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325)香西泰第7代政府税制調査会会長

 昨年(2006年)の暮れになって、政府税制調査会の会長を巡って安倍晋三政権はドタバタ劇を演じた。

 第6代目の政府税制調査会の会長に任ぜられた本間正明大阪大学大学院教授が、任期3年あるにもかかわらず、会長に任命されてからわずか1ヶ月半で辞任する騒ぎが発生した。

 ことの発端は週刊誌に取り上げられた記事内容によるものである。
 週刊誌の内容を報道する日本経済新聞、読売新聞等の新聞記事によれば、政府税制調査会会長の本間教授は、都心一等地にある公務員宿舎に低額な家賃で入居していることが取り上げられて、与党の主要な政治家達から批判が相次いだために、辞任せざるを得なくなったようである。

 現在日本のGDP500兆円をはるかに超える莫大な国家借金が、経済成長することによって返済出来ると主張する本間会長への反発という意見もある。

 他方、本間会長の考え方を支持する一部証券アナリスト等の中には、本間会長を引きづり降ろす主要政治家達、マスコミに対して、引きづり降ろすことに対する正当な事由を示すべきであると主張する人もいる。

 大阪に住んでいる大阪大学の教授が、何故、東京の公務員宿舎に低額に入ることが出来るのか。
 東京にある公務員宿舎は、東京若しくは周辺の官公庁に勤める人々の為の宿舎である。
 大阪の国立大学の教授は国家公務員であるからと言って、東京の公務員宿舎に入居しても良いという言い訳の合理性は無い。

 大阪の公務員は大阪にある公務員宿舎に入居し、東京の公務員は東京にある公務員宿舎に入居するのが、公務員宿舎使用のルールでは無いのか。

 本間教授の行為はルール違反であり、アンフェアな行為では無かろうか。
 ルール違反であり、アンフェアな行為の、この本間教授の東京の公務員宿舎入居の行為に正当性は無い。

 審議会への東京出張に伴う宿泊は、東京のホテルを利用すればよい。
 そのホテル費用負担が多大であるから公務員宿舎の入居を認めたと言う言い訳もあろうが、その様な言い訳には合理的理由はない。
 政府税制調査会の会長の東京出張に伴うホテル代をけちる程、財務省、政府はケチなのか。ならば政府税制調査会の会長は、宿泊費の必要の無い東京に住む人にすれば良かろう。

 本間会長は東京の低額な公務員宿舎なぞに入居せず、審議会の上京の時は、ホテル宿泊を何故しなかったのか。ホテル宿泊費は政府から出されるであろう。
 民間企業の場合、東京・大阪間の出張の場合、日帰り出張が一般的ではなかろうか。

 本間会長は東京の低額な公務員宿舎なぞに入居するというルール違反などせず、どうしてホテル宿泊か日帰りというまともな判断が出来なかったのか。
 大阪大学大学院教授という職にある人が、上記のまともな判断がどうして出来なかったのか。

 政府税制調査会とは、そもそもどういうものなのか。
 財務省のメルマガによれば、
 「内閣総理大臣の諮問に応じて、税制に関する基本的事項を調査審議し、諮問事項に関する意見を内閣総理大臣に答申する」機関という。
  
 政府与党の自民党にも、自民党の税制調査会というものがあり、今迄随分と自民党税制調査会と政府税制調査会とは意見の違いで喧嘩をやって来ている。

 政府税制調査会は1959年に創られ、下記の人々が歴代会長をおこなってきた。
 

 初代  中山伊知郎   1959〜1965年  一橋大学学長
 2代  東畑精一    1965〜1974年  
 3代  小倉武一    1974〜1990年  
 4代  加藤寛     1990〜2000年  慶応大学教授
 5代  石弘光     2000〜2006年  一橋大学学長
 6代  本間正明    2006〜2006年  大阪大学大学院教授

 初代から5代までの会長は6〜10年間の期間、在職している。
 6代目の本間正明会長のみ、わずか1ヶ月半の在職である。
 政府税制調査会の会長の任期は3年間であるから、1ヶ月半の退陣は病気・死亡が原因しているならば止むを得ないが、それ以外の理由による退陣と言うのであるとするならば、それは異常というか、異様と言うべきものであろう。

 政府税制調査会の会長の任命権は内閣総理大臣である。
 政府税制調査会の会長が1ヶ月半で退陣する事態になったことによって、まともな任命権の発動であるとはとてもいえるものでは無い。

 2006年12月26日に、次期7代目の政府税制調査会の会長として、シンクタンクの一つである日本経済センター元会長の香西泰氏の就任が決定した。

 香西泰氏も経済成長重視の考え方を持ち、本間正明前会長と姿勢は同じである。
 年齢が73才ということもあり、果たしてどこまで、莫大な借金を抱える国家財政の建て直しをしなければならない安倍政権の経済成長路線を、税制面から支援する体力があるかどうか。

 そもそもGDPの500兆円を遙かに超える国債等の借金が何故生じたのか。その原因は何だったのかを、根本から考え無ければ、傷んだ国家財政の建て直しは無理だ。

 その原因の一つに土地価格の暴騰、暴落が絡んでいることは否定しがたい。
 土地価格を甘く見た土地価格行政の無策が、莫大な借金を国が抱え込んだ原因の大きな一つであろう。

 国交省に地価調査課がある。あたかもこの課が土地価格行政を取り仕切っていると思いがちであるが、地価調査課を擁護するつもりはないが、地価調査課には土地価格の暴騰、暴落を引き留める力は全く無い。
 土地価格行政は政府全体が取り組むべきものであって、一つの課が単独で土地価格行政が出来ると言うほど、土地価格は生やさしいものではない。

 ただ土地価格、土地価格動向に一番近くにいて、それらを知りうる役所の課であるから、土地価格政策が日本経済にどの様な影響を与えるのかの政策提言、そして政府内での政策実行への説得は行えるハズである。

 いささか古いが、7代目の政府税制調査会の会長になる香西氏の考え方が、如実にでていると思われるインタビュー記事を紹介する。

 2001年3月15日の日本経済新聞の「どうするニッポン」の特集記事で、山崎弘記者のインタビュー記事の中で、香西氏は銀行、税制、土地価格について、次のごとく大意述べている。
 しかし、日本経済新聞も立派だ。確実にその時点でキーマンにインタービューをして、考え方を引き出している。それが記録として残されている為に、後日役に立つ。新聞は考えの歴史を刻んでいると言える。

 香西氏のインタビューの大意は以下の通りである。

 銀行については、
 「90年代の銀行再建策は失敗だった。不良債権処理の遅れで銀行への公的資金の再注入、銀行の国有化もある。」
と述べ、
 「政策として銀行に劣後債を発行させ、市場に銀行を選別させよ。」
と提案している。

 税制に対しては、
 「リスクの少ない給与所得とリスクの大きい株式投資とを同じように課税することは疑問である。」
という。

 土地価格に対しては、
 「地価も東京都心では収益還元価格に近づいており、大底が見えてきた可能性がある。」
と述べている。

 日本を代表するエコノミストの一人である香西氏が、90年代の銀行再建策は失敗だったと発言したことは、その与える影響は大きい。

 税制については、給与所得と株式投資所得とは別であると考えている。

 土地価格は香西氏のいう通り、2001年頃は都心の商業地では5〜6%の還元利回りによる収益価格と比準価格とが、ほぼ同じ価格水準になってきている。渋谷等の都心商業地の地価は、2002年が底値であったから、香西氏はかなり正確に土地価格を把握しているようである。
 しかし、現在その還元利回りが2〜3%になり、都心商業地の地価は暴騰している。この土地状況を2001年の時のように的確に把握しているかどうか。

 そして地価暴騰が引き起こす悪現象、即ち土地固定資産税、相続税の増額化である。土地固定資産税が上がって、次に控えるのは、家賃、地代の上昇である。これらに対してどの様な税制政策を提言するのか。

 土地固定資産税、相続税が上がることは、課税する側の地方公共団体、政府は大喜びであろうが、納税する側の国民にとっては、一部不動産業者等の金儲けをせんがためによって引き起こされた土地価格暴騰現象によって、土地固定資産税、相続税が上がることはたまったものでなく、大変迷惑な政策である。
 香西氏はこの土地税制に踏み込む気があるかどうか。

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