37 869000 5229 148300
№10 30.4 638000 4435 134800
№11 32.69 519000 3978 130000
№12 25.69 411000 2856 73400
№13 27.52 351000 2545 70000
№14 27.03 179000 1984 53600
№15 31.47 367000 2392 75300
         
平均 31.34 672400 4041 127973
標準偏差 4.58 241751 979 40372

フレーム表示されていない場合はこちらへ トップページ

田原都市鑑定の最新の鑑定コラムへはトップページへ

前のページへ
次のページへ
鑑定コラム全目次へ