2006年9月7日に静岡市に行ってきた。
社団法人静岡県不動産鑑定士協会が開催する研修会の講師に招かれて、午後1時から4時まで3時間の講演を行った。
講演の演題は、「賃料の求め方について」であった。
参加者は静岡県の協会に所属する会員のほか、西隣の愛知県等の会員も出席していると、事務局長より聞いた。
参加者数は90名近くの不動産鑑定士の方々であった。
何故、私に研修会の講師をということの疑問があったが、静岡県不動産鑑定士協会の会長の開会の挨拶を聞いていて、その疑問が解けた。
地方においては賃料(地代・家賃)の評価する機会は少なく、大半の不動産鑑定士は賃料評価の経験をしていない。
しかし、最近の裁判所の判決で、鑑定基準が示す賃料評価の手法を全面的に否定する判決が出現した。判決で全面否定されるという事態をそのまま無関心にしておくことも出来ない。賃料を評価する機会が少ないかもしれないが、不動産鑑定士として、やはり賃料の求め方の知識を深めておくべきではないのかという内容の挨拶であった。
賃料が大切なことは、私が今更言わなくても良いであろうと思うが、未だ賃料の大切さを認識しない不動産鑑定士が多い。
収益(賃料)あっての不動産価格である。
不動産価格は、その不動産が生み出す収益の把握が出来なければ、求められないハズのものである。
それが、収益なぞ関係無く、不動産の価格が求められるのである。
それは取引事例比較法という手法があるからである。
あそこの土地がいくらで売れたから、あそこと比較するとこちらの方が駅に近いとか、環境が良いからとかの理由で比較すると、これくらいであると言って、土地価格が求められていた。
当該土地でどれ程の収益(賃料)が得られるから、当該地の土地価格は○○円であると言う考え方は殆ど行われなかった。
土地バブル経済の崩壊後、収益による考え方が見直され再認識されてきた。
それは不動産鑑定士が主導したのでは無い。土地購入する人が、賃料収益からの採算ベースに乗らない限り土地の購入をしなくなったために、不動産鑑定もそうした考えで土地価格を評価せざるを得なくなっただけである。
では収益の元である賃料はどの様にして求められるのかと言うことになると、その知識は多くの不動産鑑定士には無い。もともとそうした訓練を受けたことが無いのであるから、無いことを批判しても仕方がない。
それで不動産鑑定評価をやってこられたのである。また今後もやっていけるであろう。
不動産学部を看板に掲げている大学ですら、「賃料評価」の講座を持っていないのである。賃料に対する認識の薄さは、それを知るだけでも程度が分かろう。
3時間の間に、新規賃料、継続賃料、収益賃料、地代の全てを、具体的な求め方の事例を入れて、充分の内容で説明することは時間が少なくて困難である。
私の今迄の経験で、法廷で弁護士と喧嘩し、準備書面で反論し、多くの理解不足の不動産鑑定士の誤った批判等で得た賃料評価の間違いやすい個所を重点的に話した。15分の質問時間を予定していたが、その時間もなく、3時間マイクを握って話した。質問時間を省いてしまったことに対して、静岡県の協会の会長さんには申し訳無いと謝りたい。
賃料評価の経験の全く無い人にとっては、講演内容はチンプンカンプンであったかもしれない。そして鑑定評価にも、別の世界があるということを知ったかもしれない。
少し賃料評価をした人には、自分も覚えのある間違いをしていたと、我田引水かもしれないが感じたのでは無かろうか。
ある勉強会で、ある人が言っていたことを思い出す。
「日本全国を市場調査するには大変な費用がかかる。その代替として静岡県で市場調査を行うと、その結果が日本全体の結果にほぼ等しい。
それ故、静岡県のアンケート調査・市場調査で全国の趨勢を予測出来る。」
と。
その考え方が正しいか否かは私は分からない。
何故そういう統計分析での見方が出てくるのかは、人口構成、民力の水準、DID(人口集中地区)、購買力等よりの面からの日本の縮図的中庸分析結果と、実際の調査の結果によって裏付けられた事実が存在したためであろう。
静岡県が日本の平均的数値を示していると分析されたのであろう。
それは県民性が、保守的・平均的と言うことにも繋がる。
これらマーケット・市場調査の代替性という静岡県の社会的・経済的・生活的認識、県民性の特徴を知って、翻って不動産鑑定評価で考えると、今回静岡県不動産鑑定士協会が賃料評価の講演企画を考えたということは、協会会長等の企画者は認識していないかもしれないが、不動産鑑定評価における「賃料評価」の存在認識がもはや無視出来ない状況に来つつあることを示唆しているのでは無かろうかと私には思われる。
不動産鑑定士の不動産鑑定評価に対する認識も、変わりつつあると私は受け止める。
今回私に賃料の評価についての講演の機会を与えてくださった、社団法人静岡県不動産鑑定士協会の会長、幹部の方々に感謝したい。
鑑定コラム1058)「大阪府不動産鑑定士協会での講演」