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358)2007年6月14日の「不動産鑑定の監視強化」という日経のトップ記事

 2007年6月14日の朝、同日の日本経済新聞の朝刊のトップ記事を見て、目を丸くして驚いた。

 新聞右上隅の「日本経済新聞」という縦書きの新聞名の左隣に、新聞名より大きく黒字下地の白抜き活字で、
 「不動産鑑定の監視強化」
と記事名が踊る。

 不動産鑑定が、日経のトップ記事になることは今迄無かった。

 現在、国会で大問題になっている5000万人分の年金記録の行方不明とか、参議院選挙を控えて重要法案が成立するかどうかという報道すべき重要な内容のものがあろうと思われるが、それらを押しのけて上記のヘッドラインである。

 そして、「価格算出の基準を統一 開示義務付け 国交省」とサブの見出しが続く。

 記事の内容は、新しい不動産鑑定の監視機構を作るというものである。
 不動産鑑定評価が適正かどうか審査する第三者機関を作り、不適切な鑑定の場合には、その第三者機関が日本不動産鑑定協会に改善を要求し、かつ、国交省は悪質なケースの場合には、その不動産鑑定書を発行した不動産鑑定事務所に立ち入り調査し、不動産鑑定書を書いた不動産鑑定士の登録抹消等の処分を行うというものである。

 どうしてこういう機構組織を作ろうとするのかは、これまで何回も続いた不動産証券化、不動産ファンドに伴う不適切な不動産鑑定書の存在が、金融庁より指摘されたことによって、国交省は不動産鑑定の監督官庁として動かざるを得なくなったものであろう。

 日経は、審査する第三者機関を設立する国交省の動きを、不動産の証券化の市場の拡大に伴い、一般投資家への被害を防ぐことを目的とすると述べる。

 金融庁と国交省との間で、どういうやりとり話し合いがあったかは、私は知る由もない。

 古い私の中央官庁の官僚組織の権力機構の認識で考えれば、大蔵官僚は官僚の中の官僚である。国家は自分達が動かしているという認識を持っている。

 国の財政、予算を握っている省の強みで、大蔵官僚と建設官僚とでは、同じ官僚でも雲泥の差がある。
 現在は時代が変わって、そんなことは無いといっても、官僚組織はそんなヤワなものではない。官僚の格差は厳として存在しているであろう。

 金融庁は、財務省から分離した組織であり、かっての大蔵官僚に属するものである。

 国交省の地価調査課は、建設省の流れに入る役所である。

 私が推定するに、国交省地価調査課は、金融庁から不動産証券化に伴う不当鑑定と呼ぶにふさわしい不動産鑑定書の横行について、不動産鑑定の監督官庁としての苦言をいわれたのでは無かろうか。

 これに対して、国交省地価調査課は、
 「何を言うか金融庁。
 自分達は不動産鑑定評価の監督をしっかりと、適切に行っている。
 余分なことを言うな。」
と金融庁に対して、自分達の監督責任の正当性を真っ向から主張して反論出来たのであろうか。

 金融庁に対して正当性の反論が出来なかったのでは無かろうか。
 それ故に、今回の第三者審査機構という組織を考えざるを得なくなったのでは無いのか。

 1年程前だったか。
 不動産フアンドによる不動産鑑定の不当性が金融庁より指摘された時、ある不動産鑑定士が、事件より不動産鑑定の将来を洞察し、心配し、
 「不動産証券化に関する不動産鑑定に限り、第三者による審査機関を設け、そこで鑑定書の妥当性を検討すべきである。」
ということを主張・提案した。

 その主張・提案には、日本不動産鑑定協会も国交省の地価調査課も、誰も耳を貸さなかった。

 しかし、今回の日経の報じる監視機構の構想は、その不動産鑑定士が1年程前に主張・提案した考え方、そのものではないのか。

 国交省は今回の構想は自分達が考えたものであると、当然主張するであろう。
 1年程前に一人の不動産鑑定士が主張・提案したことなど知らなく、たまたま同じ構想になったに過ぎないというであろう。
 それならそれでよい。

 しかし、私は、国交省がたまたま同じ構想になったと言ったとしても、今回の監視機構の考えを、既に1年程前に思いつき主張・提案した一人の不動産鑑定士の独創力・洞察力に敬意を表したい。

 一つ面白くないことがある。
 日経のヘッドラインだけを見ると、読む人はあたかも不動産鑑定士全員が、不正な不動産鑑定評価を行っているごとくの錯覚に陥りかねない。

 そもそも、不動産鑑定の監視強化をしなければならない政策をとらねばならなくなったのは、そうした原因を作った不動産鑑定書が存在したと言うことであろう。

 ならば、その不動産鑑定書を発行した不動産鑑定業者、鑑定を行った不動産鑑定士を、まず先にそれなりの処分を行ってから、監視強化の政策を行うべきものでは無かろうか。それが物事の順序というものであろう。処分を行ったということはあいにくと聞かない。

 先に不正、不当と思われる鑑定評価を行った人、業者はお咎めなし。即ち、先にやったものが得して勝ち儲け逃げ。後に続く人は処罰の対象にしますょというこの行政の姿勢を、先にやって得して勝ち儲け逃げした人達は、せせら笑っているのでは無かろうか。
 その様な差別待遇の行政は納得できるものではない。
 それは甚だ公平性に欠ける政策では無かろうか。

 しかし、私には、2007年6月14日の日本経済新聞のトップ記事の取り扱いは、どうも解せない。何か別の目的・意図があるのでは無かろうか。

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