不動産鑑定業界の中で異変が、最近起こりつつある。
私の多くない知り合いの地方の不動産鑑定事務所に勤めていた働き盛りの若手不動産鑑定士が、地方の不動産鑑定事務所を辞めて、東京に職場を求めてやって来た。
一人だけの現象ならば、それは個人の人生のありがちなことと受け止められる。
しかし、一人だけでなく次々と、多くない知り合いの若手不動産鑑定士が、数人もほぼ同じ行動をとって上京してくるとなると、そうしたことは今迄無かった現象であることであるから、
「これは何かあるな。」
と考えざるを得ないであろう。
上京した理由を聞くと、ほぼ全員が、
「不動産の証券化の仕事に携わりたくて、上京してきた。」
という。
地方での不動産鑑定評価の仕事の将来性に見切りをつけているようである。
公共用地買収関係の仕事は殆ど無くなった。
不動産鑑定評価が入札制度に馴染むかどうかについては、私は疑問を持つが、入札制度の導入によって採算割れの鑑定評価が多くなってきた。
鑑定報酬料が際限なく低廉化しつつある。
地価公示価格評価、固定資産税の標準宅地評価、相続税路線価の意見価格の仕事に愛想を尽かし、もうそれらの仕事はしたくないという人もいる。
東京にある内外の信託投資銀行等は不動産証券化に関する求人募集を、新聞で何度も大々的に行っている。
大手不動産会社も、新しいリート市場、不動産ファンド市場の拡大の為か、不動産鑑定士を募集している。
これら東京を中心とした不動産証券化市場への不動産鑑定士の求人に、地方の不動産鑑定士は将来の夢を託して、上京してくるようである。
かっては、東京の不動産鑑定事務所で修行して、地元に帰って開業したのであるが。
不動産証券化といっても、職種は多く分かれており、それぞれの知識・能力が必要である。
不動産証券化のコアの部分をやりたいと言っても、雇用する企業はそんなに甘くない。数年は周辺の業務で知識、実力を蓄える必要があろう。
とはいえ、若い不動産鑑定士が、一般の不動産鑑定評価の実務経験を身につけて、なお別の分野の不動産証券化の業界に活路を見いだそうとする意欲は買いたい。応援してやりたい。
こうした地方の実務を充分積んだ若手不動産鑑定士が上京してくる現象を私は知って、東京の不動産鑑定士及び鑑定業者の団体である(社)東京都不動産鑑定士協会に、2007年の4月頃電話で問い合わせてみた。
「地方から東京に移動してくる若手不動産鑑定士の数は分かりますか。」
と。
東京会の返事は、
「東京会では入会者数は分かるが、その人が地方の鑑定事務所を辞めて、東京会に入会したかどうかというデータはとっていません。わかりません。」
であった。
無理からぬ返事である。
東京会が分からないのであるから、全国規模の組織である(社)日本不動産鑑定協会に聞いても、なお分からないであろう。
そもそも、不動産証券化の方に職を求めようとする若い不動産鑑定士が、東京会、日本不動産鑑定協会に入ろうとするか否かである。
話してみると、上京してきた若い不動産鑑定士達は、鑑定協会に入会する気などサラサラないようである。
憂う。
優秀な若手不動産鑑定士を、突然失った地方の個人不動産鑑定事務所を。